継母の心得 〜 番外編 〜

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番外編 〜 ミーシャ 〜

番外編 〜 ミーシャの日常、公爵邸招待編2 〜

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ミーシャ視点


三人との待ち合わせ場所は、アカデミーのすぐ近くにある広場の、女神像の前。
いつものように変装した格好で、ドキドキしながら友人たちを待つ。

公爵家の馬車は少し離れた所に待機してもらっていた。

「ミーちゃんお待たせ」

後ろからぽんっと肩に手を乗せられ、体が跳ねる。

「コニー、おはよう。早いね」
「驚かせちゃってごめんね。ミーちゃんも早いね。まだ待ち合わせまでに20分以上あるよ」

クスクス笑いながら、コニーが時計台を見る。

「うん。早く着いちゃって……」
「じゃあ、二人が来るまで、そこのカフェで待ってよーよ」
「あ、うん」

コニーに手を引かれ、すぐそばのカフェのオープンテラスに腰を落ち着ける。
ここならクロエもナツィーもすぐにわかるだろう。

「ミーちゃん何頼む? 私はカフェラテにしようかな~」
「私も同じもので……」

ハァ……、この後の事を考えると、心臓がバクバクして息がしにくい。

「すいませーん、カフェラテ2つお願いします」

コニーが注文してくれて、すぐに美味しそうなカフェラテがやってくる。

「ミーちゃんの家に行くの初めてだね」
「う、うん。そうだね」
「貴族様のおウチに、どんな格好で行ったらいいのかわからなかったから、この間ホテルで着てたワンピースにしたんだけど、大丈夫かなぁ」
「普段の格好でも大丈夫だったよ」
「私は平民だもん。貴族様のお宅で失礼があったらダメだし」

おっとりした口調で、しっかりした事を言うコニーは、さすが花屋を手伝っているだけはある。

「ウチは気にする人はいないけど」
「私が気にするから~」

コニーのミモレ丈のスカートが、風でふわりふわりと揺れている。

おっとりした笑い声を聞きながら、クロエとナツィーが来るのを待った。

暫くして、二人も来て、カフェでお茶を飲んでから、ウチに行く事になった。
クロエとナツィーのコップの中の飲み物が減る度に、心臓が激しく鼓動する。

「ごちそうさまでした! よし、じゃあ男爵令嬢様のおウチにお邪魔しましょうか!」
「そうだね。楽しみだよ。確かミーシャの家には犬がいるって言ってたよね」
「貴族様のおウチ、ドキドキするねぇ」

皆が立ち上がり、会計をした後、カフェから出る。

「貴族街だとこっちに進めばいいんだよね?」
「ウチの馬車で行く?」

などと話している友人たちの背中を見ながら、息を整える。

「みんな、馬車があるから、それに乗って」

私の言葉に、皆の顔が固まった。

「どうしたの?」
「いや、だってミーシャ! 貧乏貴族のアンタに馬車を出してもらったなんて、何か悪い事しちゃった気がして……っ」
「馬車なんて私たち子供は滅多に出してもらえないから、何か気を遣わせてごめん」
「クーちゃんならまだしも……」

そうか。貧乏男爵家の娘設定だから、そういう反応になるよね……。

「大丈夫だよ。お父様もお母様も、特に何も言ってなかったし……」

私専用の馬車だから、好きに使っても何も言われないから。

「特に何も言ってなかったって、ちゃんと許可もらわなかったの!?」
「ミーシャ、それは良くないよ」
「ミーちゃん、ご両親にごめんなさい、しよう?」

誤解されてしまった……。

「許可はちゃんと取ってるから大丈夫。馬車はこっち……」

「本当に大丈夫なの?」と言いながらついてくるみんなは、不安そうだ。

「あれ、うちの馬車……」

待っていた馬車を指差すと、「え……、随分立派過ぎな馬車、だね……」ってちょっと引かれた。

「うわぁ……この馬、最高級の軍馬じゃないか……」
「ミーシャ!? 本当にこの馬車、ミーシャの家の馬車なの!?」
「うん……」

さっきから後ろを気にならない程度に離れ、ついてきていた護衛が馬車の扉を開けてくれる。
それに皆はぎょっとした顔をしており、血の気が引いていく。

貧乏男爵令嬢の馬車に護衛が付いているって、やっぱり変だよね……。

「みんな、馬車に乗って……?」

恐る恐る促すと、みんな顔色を青くして、

「ぇ、あ、う、うん」
「ほ、本当にこんな立派な馬車に乗って良いのかな……?」
「え、の、乗るの!?」

と言いながら、馬車の階段を上っていく。私が乗り終わると、護衛は扉を閉めた後、繋いでいた自身の馬へと飛び乗り、御者とアイコンタクトを取って、馬車がゆっくり走り出したのだ。

「す、すごい……極上の乗り心地……っ、この馬車、先日発表されたばかりの新馬車じゃない……」
「な、なんか内側の高級感もすごいね……」
「指紋一つ付けたらダメ……っ、触ったら処刑されるんだわ……」

クロエは座席の座り心地を確かめた後、キョロキョロと馬車を見て、ナツィーは緊張しているように、姿勢を正し、コニーは何にも触らないように膝の上で指を握り込み、真っ青になって震えていた。

私は、ただ俯いて足元を見つめていたのだ。

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