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第五章

訳知り顔に騙された

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後ろから私を抱き込むロードの腕の力が強くなる。
肩に顔を埋め、暫し沈黙が落ちる。

「ロー…「恨むわけねぇだろ。何ふざけた事聞いてんだ」」

少しだけ不安になった私に、この男ははっきりそう言って埋めていた顔をぐりぐり擦り付けてきたのだ。

「ちょ、何? くすぐったいんだけどっ」
「お前が可愛い反応すっからだろ」

何やら悶えているようだ。あー可愛い可愛いと言いながら肩口に猫のようにすり寄り、ぎゅうぎゅう抱き締めてくる。

「神王がこの世界から消えたのなんぞ気の遠くなるほど前だぜぇ? 魔素が尽きかけていたからって神王のせいじゃねぇだろ。天災みてぇなもんだ。それで神王を恨むなんてお門違いもいいところだぞ」

だからそんな不安そうな顔すんなと包み込んでくれるロード。
もしかしたら教会の神王像の件もイアンさんのいう不正の件も全て知っているのかもしれない。だからこうして励ましてくれているのだろう。

「ありがとう。気にしないようにしてたけど、神王像が壊されてたり、責められる夢を見たりしたから、すこし落ち込んでたのかも」
「あ゛?」
「ん?」
「神王像が何だって?」

ロードの頭に角がメキメキはえていき、こめかみの血管が浮き出て目が血走り始めた。

「え、いや…知ってたんじゃ…」
「初耳だなぁ…」

地を這うような声と笑っていない目が徐々に怒りに染まっていくのが見えるようで顔が引きつる。

「責められるって、誰にだ?」

低く冷たい声で尋ねられ、背筋が凍るかと思った。
ロードの周りの空気がピリピリと肌に刺さるように痛い。

「ゆ、夢の話だよ~。しかもまったく知らない人だし…ハハハ…」
絶対言っちゃダメな人に自ら暴露してしまったと気付いても後の祭りであった。
ロードは私ではらちがあかないと思ったのだろう。
立ち上がると自らが追い出したヴェリウス達を探しに行ってしまったのだ。鬼神の外見のままで。

今頃地上では雷が落ちているかもしれない。それほどまでに彼の怒りは凄まじかったのだ。
まさか自分が殺気や怒気を肌で感じとるというバトルマンガのような事を経験するとは思わなかった。



◇◇◇



「そういえば、イアンさんは何処に行ったんだろうか?」

ロードが“怒れる鬼神”にチェンジしてヴェリウス達を探しに行ってから一向に戻って来ないまま時間が過ぎ、ふと思い出したのは完全に忘れていたイアンさんの行方であった。

しまった!! と思い慌てて立ち上がり障子を開け放つ。

美しい日本庭園が眺められる廊下には誰の姿もなく、それを良いことに駆け抜ける。

ヴェリウスの事だ。イアンさんを勝手に天空神殿ここから追い出したりしていないはず。
そんな事を思いながらパタパタ走っていると、ロードらしき声と、イアンさんらしき声が耳に届き足を止めた。

「テメェ、まさか……っ」
「貴方はあの時の…っ」

声がする方へ行けば、睨み合う2人の姿が…いや、睨んでいるのはロードだけか。
イアンさんはロードの鬼神化に戸惑っているのか、ぎょっとした表情で角に注目している。

「テメェが何で天空神殿ここに居やがるっ」

ロードが鬼の形相そのままにイアンさんに絡んでいくものだから、イアンさんはひぃっと声を上げ怖がっているではないか。

止めなければと一歩踏み出したその時、

『貴様らにどのような因縁があるかは知らぬが、神王様のお膝元で争うでない』

氷の結晶を纏い現れた艶やかな黒に、刹那、ロードの身体が宙を舞い日本庭園へと吹っ飛ばされたのだ。

ヴェリウスの強力なバックキックが決まった瞬間である。
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