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第四章
建物の秘密
しおりを挟むその建物は、まるで有名建築デザイナーが設計したのではないかという程の出来で森の中の別荘然とした風に建っているのだ。
いや、別荘にしては大きいし全体的に四角いのでお洒落な美術館と言えばいいのか。
しかも、そんな建物が遠くにもう一つ見えるのだから呆気に取られるしかない。
「いくら綺麗になっているとはいえ、浄水場と下水処理場をくっつけて建てるのは抵抗あるしね~」
本当はくっついていても問題はないんだよ。といいながらドヤ顔しているトモコに誰もツッコめない。
「美しい建物でしょう。トモコ様がデザインされて我々が形にしたのです。いや~木の加工は木が協力的なので良いのですが、ガラスがなかなかに厄介でしてなぁ~」
等とご機嫌に喋る長老に、一人うろんな目を向けているロードは何か言いたげだ。
『なかなか良い出来ではないか』
ヴェリウスは頷き、満足気に笑った。
「ガラスの加工が出来る人が居たんだね」
大きくて曇りのない窓ガラスに、こんなものを作れる技術があるのかと考えながら尋ねれば、返ってきたのは意外な答えだった。
「さすがにガラスの加工は我々でも間に合いませんでしたので、知り合いのドワーフに加工を頼みました」
ドワーフ…思い浮かぶのは、ルマンドの王都に店を構えているあの武器屋のドワーフだ。
ほら、前にヒッキーの棒をくれた人達だよ。
ヒッキーの棒は“収納”と願ったらどこかに消えて、使いたいと思えば出てくるようになったので、空間魔法みたいなものを無意識に使っているんだとトモコに言われた事を思い出した。
話がそれたが、小人族か…実は凄い一族だな。
「ドワーフってガラスの加工もしてるんだね」
『ドワーフは器用な人種ですから。武器だけでなく、食器や家具、アクセサリーまで何でも作り出します』
ヴェリウスの豆知識をへぇ~と感心しながら聞いていると、ロードがボソリと呟いた。
「何でこの森の魔獣にドワーフの知り合いが居るんだよ」
「……」
深淵の森、珍獣七不思議の一つが誕生した瞬間であった。
『それで、中の案内はまだか』
ロードの言葉に場が静まっていると、ヴェリウスが空気を読んで話をそらしてくれたのだ。
「では、ご案内致します。入り口はこちらです」
と長老に案内された玄関は、取っ手も何もないガラスだけの扉で、まるで“自動ドア”のようだった。
「何だこの扉…取っ手がねぇぞ」
不思議そうにロードが近付いた瞬間、ウィーンとガラスの扉が開いたのだ。
「!?」
『何だこれは…っ』
ビクッとして跳びはね、少しだけ後退したヴェリウスは慌てて長老を見る。
長老は朗らかに笑いながら「自動ドアです」と言った。
「くくっ 驚いただろ!! この自動ドアに!!」
自動ドアの奥から聞こえた声に顔を上げれば、そこに居たのは…魔神の少年だった。
「早く入って来いって!!」
瞳をキラキラと輝かしながら急かす魔神の様子から、あ、この子自分の神域に帰ってないんだなぁと理解した。少なくとも昨日からここにいるのだろう。
何故なら、この子の神域のそばの山はロードが破壊したからだ。現状を知れば、こんなキラキラした瞳で待ってはいないだろう。
チラリとロードを見上げると、そんな事は無かったと言わんばかりに自動ドアしか見ていなかった。
ヴェリウスですら、自動ドアの虜である。
1人と1匹が、初めて目にする自動ドアを恐る恐るくぐり中へ入ると、天井にある大きな窓ガラスから日の光が差し込み、木で出来た床を照らしていた。
天井に窓ガラスを嵌め込んだ設計なら、確かに館内は明るくなるが、そうだとしてもやけに明るいと思い首を傾げる。
何か引っかかるんだよなぁと天井を眺めていてギョッとした。
そう、ダウンライトを発見してしまったのだ。
それには思わず顔が引きつった。
「と、トモコさんや…これはヤバくないかね?」
あばばばとトモコに声をかけると、トモコはニヤリと嫌らしく笑った後にこう言った。
「みーちゃん…これ全部ね、魔石の力なんだよ」
“魔石”ですと!?
「あーーー!!!! トモコっお前何先に言ってんだよ!! 俺が神王様にご説明したかったのによぉ!!」
トモコのフライングに文句を言い出した魔神の少年の声は、この大きな建物に響いていた。
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