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ズボラライフ2 ~新章~
127.娼館ってこんな所
しおりを挟むマズすぎるご飯をやっとの思いで平らげ、水をがぶ飲みした後、私達は街をブラつきながらコリーちゃんの家を目指す。
王都を回る巡回馬車に乗って、のんびり王都を観光するのだ。
「巡回馬車に乗るの初めて!」
窓の部分にはガラスが嵌め込まれていない、風通しの良いシンプルな箱型の馬車で、後ろから乗り込むタイプなのだが、なんと、階段が付いていて2階建てなのだ。
とはいえ、2階部分は屋根に椅子がついているだけの不安定さで、ちょっと上がろうとは思えない。
「わぁ~。馬車の中ってこうなってるんだ~。カルロさんの馬車とは全然違うね~」
「椅子が硬そうです~」
「はしゃぐなよ、他の人に迷惑だろ。トモコは貴族の馬車と一緒にするなよな」
リンに注意されながら乗り込むと、木で出来た座席が目に入る。使い込まれて、変色して凹んでいるそれに、これぞ異世界って感じで、ワクワクする。
お客さんも沢山乗ってきて、あっという間に2階席まで一杯になった。
お洒落をした年配の夫婦や、いかにも仕事というような男性、若い女の子達まで様々な人が乗り合わせている。
面白いのは、お忍び貴族らしき青年も同乗している事だ。
本人は隠しているつもりのようだが、明らかに庶民に手が出せない高級な生地とボタンを使った庶民風な服を着ているのだ。
ちょっとガラは悪そうなので、もしかしたら大店の遊び人な若旦那かもしれない。
やばっ 目があった。
慌ててそらし、街の景色へと目をやる。
最初の頃のひび割れた建物や道が嘘のように綺麗に修復され、人々は楽しそうに歩いている。
雑貨屋や飲食店も増えて、若い女性はオシャレをし、男性は美味しそうに串焼を頬張り、子供は追いかけっこをしている。呼び込みしている声や、笑い声、ケンカしている声と、活気に溢れていた。
中でも一番目についたのは宿屋だ。観光客が増えたようで、それに比例して増えている。
その分治安の悪化も懸念されるが、至る所で騎士を見かけるし、トリミーさんによれば、最近地域ごとに自警団が出来たらしく、巡回しているので女性も一人歩き出来るんだとか。
「みーちゃん、なんか巡回馬車ってイイネ~。お尻はめっちゃ痛いけど」
「だね。街の様子とかも分かるし、気になるお店をチェックできる」
ガッタガッタと上下左右に揺れるが、悪くない。
王都内は東西南北と4つの地域に別れていて、地域ごとに巡回馬車がある。料金は同地域内なら、どこで降りても一律300ジットなのだ。
ちなみに、ドラゴン湖があるのは西門の外なので、湖に行きたい人は西の地域の馬車。王宮に行きたい人は北地域の馬車に乗ろう。
あ、ウチの店は南地域の門の近くにあるよ。
勿論私達が乗っているのは南地域の馬車。コリーちゃんの家に向かう途中だからね。
王宮から一番遠い南地域は、庶民の中の庶民の街。
だから他と比べて雑然としているし、なんなら娼館だってある。というか、王都内で南地域にしか娼館はない。でも、日本でいう吉原みたいな感じで、出入り口は大門の一つだけ。15歳未満は入れないし、朝の8時から18時まで大門は閉じられているので、詳細はよく知らない。
閉まっていても、貴族とか、権力がある人がゴリ押しして、偶に大門横の小さな扉から入れてもらえたりするらしいけど、真っ昼間から行く奴にロクなのはいない。娼館のお姉さん達も困るだろうに。
ちなみに、大門内でないと、色っぽいお姉さんが接客する飲み屋は開いたらダメって事になってるから、大門の外に飲み屋街はない。
むしろ雰囲気の良いバーとか、おっさん達が集まる大衆的な飲み屋は、大門からかなり離れた、なんなら正反対の所にある。というのも、人族のつがいに嫉妬させない措置なんだとか。
というわけで、分離がきちんと出来ている治安の良い地域である。
「まてよ……。騎士ってさ、娼館の巡回もするんだよね」
「はぁ? 突然何言ってんだ。……まぁ、大門内が一番荒れやすいから当然巡回はするけど」
もしかして、ロードも娼館の巡回で色っぽいお姉さん達に……。そういえば、御前試合の時も玄人のお姉さん達に人気があったし。
「もしかして師団長も大門内に入った、とか思ってんのか?」
「やだ~。みーちゃん妄想で嫉妬ぉ~」
ププッと笑うトモコのほっぺを抓る。「いだだだっ」と叫んでいるが自業自得だ。
「言っとくけど、人族の騎士は大門内には入らねぇからな」
「え、何で??」
「そりゃあ、つがいが嫉妬で大変な事になるからだろ。何よりヤベェのは、娼館で働いてる奴が自分のつがいだったって場合な。考えるのも恐ろしい事態になる」
「あ~……あれ? それって、つがいが娼館で働いてる人族は、一生つがいに逢えないの?」
「いや、娼館で働いてる人はいつでも外に出られるから、そこで出会う可能性はある。その代わり、出会ったら娼館で働いてた事は話したらいけない決まりだ」
「んん? 娼館で働く人って、借金で売り飛ばされたとか、犯罪奴隷とかじゃないの?」
異世界あるあるだよね。
「んな訳無いだろ。誰に聞いたんだよそれ」
リンは呆れた顔をして教えてくれた。
「娼館で働いてるのは、性に奔放なうさぎ獣人や、蛇獣人、たまに魔族、竜人もいる。いずれも自ら望んで働いてる」
「え!? そうなの!?」
「無理矢理働かせたりなんてするわけないだろ。フォルプロームじゃあるまいし」
リン、それ自虐ネタ。
遊び人の若旦那の顔が引き攣った気がしたが、気のせいだろう。
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