上 下
159 / 587
第三章

駆け引き

しおりを挟む


「例えば私がその話を受けたとして、私には何も利はないだろう」

はっきりそう言われて衝撃が走った。

報酬の話をし忘れていた!! と。

ロードに関しては、ルーベンスさんならそういう事を言うだろうな、というような侮蔑を浮かべた表情をしている。

「ミヤビ、断られたならもう良いだろう。行くぜぇ」

手を取られ、ソファから強引に立たされたが、報酬の話をしたかったのでロードの手を握り返して首を横に振った。

「っミヤビ…」

もう少し待ってと目で訴えれば、頬を赤く染めて抱き締められたので何か勘違いしているようだ。
ゴホンッとルーベンスさんがわざとらしく咳をしてくるので、余計恥ずかしくなる。

「ロード、もう少し待って」

改めて口にすれば、私の真剣(?)な表情から気持ちを汲んでくれたのか、ソファに座ってくれた。
私を膝の間に座らせて。

空気を読んでくれ! とは思うが、ロードなので仕方ないと死んだような目で前を向く。まぁ、死んだような目は生まれつきなのだが。

「本当にそれでいいのか」

暗に改めろと言われたが諦めて欲しい。これがロードなのだ。

一向に改める気配のない私達に呆れたのか見切りをつけたのか、それ以上は何も言われる事がなかった。

「ちなみに、ルーベンスさんは見返りに何が望みでしょうか?」

これを聞かなければ始まらない。
何をすれば、街創りに協力してくれるのか。

「ふむ…本当に空に街があるのだとしたら、その街を私に統治させてもらえるなら、考えてもいい」

おお~、そうきたか。まぁ予想は出来ていたけどね。

「ふざけるな。街は神王様のお創りになったもの。たかだか人間ごときに治められるものじゃねぇ」

しかし返答したのはロードであった。
何だかロードはルーベンスさんを毛嫌いしているようなのだ。事あるごとに敵意を剥き出しにしている。

「ほぅ。やはり神王様のお創りになった街か…さしずめ、神の1人であるミヤビ殿に管理を一任されたのだろう」

いや、創ったのは私なんですけど…どうやら誤解されてしまったらしい。

「そして行き詰まったミヤビ殿は、宰相である私に相談した、と」

経緯はほぼ合ってます。とうんうん頷いていれば、当たったと言わんばかりに口の端をあげたルーベンスさんが面白く見えてきた。

「理解しているのなら話は早い。断ってくれて正解だ」
「私は街の統治を任せてくれるなら考えると言ったのだ」

ロードの話を切り上げようとする言葉を余裕の表情でかわし、私を見てくるのでもう一度頷く。

「分かりました。街の統治を貴方にお任せします」

そう言葉に出せば、一瞬その場が静かになり、ハッとしたロードが私の名前を叫ぶまで、誰一人喋る事はおろか、他の音をもらす事すらもしなかった。

「ミヤビ!?」

ロードは驚き、正気か!? という目で見てくる。
逆にルーベンスさんは冷静で、「ほぅ?」と発言の本意を探ろうとしているようだ。
本意も何も、浮島とはいえ人間が住む街なのだから、人間が統治するのが順当だろうと思っただけだ。
だがルーベンスさんは、職業(立場)柄裏があると思ったのか、疑いを向けてくる。

「とはいえ、こちらが貴方の言い分を飲むのですから、“考える”だけでは困るのです。統治されるなら“完全にお任せ”するわけですから、貴方には浮島の街をより良いものにしていただかなければなりません」

そう。ここが正念場だ。
ルーベンスさんに完全に丸投げしてしまえれば後は楽になるのだから!

「…君は本気で、神王様から任された街を私に託す気か?」

ルーベンスさんよ、ここで怖じ気づかれては困るのだ。せっかく統治するという言質を取れる一歩手前まで来たのだから。

「本気ですよ」
だぞ?」

顔が引きつっているのでマズイと思い、ロードに助けを求めたが、ロードの方が顔が引きつっていた。

「神王様は、浮島とはいえ、人間が住む街。人間に統治させるが吉。と言っております」
「今考えたような言葉に聞こえるが?」

なかなか鋭いルーベンスさんに冷や汗が出てくる。

「ムッならぱ神王様を私に降ろして直接話をなされるか!?」
「君はイタコか」

冷静にツッコミが出来るだとぅ!? なんというハイスペック宰相…。
このままではこの駆け引きに負けてしまう。何とかしなくては!!

「ロード! 神王様はルーベンスさんに街を任せても良いって言ってるよね~」

ロードが頷けば信憑性が高くなる、はず。

「……」

しかし援護射撃担当のロードは黙秘を続けた。

「……『そ…ゴホンッ そうだな~。神王様もそれを望んでいる』」
「虚しくないかね? 下手くそな腹話術など披露して」

だってロードが何も言ってくれないんだもん!! ロードになりきって腹話術するしかないでしょ!?

「とにかく!! 神王様からのお許しはいただいてます!! はい決定!! 今日からルーベンスさんは浮島の街の統治者だ。おめでとう!! 頑張ってくれたまえ」
「本当は、街作りを考えるのが面倒で、誰かに丸投げしたかった。というのが本音か」 

何故バレた!?

「しかし私に任せるという事は、“浮島の街”はルマンド王国の一部という事になるがそれでもいいのかね?」
「もう何でも良い…「良くはねぇだろ。浮島はすでに神々の楽園と化している。それがルマンド王国の領土となるのは、ミヤビはよくても他の神々が黙ってねぇぞ」」

私の言葉を遮ってやっと喋ったロードは、援護どころか敵に寝返ったのだった。
しおりを挟む
感想 1,620

あなたにおすすめの小説

幼女公爵令嬢、魔王城に連行される

けろ
恋愛
とある王国の公爵家の長女メルヴィナ・フォン=リルシュタインとして生まれた私。 「アルテミシア」という魔力異常状態で産まれてきた私は、何とか一命を取り留める。 しかし、その影響で成長が止まってしまい「幼女」の姿で一生を過ごすことに。 これは、そんな小さな私が「魔王の花嫁」として魔王城で暮らす物語である。

乙女ゲームのモブに転生していると断罪イベント当日に自覚した者ですが、ようやく再会できた初恋の男の子が悪役令嬢に攻略され済みなんてあんまりだ

弥生 真由
恋愛
『貴女との婚約は、たった今をもって解消させてもらう!!』  国のこれからを背負う若者たちが学院を卒業することを祝って開かれた舞踏会の日、めでたい筈のその席に響いた第一皇子の声を聞いた瞬間、私の頭にこの場面と全く同じ“ゲーム”の場面が再生された。 これ、もしかしなくても前世でやり込んでた乙女ゲームの終盤最大の山場、“断罪イベント”って奴じゃないですか!?やり方間違ったら大惨事のやつ!!  しかし、私セレスティア・スチュアートは貧乏領地の伯爵令嬢。容姿も社交も慎ましく、趣味は手芸のみでゲームにも名前すら出てこないザ・モブ of the モブ!!  何でよりによってこのタイミングで記憶が戻ったのか謎だけど、とにかく主要キャラじゃなくてよかったぁ。……なんて安心して傍観者気取ってたら、ヒロインとメインヒーローからいきなり悪役令嬢がヒロインをいじめているのを知る目撃者としていきなり巻き込まれちゃった!? 更には、何でかメインヒーロー以外のイケメン達は悪役令嬢にぞっこんで私が彼等に睨まれる始末! しかも前世を思い出した反動で肝心の私の過去の記憶まで曖昧になっちゃって、どっちの言い分が正しいのか証言したくても出来なくなっちゃった! そんなわけで、私の記憶が戻り、ヒロイン達と悪役令嬢達とどちらが正しいのかハッキリするまで、私には逃げられないよう監視がつくことになったのですが……それでやって来たのが既に悪役令嬢に攻略され済みのイケメン騎士様でしかも私の初恋の相手って、神様……これモブに与える人生のキャパオーバーしてませんか?

3年前にも召喚された聖女ですが、仕事を終えたので早く帰らせてもらえますか?

せいめ
恋愛
 女子大生の莉奈は、高校生だった頃に異世界に聖女として召喚されたことがある。  大量に発生した魔物の討伐と、国に強力な結界を張った後、聖女の仕事を無事に終えた莉奈。  親しくなった仲間達に引き留められて、別れは辛かったが、元の世界でやりたい事があるからと日本に戻ってきた。 「だって私は、受験の為に今まで頑張ってきたの。いい大学に入って、そこそこの企業に就職するのが夢だったんだから。治安が良くて、美味しい物が沢山ある日本の方が最高よ。」  その後、無事に大学生になった莉奈はまた召喚されてしまう。  召喚されたのは、高校生の時に召喚された異世界の国と同じであった。しかし、あの時から3年しか経ってないはずなのに、こっちの世界では150年も経っていた。 「聖女も2回目だから、さっさと仕事を終わらせて、早く帰らないとね!」  今回は無事に帰れるのか…?  ご都合主義です。  誤字脱字お許しください。

継母の心得 〜 番外編 〜

トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。 【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】

乙女ゲームに転生した世界でメイドやってます!毎日大変ですが、瓶底メガネ片手に邁進します!

美月一乃
恋愛
 前世で大好きなゲームの世界?に転生した自分の立ち位置はモブ! でも、自分の人生満喫をと仕事を初めたら  偶然にも大好きなライバルキャラに仕えていますが、毎日がちょっと、いえすっごい大変です!  瓶底メガネと縄を片手に、メイド服で邁進してます。    「ちがいますよ、これは邁進してちゃダメな奴なのにー」  と思いながら

転生幼女の怠惰なため息

(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン… 紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢 座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!! もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。 全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。 作者は極度のとうふメンタルとなっております…

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

有能なメイドは安らかに死にたい

鳥柄ささみ
恋愛
リーシェ16歳。 運がいいのか悪いのか、波瀾万丈な人生ではあるものの、どうにか無事に生きている。 ひょんなことから熊のような大男の領主の家に転がりこんだリーシェは、裁縫・調理・掃除と基本的なことから、薬学・天候・気功など幅広い知識と能力を兼ね備えた有能なメイドとして活躍する。 彼女の願いは安らかに死ぬこと。……つまり大往生。 リーシェは大往生するため、居場所を求めて奮闘する。 熊のようなイケメン年上領主×謎のツンデレメイドのラブコメ?ストーリー。 シリアス有り、アクション有り、イチャラブ有り、推理有りのお話です。 ※基本は主人公リーシェの一人称で話が進みますが、たまに視点が変わります。 ※同性愛を含む部分有り ※作者にイレギュラーなことがない限り、毎週月曜 ※小説家になろうにも掲載しております。

処理中です...