上 下
200 / 587
第四章

建物の秘密

しおりを挟む


その建物は、まるで有名建築デザイナーが設計したのではないかという程の出来で森の中の別荘然とした風に建っているのだ。
いや、別荘にしては大きいし全体的に四角いのでお洒落な美術館と言えばいいのか。

しかも、そんな建物が遠くにもう一つ見えるのだから呆気に取られるしかない。

「いくら綺麗になっているとはいえ、浄水場と下水処理場をくっつけて建てるのは抵抗あるしね~」

本当はくっついていても問題はないんだよ。といいながらドヤ顔しているトモコに誰もツッコめない。

「美しい建物でしょう。トモコ様がデザインされて我々が形にしたのです。いや~木の加工は木が協力的なので良いのですが、ガラスがなかなかに厄介でしてなぁ~」

等とご機嫌に喋る長老に、一人うろんな目を向けているロードは何か言いたげだ。

『なかなか良い出来ではないか』

ヴェリウスは頷き、満足気に笑った。

「ガラスの加工が出来る人が居たんだね」

大きくて曇りのない窓ガラスに、こんなものを作れる技術があるのかと考えながら尋ねれば、返ってきたのは意外な答えだった。

「さすがにガラスの加工は我々でも間に合いませんでしたので、知り合いのドワーフに加工を頼みました」

ドワーフ…思い浮かぶのは、ルマンドの王都に店を構えているあの武器屋のドワーフだ。
ほら、前にヒッキーの棒をくれた人達だよ。

ヒッキーの棒は“収納”と願ったらどこかに消えて、使いたいと思えば出てくるようになったので、空間魔法みたいなものを無意識に使っているんだとトモコに言われた事を思い出した。

話がそれたが、小人族ドワーフか…実は凄い一族だな。

「ドワーフってガラスの加工もしてるんだね」
『ドワーフは器用な人種ですから。武器だけでなく、食器や家具、アクセサリーまで何でも作り出します』

ヴェリウスの豆知識をへぇ~と感心しながら聞いていると、ロードがボソリと呟いた。

「何でにドワーフの知り合いが居るんだよ」
「……」

深淵の森、珍獣七不思議の一つが誕生した瞬間であった。


『それで、中の案内はまだか』

ロードの言葉に場が静まっていると、ヴェリウスが空気を読んで話をそらしてくれたのだ。

「では、ご案内致します。入り口はこちらです」

と長老に案内された玄関は、取っ手も何もないガラスだけの扉で、まるで“自動ドア”のようだった。

「何だこの扉…取っ手がねぇぞ」

不思議そうにロードが近付いた瞬間、ウィーンとガラスの扉が開いたのだ。

「!?」
『何だこれは…っ』

ビクッとして跳びはね、少しだけ後退したヴェリウスは慌てて長老を見る。
長老は朗らかに笑いながら「自動ドアです」と言った。

「くくっ 驚いただろ!! このに!!」

自動ドアの奥から聞こえた声に顔を上げれば、そこに居たのは…魔神の少年だった。

「早く入って来いって!!」

瞳をキラキラと輝かしながら急かす魔神の様子から、あ、この子自分の神域に帰ってないんだなぁと理解した。少なくとも昨日からここにいるのだろう。
何故なら、この子の神域のそばの山はロードが破壊したからだ。現状を知れば、こんなキラキラした瞳で待ってはいないだろう。

チラリとロードを見上げると、そんな事は無かったと言わんばかりに自動ドアしか見ていなかった。
ヴェリウスですら、自動ドアの虜である。

1人と1匹が、初めて目にする自動ドアを恐る恐るくぐり中へ入ると、天井にある大きな窓ガラスから日の光が差し込み、木で出来た床を照らしていた。
天井に窓ガラスを嵌め込んだ設計なら、確かに館内は明るくなるが、そうだとしてもやけに明るいと思い首を傾げる。

何か引っかかるんだよなぁと天井を眺めていてギョッとした。
そう、を発見してしまったのだ。
それには思わず顔が引きつった。

「と、トモコさんや…これはヤバくないかね?」

あばばばとトモコに声をかけると、トモコはニヤリと嫌らしく笑った後にこう言った。

「みーちゃん…これ全部ね、の力なんだよ」

“魔石”ですと!?

「あーーー!!!! トモコっお前何先に言ってんだよ!! 俺が神王様にご説明したかったのによぉ!!」

トモコのフライングに文句を言い出した魔神の少年の声は、この大きな建物に響いていた。
しおりを挟む
感想 1,620

あなたにおすすめの小説

幼女公爵令嬢、魔王城に連行される

けろ
恋愛
とある王国の公爵家の長女メルヴィナ・フォン=リルシュタインとして生まれた私。 「アルテミシア」という魔力異常状態で産まれてきた私は、何とか一命を取り留める。 しかし、その影響で成長が止まってしまい「幼女」の姿で一生を過ごすことに。 これは、そんな小さな私が「魔王の花嫁」として魔王城で暮らす物語である。

乙女ゲームのモブに転生していると断罪イベント当日に自覚した者ですが、ようやく再会できた初恋の男の子が悪役令嬢に攻略され済みなんてあんまりだ

弥生 真由
恋愛
『貴女との婚約は、たった今をもって解消させてもらう!!』  国のこれからを背負う若者たちが学院を卒業することを祝って開かれた舞踏会の日、めでたい筈のその席に響いた第一皇子の声を聞いた瞬間、私の頭にこの場面と全く同じ“ゲーム”の場面が再生された。 これ、もしかしなくても前世でやり込んでた乙女ゲームの終盤最大の山場、“断罪イベント”って奴じゃないですか!?やり方間違ったら大惨事のやつ!!  しかし、私セレスティア・スチュアートは貧乏領地の伯爵令嬢。容姿も社交も慎ましく、趣味は手芸のみでゲームにも名前すら出てこないザ・モブ of the モブ!!  何でよりによってこのタイミングで記憶が戻ったのか謎だけど、とにかく主要キャラじゃなくてよかったぁ。……なんて安心して傍観者気取ってたら、ヒロインとメインヒーローからいきなり悪役令嬢がヒロインをいじめているのを知る目撃者としていきなり巻き込まれちゃった!? 更には、何でかメインヒーロー以外のイケメン達は悪役令嬢にぞっこんで私が彼等に睨まれる始末! しかも前世を思い出した反動で肝心の私の過去の記憶まで曖昧になっちゃって、どっちの言い分が正しいのか証言したくても出来なくなっちゃった! そんなわけで、私の記憶が戻り、ヒロイン達と悪役令嬢達とどちらが正しいのかハッキリするまで、私には逃げられないよう監視がつくことになったのですが……それでやって来たのが既に悪役令嬢に攻略され済みのイケメン騎士様でしかも私の初恋の相手って、神様……これモブに与える人生のキャパオーバーしてませんか?

私はモブのはず

シュミー
恋愛
 私はよくある乙女ゲーのモブに転生をした。   けど  モブなのに公爵家。そしてチート。さらには家族は美丈夫で、自慢じゃないけど、私もその内に入る。  モブじゃなかったっけ?しかも私のいる公爵家はちょっと特殊ときている。もう一度言おう。  私はモブじゃなかったっけ?  R-15は保険です。  ちょっと逆ハー気味かもしれない?の、かな?見る人によっては変わると思う。 注意:作者も注意しておりますが、誤字脱字が限りなく多い作品となっております。

乙女ゲームに転生した世界でメイドやってます!毎日大変ですが、瓶底メガネ片手に邁進します!

美月一乃
恋愛
 前世で大好きなゲームの世界?に転生した自分の立ち位置はモブ! でも、自分の人生満喫をと仕事を初めたら  偶然にも大好きなライバルキャラに仕えていますが、毎日がちょっと、いえすっごい大変です!  瓶底メガネと縄を片手に、メイド服で邁進してます。    「ちがいますよ、これは邁進してちゃダメな奴なのにー」  と思いながら

3年前にも召喚された聖女ですが、仕事を終えたので早く帰らせてもらえますか?

せいめ
恋愛
 女子大生の莉奈は、高校生だった頃に異世界に聖女として召喚されたことがある。  大量に発生した魔物の討伐と、国に強力な結界を張った後、聖女の仕事を無事に終えた莉奈。  親しくなった仲間達に引き留められて、別れは辛かったが、元の世界でやりたい事があるからと日本に戻ってきた。 「だって私は、受験の為に今まで頑張ってきたの。いい大学に入って、そこそこの企業に就職するのが夢だったんだから。治安が良くて、美味しい物が沢山ある日本の方が最高よ。」  その後、無事に大学生になった莉奈はまた召喚されてしまう。  召喚されたのは、高校生の時に召喚された異世界の国と同じであった。しかし、あの時から3年しか経ってないはずなのに、こっちの世界では150年も経っていた。 「聖女も2回目だから、さっさと仕事を終わらせて、早く帰らないとね!」  今回は無事に帰れるのか…?  ご都合主義です。  誤字脱字お許しください。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

私は逃げます

恵葉
恋愛
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。 そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。 貴族のあれやこれやなんて、構っていられません! 今度こそ好きなように生きます!

継母の心得 〜 番外編 〜

トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。 【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】

処理中です...