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ズボラライフ2 ~新章~

108.ドラゴン湖

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最近王都では“獣王”の事がよく話題に上っている。この間トリミーさんとお茶した時にも“獣王”の噂が話に上がった。
ルマンド王国の第3騎士団に“獣王”が在籍しているらしいと実しやかに囁かれ、一目見ようと騎士団の詰め所に集まる者まで居るそうだ。
まるで芸能人のような扱いになってる当のリンだが、部隊長に昇進した彼は街の巡回をする事は無くなった為、残念ながら街にある詰め所には現れることがない。いつまでたっても野次馬達はリンの姿を見つける事はできないのだ。
とはいえ、休日は私服で街をぶらつく事もあるのだが、騎士服でないからかリンに気付く者はいない。と本人が言っていた。

そのうち、リンの絵姿とか売り出されるんじゃないだろうか。

そういえば、この間祝賀会の時に気になったのだが、アライグマだったかレッサーパンダだったかの獣人、スイ君がリンにぞっこんだった。(←※あくまでも雅から見た感想です)リンの為なら何でもしますって感じで、熱烈なアプローチをしていたのだ。(←※雅の主観です)最近リンはエルフ神のアルフォンス君と良い感じだった記憶がある。

まさかこれは、BとLの三角関係!?

「ミヤビ……おい、ミヤビ」

可愛い系のスイ君と美人ツンデレなアル君が王子系のリンを取り合う三角関係か。なるほど。大好物だ。
欲を言うならそこに雄々しい男性も参入してもらいたい。

「ミヤビ、聞いてんのか?」

片手でムニっと両頬を挟まれ、私の唇はタコのように突き出す。

「にゃにをひゅる」

こんな事をしてくるやつは一人しかいない。ロードだ。

「ハハッ 可愛い顔だな」
「はにゃふぇ~!」

バシバシと頬を挟む手を払おうとするが退ける事が出来ない。それどころか可愛い、可愛いと笑ってそのままキスしてくるという暴挙に出たのだ。旦那でなければ許されない行為だぞ。

チュッチュと音をたて、やっと離れた唇は弧を描き、瞳はとろとろに溶けている。そんなロードを直視できないし、ちょっと照れる。

今日は久々の休みという事で金魚のフンの如く付いて回る旦那は、離れの薬作りの部屋にまでくっついて来たのだ。

「なぁミヤビ。構ってくれよ」
「ん~。じゃあ、この薬作りが終わったら出掛ける?」
「そこは部屋に籠もるとかじゃねぇのか」
「朝っぱらからナニ言ってんデスカネ? 折角の休みなんだからたまには子供達も連れて出掛けようよ」
「浮島にでも行くか?」
「浮島もいいけど、今日は王都を散策しようかな」
「あ゛?」


というわけで、ディークをロードが、ロビンを私が抱っこしてくり出したのはルマンドの王都だ。本当は双子をベビーカーに乗せたいが、流石に王都でそれをやると目立ってしまうので諦めた。

「何で王都なんだよ」
「最近活気づいてきてるでしょ。そろそろ美味しいごはん屋さんとか、可愛い雑貨屋さんとか出来てるんじゃないかと思って!」
「……そんなすぐに出来ねぇだろ。オメェ前もそう言ってそこらの飯屋に入ってマズいって文句垂れてたじゃねぇか」

ロードはそう言うが、マカロンが作ってしまった湖にはすでに舟遊びが出来るよう、ボートが浮かべられ、カップルが楽しそうにボートを漕いでいる。
キラキラと太陽の光が反射する湖は透明度が高く美しい。ルマンド王都の映えスポットだ。

湖の淵に桜の花道とか出来たら最高だろうなぁ。私なら桜だけじゃなく湖の真ん中よりに橋を作って、サイドに藤を植えて藤のトンネルとか作りたい。いや、湖が海のように大きいから、可愛い花が咲き乱れる島を作って、そこに橋を掛けようかなぁ。はぁ良い! 最高だ。
湖の淵をボートで周れば、桜の花びらがヒラヒラ舞って、歩いて島に渡ろうと思えば、藤のトンネル。渡った先には花が咲き乱れる島。周りは美しい湖。そこでピクニックなんてしたら幸せだ。サンドイッチ齧って、フライドポテトや唐揚げもつまんだりして……おにぎりでも良い。

「おい!! ミヤビっ 何してんだ!!!?」

ウヘヘと妄想していたら、ロードの声が邪魔をする。今良いところなんだから邪魔しないでほしい。

「バカヤロー!! なんでいきなり湖に島やら橋やら花やら創ってんだ!!?」
「え?」

慌てたその声に妄想を終えて顔を上げれば、湖の方が騒がしい。
「おおっ 神よ!!」
「奇跡が起きた!!!!」
「なんて綺麗なの……っ」
などという声があちこちで上がっているではないか。

どうしたというのだろう?

「見てみろ!! 湖に突然島や橋が出現してパニックになってんぞ!!」
「何言って…………あ」

私が想像した通りの光景が湖に広がっていた。

「……………………ワタシチガウ。カンケイナイ」
「おめぇ……」

パニックな湖を横目にさっさと門の中に入れば、ロードは呆れたように私を見つめながら後ろをついてきた。腕の中のディークは「あぶぅ」と不思議そうに行き交う人々を見てはロードに「ぅぶばぁ」と何かを訴えている。可愛い。
「湖に島が出来たってよ!!」なんて声は聞こえない。

「そういえば、上下水道の工事ってまだ始まってないんだねぇ」
「ああ。資材や人材を集めてる所だからな。そう簡単にゃ着手できねぇよ。まぁ三月みつきもすりゃ始まるだろうがな」
「そうなったら王都にますます人が集まって来るだろうね」
「だろうな。オメェがさっき余計な事をした湖の周りに、宿やら食堂やらが出来るらしいぞ」
「へへ……映えスポットになって良かったね」

目を反らせば溜め息を吐かれる始末。

そ、そんなにダメダメな事はしてない……はず。

「ったく。ただでさえ“ドラゴン湖”とかいうアホな呼ばれ方してんのによぉ」

ドラゴン湖とはまた……誰が付けたの? ネーミングセンス皆無だね。私なら……マカロン湖って付ける。そこ、どっちもどっちとか言わない。



「おや、そちらにいるのはロード第3師団長ではないかな?」

湖に向かう人々で溢れる中、馬車の通り道に一際豪華な馬車が現れたと思ったらカーテンが開けられ、ロードに話しかけてきたのは…………

「キュフリー侯爵」

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