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第二章

乙女ゲーム “剣竜王ヴァルバルギ”

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あのピアスは…っ

「剣竜王ヴァルバルギの守護するパルティターン村のリューシオの娘、リュカの想い人ライディンが親友アランに2人の夢の約束として渡した、私の作ったピアスだ!!」
「あ゛? 今なんてった?」

ロードが訝しげな声を出すが、返事が出来る余裕が無い。
私の頭の中は、何故人族の神がそのピアスを持っているのか!? という疑問で一杯だったからだ。

「主様? バッドギルティ…村? のライディングアランっていう人にピアスをプレゼントしたんですか?」

違う。何だか村の名前が恐くなっている。人の名前も必殺技の名前のようになっているぞショコラ。

確かにあれは私が8年前に頼まれて作ったピアスだ。
能力で拡大して確認したが、細かい箇所の柄は私のオリジナルだから間違いない。

「違うよショコラ。ライディンやアランにピアスをプレゼントなんてするわけがないでしょ。…私があのピアスを作って渡したのは、アランのコスプレをするからって製作を頼んできたにだよ!!」
「は…? こ、コス…?」
「主様~、こすぷれって何ですか??」

説明しよう。コスプレとは、漫画やアニメの登場人物の扮装をする事である。

戸惑うショコラとロードに余計な知識を与えながら、私は過去を思い出していた。


◇◇◇


「みーちゃん!! 今度のコミケで剣竜王ヴァルバルギのコス併せする事が決まったよ!!」
「いや、剣竜王ヴァルバルギって何!? すごい名前なんですけど!?」
「私が今ハマってる乙女ゲームの題名だよぉ~」
「乙女ゲーム!? 剣竜王ヴァルバルギってのが!?」

どうかんがえても乙女ゲームより冒険や戦闘もののゲームではないだろうかという題名を叫びながら、嬉しそうに走ってくる美人な親友は漫画、アニメ、ゲームが大好きなオープンオタクである。

「あのね、私がコミケでやるのは、剣竜王ヴァルバルギの守護するパルティターン村のリューシオの娘リュカの想い人ライディンの親友アランなの!! それでね、手先が器用なみーちゃんにお願いがあるんだけど、アランがライディンからプレゼントされたピアスを作ってもらいたいんだぁ~」
「可愛くおねだりされても、ツッコミどころがありすぎて逆にツッコめねーよ!?
 剣竜王からのその前置きいるぅ!? 今の説明アランだけでよくない!? 
てか誰がメインキャラなのそのゲーム!?」

結局まくし立てるようにツッコめば、丁寧にゲーム内容を語ってくれた親友を、そうじゃないと殴りたくなったのは言うまでもない。

ちなみに剣竜王ヴァルバルギのストーリーは、異世界から召喚された女子高生が主人公プレイヤーで、召喚先が竜王ヴァルバルギの頭の上だった事から物語が始まる。
ヴァルバルギはドラゴンではあるが、何故か剣の扱いがその世界トップレベルなのだそうだ。
ブレスでも、魔法でもない、剣の扱いで竜王となった異色のドラゴンなんだとか。
それはもはやドラゴンである事に何の意味があるのだろうか。

誰に召喚されたかも謎な主人公が過酷な世界を生きていくには強くなるしかない!! という脳筋な考えの元、ヴァルバルギに弟子入りし、様々なモンスターを師匠ヴァルバルギと共に倒して行くまさに脳筋ファンタジーである。
問題なのは主人公の武器が弓だという事だ。剣ではないのか。
そして、修行の中で出会う見目麗しい男性諸君との恋愛模様がちょろっとあるかなぁ程度の、後は戦いの日々というどこが乙女ゲームぅぅ!? な剣竜王ヴァルバルギは、一部のファンから異様に支持されるというマイナーなゲームである。
そして題名にもなっているヴァルバルギではあるが、攻略対象ではない。
全てにおいて裏切られるゲーム。それが剣竜王ヴァルバルギなのだ。

◇◇◇


余計な事も思い出してしまったが、そのアランのピアスを作って欲しいと言ってきた親友こそが、「アンタより彼氏の方が大事だから」と私を切り捨てたあの親友である。

つまり元親友の、8年前にコスプレで使用していたピアスをあの人族の神が付けている事になるわけで……。

これは、ボケられているのだろうか?
もしかして人族の神はああやってツッコミ待ちとか?

蔑んだ目をされたけど、こっちが蔑んだ目をしてもいいのでは? と思えてくるのは気のせいだろうか。


「あ~…つまり、親友にプレゼントしたピアスを人族の神が今付けているって話でいいのか?」

そんな事をつらつら考えていると、突然ロードにそうふられ、心を読まれた!? と驚いていたら…

「全部口に出してましたよ~」

とショコラに笑われた。
思わず手で口をふさいだこの間抜けさに、ロードもショコラもただ優しい眼差しを向けるだけだった。
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