4 / 20
一章
04 人気者。
しおりを挟むなんなんだろう。
日を改めて、私の一年記念を祝うことになった。
張り切ったアッズーロは、子鹿を見事に仕留めて胸を張る。そして褒めてと言わんばかりに、頭をズリズリと擦り付けられた。いや最早、ゴリゴリだ。
どんだけ撫でられたいんだよ。
ぐしゃぐしゃと髪を乱すぐらいに撫でてやれば、アッズーロは満足げになった。
「「ヴェルミ、おめでとう!!」」
「おめでとう!!」
初めて名前を呼ばれた気がする。
ノームの双子ちゃんとセイレンの女の子から、花の冠をもらった。
名前はなんだったか。聞いたことない。
「皆が摘んで作ったものだ」
相変わらず低い声を出すフランケン院長から聞くと、どうやら孤児院の皆で摘んできたらしい。それは意外だと目を大きく開く。
「そう……」
子ども達を見回す。笑顔を向けて目も合わせている。珍しい光景。
一人、ニーヴェアだけはちょっと離れているけれど、目が合った。すぐにプイッと逸らされたけど。
「ありがとう」
ここは礼を言うところだろう。私はそれだけを言ったのだけれど、人間の子ども達に頼み込まれて、花冠を頭の上に乗せた。子ども達は満足げに笑みを溢す。
鹿の血をコップ一杯飲み干して、私も満足してお腹を撫でた。
翌日は、子ども達に遊んでほしいとせがまれる。
いつも中心にいるニーヴェアは面白くなさそうにむくれているが、それに気付くことなく子ども達は「カゲであそんで!」と言う。
「私の影遊びは、遊びで使うものじゃないの」
「カゲあそびっていうの?」
「カゲであそぶ!」
「……」
ネーミングセンスを誤ったか。
仕方ないので、前庭の木陰で座って空気が抜けかけているボールを、影で操って子ども達を遊ばせる。
暫くして、髪がほどけてしまったとノームの双子ちゃんが隣に来た。
ノームは小人族。この世界では、妖精の分類らしい。
赤いとんがり帽子をいつも被っているけれど、髪はおさげにしている。
「ヴェルミ、おねがい」
「いいけど、ゴム切れてるよ。一つ結びでいい?」
一度切れて結ばれたゴムがまた切れている。これはもう使い物にならない。
影遊びをしながら、他の作業が出来るか試すチャンスだから引き受けよう。
「んー、ニーヴェアみたいにおねがい!!」
ニーヴェアみたいとは、無茶なお願いをされてしまった。
ニーヴェアはハーフアップにしている。そしてキラキラしている白金の長い髪。女の子から見て羨ましいのだろう。ハードルが高い。
ノームの双子ちゃんは、黒髪だ。それも肩につくほどのボブヘアー。魔法使いじゃあるまいし、キラキラには出来ない。
んー、とりあえずハーフアップに結んであげよう。
前世で妹の髪をやってあげたことを思い出した。
髪の上部分だけをかき集めて、それを束ねる。ニーヴェアと同じハーフアップだが、物足りない。
そうだ。アレンジしよう。
前世で妹にやってあげたことを思い出した私は、さっそくしてみた。
くるりんと一回転してみれば、捻れて編んだような形になる。
「わぁ! すごい! きれい!」
見ていた双子ちゃんの片割れが声を上げた。
「わたしもして! おねがい! ヴェルミ!」
「いいけど」
背中を向けられて、私は双子ちゃんの片割れの髪もアレンジハーフアップにしてあげる。
双子ちゃんは互いの髪を見て、鏡がわりに確認。そして大喜びした。
気付くと影遊びが終わっている。影なしでも、子ども達はヘコんだボールで遊んだ。
んー、両立は難しいな。
双子ちゃんがキャッキャとしながら戻ったと同時に、私は影遊びを再開させた。
ニーヴェアに睨まれていると知りつつ。
翌朝、気怠げに起き上がり朝の支度をしていれば、双子ちゃんだけではなく人間の女の子にセイレンの女の子にも髪を束ねてほしいと頼まれた。もちろん、昨日の双子ちゃんのように。
ハーフに束ねてくるりんぱ。
面倒なので自分達だけで出来るように、やり方を教えてあげる。
けれども、翌朝も私にやってほしいと来た。私ほど器用には出来ないからと。
朝から勘弁してほしい。朝は弱いのだ。吸血鬼だから。
「はぁ……」
最後のセイレンの女の子の髪を終えて、息をつく私の元にニーヴェアが来た。しかめっ面。文句でも言いに来たのだろうか。
私はただ怯えもせず、無視もせず、ベッドに腰かけたまま見つめた。
ニーヴェアは腕を組んで睨んでくる。
やがて、ずいっと片腕を伸ばしてきた。
お? 手を上げるか?
「……オレも、してくれ」
「はっ?」
拍子抜けの言葉を言われた。
差し出されたのはゴムだ。髪を結んでほしいということ。
「まぁ……いいけど」
しかめっ面が一転、ぱぁっと目を輝かせて背を向ける。私が結びやすいようにその場にしゃがむ。
なんだったんだよ、さっきのしかめっ面は。
キラキラした白金の髪に触れて驚く。女の子達よりも、キューティクル。つやつやで触っていて気持ちよかった。
なんだよ、エルフ。ずるいな、エルフ。
そんなエルフの神秘的な髪も、ハーフに結んでくるりんぱ。
「はい、出来た」
「ありがとう、ヴェルミ。……今日、一緒に街を回らないか?」
「……いいけど」
立ち上がったニーヴェアは、はにかんで手を差し出した。
なので、私はその手を握る。握手だ。
孤児院のリーダーにも、認められたみたい。
「そうか、今日は恵んでもらう日か」
嫌な日だ。家を回って、物乞いをする。
憐れみの眼差しだったり、嫌悪の眼差しを向けられるのだ。
恵んでもらうって言葉、嫌いなのよね。
朝食をすませたあとは、フランケン院長とともに孤児院を出た。
フランケン院長の目が届く範囲で、手分けして家を訪ねる。
エルフの子どもと、吸血鬼の子ども。妙な組み合わせだと思ったのか、変な表情をされた。でも笑顔で猫被りをして、物乞いをする。
全く嫌な習慣だ。
猫被りの効果はなく、収穫はなし。
「私、ここの家に来るの初めて」
見覚えのない一つの家に来た。今まで巡って来なかったのだ。
孤児院の東に位置する街の外れ。
「ここに住んでいるのは、元冒険者だ」
ニーヴェアは言った。
「冒険者?」
「隠居しているらしい」
冒険者ってなんぞ。
ニーヴェアはそれだけを言って、コンコンとドアをノックした。
でも出てこない。
「庭にいるかもしれない」
ニーヴェアが裏に回ろうと歩き出すので、それについていく。
家の横には、畑があった。そこに一人、作業をしている男の人がいる。
あ、この男の人……。
「……なんだ、孤児院の子どもか?」
振り返った男の人は、面長な顔をしていて、顎には黒い髭。掻き上げた
風の黒い髪は短い。眉間にシワを寄せていて、瞳はペリドット色。
「はい。何か恵んでいただけないでしょうか」
「…………待っていろ」
低い声を発して、男の人は今収穫したであろう野菜を選ぶ。
「……名前はなんていうですか?」
「……オレか?」
私は尋ねる。
チラリと私に目を向けた男の人は、新鮮そうなトマトを何個か差し出してくれた。
「イサークだ。悪いがこれくらいしかやれない」
「ありがとうございます」
ニーヴェアが隣でお礼を言う中、私はじっとイサークという名の男の人を見上げる。
相当強い。この男の人。
0
お気に入りに追加
383
あなたにおすすめの小説
拝啓神様。転生場所間違えたでしょ。転生したら木にめり込んで…てか半身が木になってるんですけど!?あでも意外とスペック高くて何とかなりそうです
熊ごろう
ファンタジー
俺はどうやら事故で死んで、神様の計らいで異世界へと転生したらしい。
そこまではわりと良くある?お話だと思う。
ただ俺が皆と違ったのは……森の中、木にめり込んだ状態で転生していたことだろうか。
しかも必死こいて引っこ抜いて見ればめり込んでいた部分が木の体となっていた。次、神様に出会うことがあったならば髪の毛むしってやろうと思う。
ずっとその場に居るわけにもいかず、森の中をあてもなく彷徨う俺であったが、やがて空腹と渇き、それにたまった疲労で意識を失ってしまい……と、そこでこの木の体が思わぬ力を発揮する。なんと地面から水分や養分を取れる上に生命力すら吸い取る事が出来たのだ。
生命力を吸った体は凄まじい力を発揮した。木を殴れば幹をえぐり取り、走れば凄まじい速度な上に疲れもほとんどない。
これはチートきたのでは!?と浮かれそうになる俺であったが……そこはぐっと押さえ気を引き締める。何せ比較対象が無いからね。
比較対象もそうだけど、とりあえず生活していくためには人里に出なければならないだろう。そう考えた俺はひとまず森を抜け出そうと再び歩を進めるが……。
P.S
最近、右半身にリンゴがなるようになりました。
やったね(´・ω・`)
火、木曜と土日更新でいきたいと思います。
侯爵の孫娘は自身の正体を知らない
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
青い髪の少女の子を貴族が引き取りに来た。どうやら孫を探していた様子。だが候補は二人。一人は葡萄(えび)色の瞳のアイデラ、もう一人は青い瞳のイヴェット。
決め手になったのは、イヴェットが首から下げていたペンダントだった。けどそれ、さっき私が貸したら私のよ!
アイデラは前世の記憶を持っていたが、この世界が『女神がほほ笑んだのは』という小説だと気が付いたのは、この時だったのだ。
慌てて自分のだと主張するも、イヴェットが選ばれエインズワイス侯爵家へ引き取られて行く。そして、アイデラはアーロイズ子爵家に預けられ酷い扱いを受けるのだった――。
婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。
風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。
※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました
toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。
残酷シーンが多く含まれます。
誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。
両親に
「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」
と宣言した彼女は有言実行をするのだった。
一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。
4/5 21時完結予定。
唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。
彩世幻夜
ファンタジー
※ 2019年ファンタジー小説大賞 148 位! 読者の皆様、ありがとうございました!
裕福な商家の生まれながら身分は平民の悪役令嬢に転生したアンリが、ユニークスキル「クリエイト」を駆使してシナリオ改変に挑む、恋と冒険から始まる成り上がりの物語。
※2019年10月23日 完結
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる