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一章

04 人気者。

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 なんなんだろう。
 日を改めて、私の一年記念を祝うことになった。
 張り切ったアッズーロは、子鹿を見事に仕留めて胸を張る。そして褒めてと言わんばかりに、頭をズリズリと擦り付けられた。いや最早、ゴリゴリだ。
 どんだけ撫でられたいんだよ。
 ぐしゃぐしゃと髪を乱すぐらいに撫でてやれば、アッズーロは満足げになった。

「「ヴェルミ、おめでとう!!」」
「おめでとう!!」

 初めて名前を呼ばれた気がする。
 ノームの双子ちゃんとセイレンの女の子から、花の冠をもらった。
 名前はなんだったか。聞いたことない。

「皆が摘んで作ったものだ」

 相変わらず低い声を出すフランケン院長から聞くと、どうやら孤児院の皆で摘んできたらしい。それは意外だと目を大きく開く。

「そう……」

 子ども達を見回す。笑顔を向けて目も合わせている。珍しい光景。
 一人、ニーヴェアだけはちょっと離れているけれど、目が合った。すぐにプイッと逸らされたけど。

「ありがとう」

 ここは礼を言うところだろう。私はそれだけを言ったのだけれど、人間の子ども達に頼み込まれて、花冠を頭の上に乗せた。子ども達は満足げに笑みを溢す。
 鹿の血をコップ一杯飲み干して、私も満足してお腹を撫でた。

 翌日は、子ども達に遊んでほしいとせがまれる。
 いつも中心にいるニーヴェアは面白くなさそうにむくれているが、それに気付くことなく子ども達は「カゲであそんで!」と言う。

「私の影遊びは、遊びで使うものじゃないの」
「カゲあそびっていうの?」
「カゲであそぶ!」
「……」

 ネーミングセンスを誤ったか。
 仕方ないので、前庭の木陰で座って空気が抜けかけているボールを、影で操って子ども達を遊ばせる。
 暫くして、髪がほどけてしまったとノームの双子ちゃんが隣に来た。
 ノームは小人族。この世界では、妖精の分類らしい。
 赤いとんがり帽子をいつも被っているけれど、髪はおさげにしている。

「ヴェルミ、おねがい」
「いいけど、ゴム切れてるよ。一つ結びでいい?」

 一度切れて結ばれたゴムがまた切れている。これはもう使い物にならない。
 影遊びをしながら、他の作業が出来るか試すチャンスだから引き受けよう。

「んー、ニーヴェアみたいにおねがい!!」

 ニーヴェアみたいとは、無茶なお願いをされてしまった。
 ニーヴェアはハーフアップにしている。そしてキラキラしている白金の長い髪。女の子から見て羨ましいのだろう。ハードルが高い。
 ノームの双子ちゃんは、黒髪だ。それも肩につくほどのボブヘアー。魔法使いじゃあるまいし、キラキラには出来ない。
 んー、とりあえずハーフアップに結んであげよう。
 前世で妹の髪をやってあげたことを思い出した。
 髪の上部分だけをかき集めて、それを束ねる。ニーヴェアと同じハーフアップだが、物足りない。
 そうだ。アレンジしよう。
 前世で妹にやってあげたことを思い出した私は、さっそくしてみた。
 くるりんと一回転してみれば、捻れて編んだような形になる。

「わぁ! すごい! きれい!」

 見ていた双子ちゃんの片割れが声を上げた。
 
「わたしもして! おねがい! ヴェルミ!」
「いいけど」

 背中を向けられて、私は双子ちゃんの片割れの髪もアレンジハーフアップにしてあげる。
 双子ちゃんは互いの髪を見て、鏡がわりに確認。そして大喜びした。
 気付くと影遊びが終わっている。影なしでも、子ども達はヘコんだボールで遊んだ。
 んー、両立は難しいな。
 双子ちゃんがキャッキャとしながら戻ったと同時に、私は影遊びを再開させた。
 ニーヴェアに睨まれていると知りつつ。

 翌朝、気怠げに起き上がり朝の支度をしていれば、双子ちゃんだけではなく人間の女の子にセイレンの女の子にも髪を束ねてほしいと頼まれた。もちろん、昨日の双子ちゃんのように。
 ハーフに束ねてくるりんぱ。
 面倒なので自分達だけで出来るように、やり方を教えてあげる。
 けれども、翌朝も私にやってほしいと来た。私ほど器用には出来ないからと。
 朝から勘弁してほしい。朝は弱いのだ。吸血鬼だから。

「はぁ……」

 最後のセイレンの女の子の髪を終えて、息をつく私の元にニーヴェアが来た。しかめっ面。文句でも言いに来たのだろうか。
 私はただ怯えもせず、無視もせず、ベッドに腰かけたまま見つめた。
 ニーヴェアは腕を組んで睨んでくる。
 やがて、ずいっと片腕を伸ばしてきた。
 お? 手を上げるか?

「……オレも、してくれ」
「はっ?」

 拍子抜けの言葉を言われた。
 差し出されたのはゴムだ。髪を結んでほしいということ。
 
「まぁ……いいけど」

 しかめっ面が一転、ぱぁっと目を輝かせて背を向ける。私が結びやすいようにその場にしゃがむ。
 なんだったんだよ、さっきのしかめっ面は。
 キラキラした白金の髪に触れて驚く。女の子達よりも、キューティクル。つやつやで触っていて気持ちよかった。
 なんだよ、エルフ。ずるいな、エルフ。
 そんなエルフの神秘的な髪も、ハーフに結んでくるりんぱ。

「はい、出来た」
「ありがとう、ヴェルミ。……今日、一緒に街を回らないか?」
「……いいけど」

 立ち上がったニーヴェアは、はにかんで手を差し出した。
 なので、私はその手を握る。握手だ。
 孤児院のリーダーにも、認められたみたい。

「そうか、今日は恵んでもらう日か」

 嫌な日だ。家を回って、物乞いをする。
 憐れみの眼差しだったり、嫌悪の眼差しを向けられるのだ。
 恵んでもらうって言葉、嫌いなのよね。
 朝食をすませたあとは、フランケン院長とともに孤児院を出た。
 フランケン院長の目が届く範囲で、手分けして家を訪ねる。
 エルフの子どもと、吸血鬼の子ども。妙な組み合わせだと思ったのか、変な表情をされた。でも笑顔で猫被りをして、物乞いをする。
 全く嫌な習慣だ。
 猫被りの効果はなく、収穫はなし。

「私、ここの家に来るの初めて」

 見覚えのない一つの家に来た。今まで巡って来なかったのだ。
 孤児院の東に位置する街の外れ。

「ここに住んでいるのは、元冒険者だ」

 ニーヴェアは言った。

「冒険者?」
「隠居しているらしい」

 冒険者ってなんぞ。
 ニーヴェアはそれだけを言って、コンコンとドアをノックした。
 でも出てこない。

「庭にいるかもしれない」

 ニーヴェアが裏に回ろうと歩き出すので、それについていく。
 家の横には、畑があった。そこに一人、作業をしている男の人がいる。
 あ、この男の人……。

「……なんだ、孤児院の子どもか?」

 振り返った男の人は、面長な顔をしていて、顎には黒い髭。掻き上げた
風の黒い髪は短い。眉間にシワを寄せていて、瞳はペリドット色。

「はい。何か恵んでいただけないでしょうか」
「…………待っていろ」

 低い声を発して、男の人は今収穫したであろう野菜を選ぶ。

「……名前はなんていうですか?」
「……オレか?」

 私は尋ねる。
 チラリと私に目を向けた男の人は、新鮮そうなトマトを何個か差し出してくれた。

「イサークだ。悪いがこれくらいしかやれない」
「ありがとうございます」

 ニーヴェアが隣でお礼を言う中、私はじっとイサークという名の男の人を見上げる。
 相当強い。この男の人。


 
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