307 / 587
第五章
神と人との関係
しおりを挟む「…それで、ミヤビ殿はヘルナンデス子爵の息女の何が気になったというのだね」
やはりというか何というか、ルーベンスさんはいつものようにアフタヌーンティーの仕度をしてからそう切り出した。いや、いつもその時間に押し掛けているのは私だけどね。
「…お嬢様がウチの店にやって来て、ドレスを仕立てるようお願いされたのですがお断りしたんです。ただその時、本当に困ったような悲しんでいるような顔をしていたのがどうも気になって…」
「オメェそんな事昨日は言ってなかっただろうが」
私を膝の間に座らせて後ろから抱きしめ、唇を尖らせているロードは完全に拗ねていた。
「あれ? 言ってなかったっけ?」
話したと思ったんだけどゴメンねと謝ると、宰相じゃなくて俺に相談しろよと言ってくるのでハイハイと頷いておく。
「成る程。それで君はヘルナンデス子爵の息女をどうしたいのかね」
「どうしたいかと言われると…様子が見たいとしか言えないんですけど」
ルーベンスさんの言葉に考えてみるが、今は何をするとは即答出来なかった。何故ならお嬢様の憂いの原因がわからないのだ。ただひとつ言えるのは、あれは恋愛で悩んでいるような顔ではなかったという事だろう。
「それはパーティーに参加せねば解決出来ないのかね?」
「うーん…あの様子だと、そのパーティーで何かがあるのではないかと思うんです」
「ふむ…確か第1第2の師団長にも招待状は送られているのだったか?」
ルーベンスさんは私の話を聞いて、突然ロードに招待状の話を振ったのだ。
「ああ。まさか師団長全員が参加するわけにゃいかねぇからな。俺ぁ断ったぜ」
「ふむ…私にも招待状は来ているが…」
何やら思案している様子のルーベンスさんに首を傾げてロードに聞いた。
「何で師団長全員で参加したらダメなの?」
「ん? あ~。神程じゃないが、俺達もそれなりの地位に居るからな。王族じゃあるまいし、師団長が全員参加なんてすりゃ調子に乗るだろが」
成る程、パワーバランスを考えての事か。
よくわからないが、子爵位は貴族の中でも下の方に位置していた気がする。一番偉いのは王族で、その次が公爵だっけ?
「色々あるんだね」
「色々あんだよ。だからオメェは迂闊に動いてくれるなよ。頼むから」
頼まれたが、目についたものは気になるのが性なのだ。
「ロード」
「ぅぐ…んな可愛くおねだりされてもダメなもんはダメだ」
ただ名前を呼んだだけでおねだりしたと思われたらしい。一体どんな目をしているんだ。このおっさんは。
「ミヤビ殿、貴女がパーティーに出席する方法ならばいくつかあるのだが…」
流石ルーベンスさん。いくつもあるのかと素直に感心していると、ロードの機嫌が低下していく。
「一つはヘルナンデス子爵の息女に直接願い出る方法だ。これは仕立て屋として彼女のドレスを作る際にパーティーへの参加を条件にすれば難しくはないだろう。しかし、それをすれば今後は貴族のドレス作りが主な仕事となるだろう」
それは嫌だ。ドレスを作るのは構わないが、そんな事になれば庶民向けの服屋が出来なくなる上貴族と面識を持つことになる。面倒事の匂いしかしない。
「もう一つは、招待客に混じっての参加だ。例えば第2師団長のパートナーとして出席「ふざけんなよ!! ミヤビは俺のつがいだ!!」まぁ無理そうだがな」
ロードが激怒しちゃう…すでに激怒しちゃってるのでそれはちょっと…。
「ならば私の妻の同行者として出席する事も出来るが…」
成る程。女性ならば良いかもしれない。
「デメリットとしては、他の貴族と面識が出来る。ミヤビ殿も、私達からしても、あまりおすすめは出来ない方法だな」
ルーベンスさんの話に頷けば、3つ目の方法だが…と続けるのでゴクリと唾を飲み込んだ。
「パーティーといえば裏方の人手が必要だ。その時に臨時で人を雇うのが通例なのだがね。それに潜り込むという手がある」
それだ!! それなら貴族との関わりも最小限で済むし、顔を覚えられる心配もない(多分)。さらに裏方なので屋敷内をうろつけるではないかっ素晴らしい!!
「無理だろ。ミヤビはこう見えて料理も出来ねぇし勘取りも悪ぃからメイドにゃ全く向かねぇ。しかも貴族の常識どころか一般常識も知らねぇんだ。そんな奴が潜り込んでも悪目立ちしかしねぇよ」
ロードのボロクソな言いように反論出来ない自分の不甲斐なさが恨めしい。
どうせ私は勘も良くないし常識もないし料理も出来ない社会不適合者ですよーだ!! とロードの脛をゲシゲシ蹴るがびくともしない。
「オメェは薬作ったり服作ったり、そういった物作りが得意な職人だからなぁ」
そ、そうかな? 職人って照れるなぁ~。
「最後の提案は、“神王の力”を使う方法だ。これが一番安全で確実。さらに最もおすすめだが最もおすすめではない」
「え? ルーベンスさんそれどっち?」
「分からんかね? 神王様が人間に関わるべきではない。という事なのだがね」
結局ルーベンスさんも反対派だった。
確かに神が人間に関わるのは良くない事かもしれないけど、地球の神だって一部の人に奇跡を起こしたりしてるじゃないか。それなら別に神王だってそういう事しても良い気がするんだけどな…。
ルーベンスさんの部屋から出て王宮の隅でウジウジしていれば、
「おや? ミヤビ殿じゃないか」
カルロさんが通りかかり声を掛けてきたのだ。
11
お気に入りに追加
2,526
あなたにおすすめの小説
幼女公爵令嬢、魔王城に連行される
けろ
恋愛
とある王国の公爵家の長女メルヴィナ・フォン=リルシュタインとして生まれた私。
「アルテミシア」という魔力異常状態で産まれてきた私は、何とか一命を取り留める。
しかし、その影響で成長が止まってしまい「幼女」の姿で一生を過ごすことに。
これは、そんな小さな私が「魔王の花嫁」として魔王城で暮らす物語である。
乙女ゲームのモブに転生していると断罪イベント当日に自覚した者ですが、ようやく再会できた初恋の男の子が悪役令嬢に攻略され済みなんてあんまりだ
弥生 真由
恋愛
『貴女との婚約は、たった今をもって解消させてもらう!!』
国のこれからを背負う若者たちが学院を卒業することを祝って開かれた舞踏会の日、めでたい筈のその席に響いた第一皇子の声を聞いた瞬間、私の頭にこの場面と全く同じ“ゲーム”の場面が再生された。
これ、もしかしなくても前世でやり込んでた乙女ゲームの終盤最大の山場、“断罪イベント”って奴じゃないですか!?やり方間違ったら大惨事のやつ!!
しかし、私セレスティア・スチュアートは貧乏領地の伯爵令嬢。容姿も社交も慎ましく、趣味は手芸のみでゲームにも名前すら出てこないザ・モブ of the モブ!!
何でよりによってこのタイミングで記憶が戻ったのか謎だけど、とにかく主要キャラじゃなくてよかったぁ。……なんて安心して傍観者気取ってたら、ヒロインとメインヒーローからいきなり悪役令嬢がヒロインをいじめているのを知る目撃者としていきなり巻き込まれちゃった!?
更には、何でかメインヒーロー以外のイケメン達は悪役令嬢にぞっこんで私が彼等に睨まれる始末!
しかも前世を思い出した反動で肝心の私の過去の記憶まで曖昧になっちゃって、どっちの言い分が正しいのか証言したくても出来なくなっちゃった!
そんなわけで、私の記憶が戻り、ヒロイン達と悪役令嬢達とどちらが正しいのかハッキリするまで、私には逃げられないよう監視がつくことになったのですが……それでやって来たのが既に悪役令嬢に攻略され済みのイケメン騎士様でしかも私の初恋の相手って、神様……これモブに与える人生のキャパオーバーしてませんか?
私はモブのはず
シュミー
恋愛
私はよくある乙女ゲーのモブに転生をした。
けど
モブなのに公爵家。そしてチート。さらには家族は美丈夫で、自慢じゃないけど、私もその内に入る。
モブじゃなかったっけ?しかも私のいる公爵家はちょっと特殊ときている。もう一度言おう。
私はモブじゃなかったっけ?
R-15は保険です。
ちょっと逆ハー気味かもしれない?の、かな?見る人によっては変わると思う。
注意:作者も注意しておりますが、誤字脱字が限りなく多い作品となっております。
乙女ゲームに転生した世界でメイドやってます!毎日大変ですが、瓶底メガネ片手に邁進します!
美月一乃
恋愛
前世で大好きなゲームの世界?に転生した自分の立ち位置はモブ!
でも、自分の人生満喫をと仕事を初めたら
偶然にも大好きなライバルキャラに仕えていますが、毎日がちょっと、いえすっごい大変です!
瓶底メガネと縄を片手に、メイド服で邁進してます。
「ちがいますよ、これは邁進してちゃダメな奴なのにー」
と思いながら
3年前にも召喚された聖女ですが、仕事を終えたので早く帰らせてもらえますか?
せいめ
恋愛
女子大生の莉奈は、高校生だった頃に異世界に聖女として召喚されたことがある。
大量に発生した魔物の討伐と、国に強力な結界を張った後、聖女の仕事を無事に終えた莉奈。
親しくなった仲間達に引き留められて、別れは辛かったが、元の世界でやりたい事があるからと日本に戻ってきた。
「だって私は、受験の為に今まで頑張ってきたの。いい大学に入って、そこそこの企業に就職するのが夢だったんだから。治安が良くて、美味しい物が沢山ある日本の方が最高よ。」
その後、無事に大学生になった莉奈はまた召喚されてしまう。
召喚されたのは、高校生の時に召喚された異世界の国と同じであった。しかし、あの時から3年しか経ってないはずなのに、こっちの世界では150年も経っていた。
「聖女も2回目だから、さっさと仕事を終わらせて、早く帰らないとね!」
今回は無事に帰れるのか…?
ご都合主義です。
誤字脱字お許しください。
女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
私は逃げます
恵葉
恋愛
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。
そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。
貴族のあれやこれやなんて、構っていられません!
今度こそ好きなように生きます!
継母の心得 〜 番外編 〜
トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる