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19 告白。

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 一階に戻って、待ってくれていたダレンとアメーに駆け寄る。

「なれたね! 冒険者!」

 がばっと、二人に腕を回して抱き付く。
 ついでに二人をくっ付けておいた。
 すると、アメーの三つ編みした髪が、ダレンのボタンに絡まるアクシデントが発生。

「今、取るから待って」
「うっ、うん……」

 ダレンがすぐにボタンから外してあげようとする。
 アメーの方は、近さに頬を赤らめていた。
 うん、近いねー。
 眺めていれば、ダレンも近さに気付いた。
 二人の周りは、甘酸っぱい空気になる。
 ウブ萌え。

「おい、アイナ! シルバーだった!」
「あ、そう」
「レベル3だ!」
「よかったね」

 イサークも水晶玉に触れたらしく、その結果を報告しにきた。
 後ろでもぞもぞしているのは、尻尾かな。マントの下で尻尾が揺れているのか。犬か。イヌ科か。

「オレ達もシルバーのレベル3でした! イサークさんと同じ!」

 糸目のシンやつり目のコル達も、揃ってレベル3だと嬉々とした報告しに来た。

「おい、あれ、イサーク団じゃねーか? 狩人の」
「ついに冒険者になりやがったのか」
「つか、獣人なのがイサークか? こえーな」
「イサーク団が群がっている少女は?」
「ゴールドランク判定が出た新人だ」

 ギルドに用がある冒険者達が、こそこそ話す。
 丸聞こえだから、こそこそじゃないかも。

「ギルマスに呼ばれたよな? インチキ判定じゃないのか?」
「そんなこと出来るかよ、あの魔導師ラティスの水晶玉だぞ」

 また魔導師ラティスの名前を耳にした。
 相当な力の持ち主なのだろうか。魔導師ラティス。
 小細工が出来ないほどの完璧な判定を出す水晶玉の造り主。

「あのイサーク団!? アイナ、知り合いだったの!?」

 ちょっと目を離している間に、ウブ萌えな空気が終わっていた。
 ダレンもアメーも、獣人姿のイサークに注目する。

「誰だてめぇは!?」

 イサークが、カッと目を開く。

「あっ! ボク、ダレンですっ!」
「アメーと申します」
「私の友だち」

 ダレンとアメーに失礼を言うなよ、と睨んでおく。

「イサーク。シン。コル。……えっと、名前聞いてませんよね?」

 イサーク団も紹介しようとしたけれど、残り二名の名前を私は知らない。

「あっ、ダースと申します」
「ベノです」

 角刈りの男性がダース。
 初めて声を聞いたってくらい無口だったのがベノ。

「あと、アントンさん」

 アメーの後ろについていたアントンさんも、遅れて紹介。

「とりあえず、ギルマスが呼んでいるから、上に行こう」

 ダレンとアメーの手を掴んで、引っ張っていく。
 言わなくとも冒険者になりたてのイサーク団もついてくる。
 アントンさんも、アメーの後ろだ。

「実は仕事の話が来てるんだよ」

 ギルマスのお呼び出しに、いらぬ想像でもしたのか、不安げな色を浮かべるダレンとアメーに階段を上がりながら話す。

「話を聞いて、自分じゃあ無理と判断したなら、降りてもいい。でもいい経験になると思うんだ」

 ダレンの黒い瞳と、アメーの水色の瞳を見て、私は付け加えた。

「あと二人に、いやアントンさんも含めて三人に、私のことを打ち明けるよ」

 依頼を受ける以上、私の正体を知っておいた方がいい。
 変わらず友だちでいてくれるといいけれど。
 応接室に大所帯で戻った私は、早速、ギルマスが座っていたソファーに腰を下ろす。向かいには、ダレンとアメーを座らせ、アントンはアメーの後ろに控えた。

「ダレン。アメティス。アントンさん。黙っていたけれど、私はただの旅人じゃない。私は神シヴァール様と女神フレーア様の娘……神の化身としてこの世界に降臨したの」

 はっきりと打ち明けた。
 イサーク団とギルマス夫婦は、黙ってことの成り行きを見守ってる。

「か、神の化身……!?」

 最初にリアクションを起こしたのは、ダレンだ。
 ソファーから立ち上がったダレンは。

「そんなすごい人と友だちになったなんて! すごい! 夢みたいだ! あっ、友だちで……いいんだよね? アイナ」

 興奮して喜んだ様子から一転、不安げに確認をする。
 ダレンは無邪気だ。それを実感しながら、頷く。

「友だちだよ」

 あとはアメーだ。
 彼女は俯いていた。やがてふるふると震えた。

「アメー?」
「さっき……わたくしのことをアメティスと……」
「ああ、うん。アメーの本名でしょう?」

 違ったのだろうか。
 お父様がそう呼んでいたけれど。

「つまり、……知っていらっしゃったのですね!」
「ん? ああ、アメーの素性のこと?」

 薄々、お嬢様だってことは気付いているけれども。

「わたくしがこの国の姫のアメティスと気付きながら、知らないふりをしてくれたのですわね! なんてお優しい!」
「え!? アメー、お姫様なの!?」
「えっ!?」
「えっ!?」

 感極まっているところ悪いけれど、勘違いしている。
 思いっきりすれ違って、驚いた。

「ち、違いますの!?」

 アメーは赤面してしまう。
 うん。盛大に勘違いしたからそうなるよね。

「いや、王都のお嬢様だと思ってた……まさかお姫様とは」
「ぼ、ボクも、貴族の令嬢かなって思っていた……」

 ダレンも貴族令嬢だと勘付いていたとは、意外だ。
 でも国のお姫様だと知って、ちょっと切ない眼差しをした。私は見逃さなかったので、神様夫婦もそうだ。

『おっとこれは! 高嶺の花だと薄々気付いていたけれど、さらに届かないような高嶺の花だと知ってしまい、想いが苦しくなっている表情では!?』
『そう! 叶わぬ想いを必死にしまおうとしている表情だわ! 間違いない!』

 お父様もお母様も、ダレン達の身分差の恋、大好きだな。

「イサークさんっ! お、おおおお姫様がいるっ!!」
「うるせ黙ってろシン」

 シンがイサークの腕を掴み、興奮しているけれど、イサークは全然興味がない様子。コル達は驚愕して固まってしまっている。

「ていうか、オレ達、頭が高いんじゃ……!?」

 シンのその言葉に慌てて、跪こうとするも、アメーはやめさせた。

「今のわたくしに……頭を下げる必要はありません……」

 俯いた顔は、どこか苦しそうに見える。

「あー、アイナ様が化身で、アメティス様がお姫様だってわかったところで、仕事の話をそろそろしてもいいか?」

 私の後ろの壁に妻のアリーさんと並んで立っていたグラディさんが、口を開いた。

「アメー……って、今も呼んでもいい?」
「も、もちろん!」
「今も友だちでいい?」
「もちろん!」
「また添い寝しても?」
「っ! もちろん!!」

 アメーの隣に、移動をする。尋ねれば、涙ぐんだ。
 私は笑って、アメーを抱き締める。今日も添い寝だね。

「あ、あの。ボクは、ただの冒険者だけど……ボクもアメーって呼んでもいいかな……?」

 恐る恐るとダレンが問うから、私はアメーを離す。

「今まで通りに接してほしいわ、ダレンも」
「うん! 改めて、よろしく、アメー、アイナ!」

 嬉しそうに笑みを零して、ダレンは握手を求めて手を差し出した。
 その手をアメーに譲って握手した二人の手を両手で包んだ。

「よし! じゃあ、仕事の話を聞こう!」

 私達は三人仲良くソファーに腰を下ろして、ギルマスと向き合った。



 ◆◇◆



 氷柱がある。透明で綺麗だ。
 そこかしこと、雪が積もっていて、一面が白い。
 その中に小川が流れている。中を覗いてみれば、水草の中に水色の花が咲いていた。ゆらゆらと揺れている。この小川に手を入れたら、冷たくて痛みすら感じそう。
 確か夢の中で感じることは、錯覚と想像。だからきっと手を入れたら痛みを感じそうだ。

「寒そうな景色ね」

 私が振り返れば、氷柱をぶら下げた洞穴がある。
 その中に、焚き火が置いてあって、そばにはルヴィンスがいた。
 今日は純白のマントを羽織っていて、暖かそう。
 私はルヴィンスのそばまで駆け寄って、そしてマントの中に避難した。
 ちょっとだけ冷たさを感じていたけれど、くっ付く口実としておく。

「ここはどこ?」
「千年山の麓ですよ」
「千年のドラゴンがいるあの?」
「そうです」

 べったりとルヴィンスの腕に抱き付いても、ルヴィンスは嫌がることなく受け入れる。
 目の前の焚き火は、暖かさを感じた。ホッとする。

「昨日は会えなかったわね」
「そうなんですか?」

 ルヴィンスが、意外そうな声を出す。

「何それ。昨日の記憶がないの?」
「すみません。この頃、体内時計が狂っていて……」

 言葉が止まる。
 そんなルヴィンスの顔を、見上げた。

「日付感覚がないの?」
「そうですね。そうなります」

 ルヴィンスはただサファイアブルーの瞳を、焚き火に向けている。

「どうして」
「一人で考え込んでいたのです」

 日付感覚が狂っている理由を問おうとしたら、遮られた。
 それが答えだろうか。

「どうして、私とアイナが出逢ってしまったのか……こうしている理由を一人で考えていたのですが……わかりませんね」
「出逢ってしまったのか、なんて言い方が悪いわね」

 まるで間違いみたい。
 ルヴィンスは、少し自嘲気味に笑みを漏らす。
 それから、私を見下ろした。

「アイナは私のことが好きですか?」

 率直な質問に対して、私は笑う。
 それから、えいっと真正面からルヴィンスを抱き締めた。

「……なんですか?」
「わかりやすく態度で示してる」
「私は言葉で聞きたいのですが」
「あら。男のくせに、私から言わせたいの?」
「それもそうですね、失礼しました」

 フッと笑うルヴィンスは、私の顎を持って、唇についばむように触れる。

「……何今の」
「わかりやすく態度で示しました」
「私は言葉を聞きたかったの」
「ふふ」

 悪戯な態度のお返しに、私も唇を奪う。

「一体、どこで惹かれたのやら……わかりませんね」
「あー最初は互いに印象が悪かったものね」
「ええ、あなたは不法侵入者でしたからね」
「ルヴィンスの刺々しい態度、よく覚えてる」

 互いにクスクスと笑い合った。

「それで? 何か楽しいことはありましたか?」

 好きって言葉を言わせたかったけれど、話を逸らされる。
 まぁいい。
 私は立ち上がった。

「聞いて驚け」
「なんですか?」
「私は冒険者になった!」

 えっへんと胸を張って見せる。

「……へぇ」

 ルヴィンスの反応は、イマイチなものだった。

「しかも、新人なのにゴールドランクのレベル1よ!」
「……そうですか」

 これなら驚くだろうと思ったけれど、これもまたイマイチな反応。

「何その反応! もっと驚いてよ!」

 私はルヴィンスの膝の上に戻っては胸ぐらを掴んだ。

「ですが、アイナは神の化身でしょう? ゴールドランクなんて、当然の結果でしょう。逆にレベル3ではないことに驚きます」
「うう。私だってそう思ったけれど、実戦経験がないからレベル1なのよ、きっと」
「そうですか」

 ルヴィンスの冷静さに、唇を尖らせる私。
 全くもってつまらない。

「なんでまた冒険者になったのですか?」
「好奇心よ。そうだ、初仕事をギルマスからもらったの。なんだっけ……べレスっていう魔物を討伐する仕事よ。一緒に冒険者になった友だちと、私の護衛をどうしてもしたいっていう元狩人達とするの」

 くるくるとルヴィンスの結ばれた白金の髪を、指で弄びながら答える。

「べレスですか……強烈な炎を吹く魔物ですよね」
「そう。あとハーピィの群れが周りにいるって」
「……新人には荷が重いのでは?」

 ルヴィンスが、じっと私の瞳を覗いてきた。
 新人とは、私も含んでいて、心配してくれているのだろうか。

「友だちもシルバーランクのレベル1でハーピィと戦えるし、べレス戦では私は強力な魔法なら使えるから、防壁張って狙い撃ちするだけだよ」

 バーンと銃を撃つ真似をして見せる。

「まぁ、普通のべレスならいいですけれど。中には、一メートル大きなべレスが稀に出没します。それが吐く息は、炎というよりマグマ。人間が食らえば、火傷では済みません」

 あ。そのべレスと戦うんだけれど。
 言うべきかな。

「気を付けてくださいね。アイナ。神の化身だからと言って無理をなさらないように」

 やきもきさせるよりはいいと思い、私は言わないでおくことにした。

「アイナ」

 改まったように呼ぶので、キョトンとしてルヴィンスを見る。

「好きですよ」

 額と額を重ねた距離で、ルヴィンスはそう微笑んで告げた。

「例えーーーー……」

 その言葉の続きは、聞こえなかった。


 
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