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第三章

絶滅危惧種ドラゴンの事情

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『種がすぐに成長したのはこの地が神王様の神域だからでしょう』

ヴェリウスの当然だというドヤ顔に首を傾げる。
深淵の森が神域だとしても、森の木々はいたって普通だし…あ、普通ではなかった。木のモンスター“トレント”だった。(←※森の木々はモンスターではありません)

しかし、ウチの畑の急成長は私が願ったからだ。

『放っておいてもこの位の成長は当たり前の“地”という事です』

つまり、願わなくてもこの森の中なら植物は急成長するって事?

『そうですね。とはいえ、3日程かけて実が成る程度の成長でしょうが』

それでも早すぎる位だ。
ならウチの畑に私が願った事は意味がなかったのか…。

『そんな事はありません。ミヤビ様が早く食べたいと思ったからこそ、この森自体が植えられた植物に対して急成長を促すようになったのでしょうから』

普通じゃない事の発端は私だった!?

「神王様の神域は特しゅ…特別ですから、何が起こっても驚きませんわ」
『の割には村に驚いていたではないか』
「ヴェリウス! あげ足取らないでちょうだい!!」

ランタンさんとヴェリウスの掛け合いを横目に、広大な農場を見る。
3日で実が成るなら、他に売れる程野菜が出来るだろう。ならば、天空神殿で“珍獣の八百屋さん”でも始めるのはどうだろうか?

『ミヤビ様、またおかしな事を考えているのですか…その顔、嫌な予感しかしません』

スイマセン。

ヴェリウスに窘められたので、考えを明後日の方に飛ばす。

そうだ!! 砂漠に囲まれた国、フォルプロームで畑を作るのはどうだろうか!! トウモロコシとかイネとか…アフリカの砂漠でスイカも成るって聞いた事あるし、乾燥地で成る植物を育てれば食糧難も回避できる。
本当は豊かな地にしてあげればいいのだろうけど、世界のバランスを考えれば乾燥地もないといけない気がするのだ。
そこでしか生活出来ない種もいるのだし。

ロードやリンに乾燥地で成る野菜の種を渡してみようかなぁ。

『ミヤビ様、先程よりも嫌な予感がするのですが、気のせいでしょうか』

よし、ロードが帰ってきたら相談してみよう。
そう決めてヴェリウスを見れば、何故か訝しげにこちらを見ていた。


◇◇◇


「神王様、アタクシがこちらに参りましたのは、天空神殿の住人候補についての事でご相談があったからなのです」

農場を見学し終わり、サンショウウオのお兄さんに乗せてくれたお礼を言って別れてから、今は休憩がてらウチの庭でお茶をしているのだが、ランタンさんがそう言いながらまな板胸から手鏡を取り出した。

「よくよく考えたら、アタクシの管理するものはドラゴンちゃんしかいないので人型にはなれないのです」

そうだね。よくよく考えなくてもそうだろうね。

「しかも今やドラゴンちゃん達は絶滅危惧種。新たな命が孵っているといっても、まだまだ数が少ないのですわ」
『ならば住人候補も何もなかろう』

はぁ…と色っぽく溜め息を吐きながら憂い顔をするランタンさんを、バッサリ斬るヴェリウス。しかも気持ち悪い顔をするなと毒舌だ。

「そこでアタクシ考えましたの!! ドラゴンちゃん全員天空神殿に移住すればいいのではないかと!! だって天空神殿(浮島)だなんて、ドラゴンちゃんの為にあるようなものだと思いませんか!?」

は?

『ランタン。天空神殿は神王様のもの。貴様やドラゴンのものではない。不敬だぞ』

ギロリとランタンさんを睨み付け、鼻の頭にシワを寄せているヴェリウス。
それに対してランタンさんは、気にしていないように飄々としている。

「いやねぇ~。別にアタクシは神王様の天空神殿がアタクシやドラゴンちゃんのものだなんて言ってるわけではないわよ~。神王様、誤解をまねく物言いをしてしまった事、深くお詫び申し上げます」
「あ? いや、大丈夫デス」

急に謝られるので戸惑ってしまう。

「そうではなく…浮島は空に漂い人間は勿論、神族すらも専用の出入口からでないと出入りできません。
タマゴを産んだドラゴンちゃんは人の気配に敏感になりますから、安全で静かに暮らせる場所が必要なのです。だからこそ、子育てしているドラゴンちゃん達の保護区として、浮島という人の立ち入らない場所は丁度良いのではないかと思ったのですわ」

アタクシの神域は最近何かと騒がしいので。と困ったように笑うランタンさんに、何かあったのだろうかと心配になる。
ヴェリウスもそう思ったようで、何があった? とたずねている。

「実は…最近竜人と獣人がアタクシの神域の周りに移住してきたのよ…それだけなら別に構わないのだけど、神域内で保護しているドラゴンちゃんが結界の外に出ると攻撃してくるようになって…」

と持っていた手鏡にドラゴンを捕まえようとしている竜人と獣人を映しだし見せてくれた。
弓や槍、剣を持ち、攻撃している者と、漁で使いそうな網を広げている者がいる。中には魔法を使い火を放っている者までいた。
魔素が世界を覆った為に、魔法を使える者が出て来たらしいのだ。

「今はまだ怪我をしているドラゴンちゃんもおりませんが、このままでは時間の問題ですわ…アタクシの神域内だけではドラゴンちゃん達の子供達の餌を賄えませんもの。どうしても外に出て行く必要があります…」

ドラゴンの餌って何だろうか?

『大人のドラゴンは魔素を主食としますので、今の魔素に覆われた世界ではどこに居ても生きていけます。
しかしドラゴンの子供は…特に孵ったばかりの者は、直接魔素を取り込む器官が発達していない為に、間接的に取り込むしかありません。
主食としては魔素を含んだ動物の肉や植物等です。が、神域とは通常、血で汚す行為は御法度なのです。穢れは神の力を弱体化させる為です。
ですが、植物に宿る魔素は動物に比べ3分の1以下…つまり、食べる量を増やさなければ生きてはいけません』
「アタクシの神域の植物は減っていくし、ドラゴンちゃんの子供は弱体化していくしで、神域外に出るしかない状態ですのに…」

これは早急にドラゴンを浮島に移住させる必要があるようだ。
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