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第四章
黒い箱の恐怖
しおりを挟む「ごちそうさまです」
ペコリとお辞儀をして外へ転移した。
「ぎゃあぁぁぁ!!!!」という声と「もうお嫁に行けないっ」「み、見られた…」「きゃあぁぁぁ」等とわけのわからない声も聞こえてきたが、変なものを見せられたのはこっちだ。湯けむりがたっていて良かった。下半身は見えなかった…と思う。
「ミィヤァァビィィィ!!!!」
暫くして服を着たリンが出てきたので、「明けましておめでとうございまーす」と挨拶したら、
「ばッなっ何が明けて、何がおめでたいんだ!! 下ネタ言ってんじゃねぇよ!!」
と怒鳴られた。
下ネタなど言ってないが、成る程。お風呂場でのラッキースケベからの「明けまして」だと、若いリンの頭の中では“御開帳おめでとうございます”に変換されたんだな。リンの下半身はタオルで見えなかったけどな。
「ッ信じられねぇ!! お前風呂場に現れるとかどういう神経してんだッ」
「いやぁ獣人って尻尾のつけねがあんな風になってんだね~」
「ぎゃあぁぁぁっ」
乙女みたいな反応で真っ赤になっているリンに風呂敷に包まれたお重を出す。
「これ、ロードが作ってくれたおやつだよ。腹持ちもいいし、騎士の皆で食べてよ。さっきはごめんねって」
「ごめんねじゃねぇよ!! って、え? 師団長が作った…?」
さっきまでの怒りが嘘のようにきょとんとしてこちらを見るリンに風呂敷ごと六段のお重を渡す。結構重いんだよ。六段って。
「いや、これ、え? 師団長の手作り??」
戸惑っているリンに声を掛けようとしたら、ガヤガヤと脱衣所から声がしだしたのでお風呂に入っていた騎士達が出てきたらしい事を知る。さすがに痴女と呼ばれた私は顔を合わせ辛いので家に帰る事にした。
「じゃあ帰るね。あ、お重と風呂敷は要るなら使って。要らないならまた会った時にでも返してくれるか、ルーベンスさんにあげていいからね~」
ルーベンスさんこういう漆器好きそうだったし。
と言って深淵の森に転移したのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
リン視点
「ルーベンス…って、宰相閣下…? オジュウ? フロシキ…??」
言いたい事を言って消えてしまった痴女…ミヤビに茫然としていれば、ガヤガヤと脱衣所から出てきた先輩や同僚達に声を掛けられる。
「お、リン。さっきは災難だったな」
肩に手を置かれて慰められる。本当にな、と心の中で溜め息を吐いていると、手の中の重みにふと気付く。先輩達も気付いたようで「それ何だ?」と見てくる。
「何か高級そうな布だな」
確かに染めも生地も見たことがない程上等なものだ。この布だけでも絶対俺達庶民には手が出ないだろう高級品を、アイツはオレにくれるって…これはダメだ。貰ったらダメなやつだ。
「あ、これ…精霊様が、師団長からの差し入れだってくれました…」
言った瞬間、場がざわついた。
「師団長から!?」
「マジかよ!! さすが師団長っカッケー!!」
「何!? 中身何!?」
と目が輝いたのだ。
「あ…じゃあ食堂で開けますか?」
先輩や同僚に周りを囲まれ食堂へと移動する。
今は第3師団の一部の奴しかいないが、他が集まると食いっぱぐれるだろう事は容易に想像できる。だから他の奴にバレないようにオレの周りを囲んでいるのだろうが、逆に怪しい。
集団で食堂にやって来たが、今の時間帯食堂には勿論誰もいない。
そこに第3師団の男共が集まってわいわいしている所は端から見たら気持ち悪いだろうと思いながら、早く開けろと目で訴えてくる先輩達に圧され布の結び目をほどいた。
ハラリとほどけた布から出てきたのは、艶やかに光る真っ黒な箱。そこへゴールドと朱で描かれた美しい柄に、顔がひきつる。
「おい、この箱…王族が使うようなレベルのヤツじゃね…?」
オレと同じような顔をした先輩がボソリと呟く。確かこの人は男爵家の三男だったはずだ。貴族なのだから目利きは間違いないだろう。
「さ、さすが師団長っやっぱり雲の上の人は違うよな~!!」
無理矢理笑顔を作って師団長を称える同僚に尊敬の念を送る。
しかし誰も箱に触ろうとしない。
オレだって触りたくない。多分国宝級の箱だ。まかり間違って傷でも付けたら弁償なんぞ一生かかっても出来ないだろう代物である。
「隊長、どうぞ」
らちが明かずに遠巻きに見ている奴らの中で一番偉い男を指名すれば、「バカヤロウ!! お前が受け取ったんだからお前が開けろ!!」と逆ギレされる始末。
ふざけんな。バカヤロウはお前だ! と言いたい気持ちをぐっとこらえてこんな物を押し付けていきやがった本物のバカヤロウを思う。
アイツ、次会ったらぜってぇ殴る。精霊とか知った事か。
そんな事を考えながら震える手で箱の蓋をそっと開けたのだ。
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