継母の心得 〜 番外編 〜

トール

文字の大きさ
上 下
161 / 189
番外編 〜 ぺーちゃん 〜

番外編 〜 教皇とイザベル4 〜 ノア10歳、アベル5歳

しおりを挟む


「ペーちゃん、こんにちは」
「にょあ!」

ノアにとっても可愛い笑顔をみせて、懐いている様子を見せるペーちゃん。

ノアの登場と、おやつですっかりご機嫌がなおったペーちゃんは、今わたくしの膝の上で必死に赤ちゃん用のクッキーを食べている。

「ディバイン公爵夫人、孫の世話をやいていただき申し訳ない」
「フフッ、可愛らしくて、役得ですわ」
「ペーちゃ、かわぃ!」
「ええ。ペーちゃんは可愛いですわ」

小さい頃のノアを思い出しますわね。

「にょあ、ペーちゃ、かわぃ?」

まぁ、ペーちゃんったら、首をこてんと傾げて、上目遣いだなんて、あざといですわ。

「うん。ペーちゃんは可愛いよ」

ノアも可愛いですわ。

「にょあ、ちゅきー!」
「あら、ノアはペーちゃんに好かれていますのね」

お菓子で汚した、ペーちゃんのお口や手を拭きながらノアを見ると、「おもちゃの宝箱で遊んでから、懐かれたみたいなんです」とニコニコ笑っている。

「そうでしたの。ノアは優しい子に育ってくれたから、ペーちゃんも大好きになったのね」
「私は、下に弟妹がいますから、慣れているだけです」

恥ずかしそうに目をそらす息子は、最近ますますしっかり者のお兄ちゃんになってきている。

「そんなに急いで大人にならないでね。ノア」

お母様、寂しくなっちゃうから。と言えば、戸惑って首を傾げている。

「ディバイン公爵夫人の言いたい事はよくわかりますぞ。子供の成長は早いですからなぁ。ウチの孫もこのように、じーじの膝ではなく、夫人の膝にお邪魔して、食べさせてもらっているのですから、じーじは寂しいですなぁ」
「うにゅ!?」
「まぁ、ペーちゃん、じーじはヤキモチをやいているのかもしれませんわ」

クスクス笑いながらペーちゃんに言えば、ペーちゃんは「じーじ……かぁちゃ……」とわたくしと大司教を交互に見るのだ。

「かぁちゃ? ペーちゃんは、私の弟になったの?」
「! にょあ、にー!」
「お母様、ペーちゃんが私の弟になりました!」
「フフッ、息子が増えましたわね」
「かぁちゃ、にー、じーじ、ちゅきー」

ノアもぺーちゃんも、可愛いわぁ。

などとほっこりしている様は、皇城での対談の時とは大違いの穏やかな空気だ。

「───っ、……さま……ッ」

そんな空気を壊すように、部屋の外が騒々しい事に気付く。

「お母様……」

ノアも気付いたようで、何かあったのかとわたくしを見る。大丈夫よ、と微笑んで安心させると、扉の前に立っているミランダを見た。ミランダは頷くと扉を開き……、

「おかあさま!」

なんと、アベルが飛び込んできたではないか!
腕の中のぺーちゃんが、ビクッとして、手に持っていたクッキーを落としてしまった。

「ペーちゃ……おかち……」

落としてごめんなさいというような顔をして、わたくしを見上げるので頭を撫でる。

「アベル、お客様がいらっしゃっているのに、突然入ってくるなんて、お行儀が悪いですわよ。大司教、息子が申し訳ございませんわ」
「っ……おかぁさま、ごめんなさい……、だいしきょおさまも、しつれい、いたしました……」

アベルが泣きそうな顔で謝るので、可哀想になってきた。

「ホホッ、私は気にしておりませんぞ。元気で何よりですなぁ」
「アベル、こちらへおいで」

お兄ちゃんのノアが優しい声で呼べば、アベルは「おにいさま……」と手を伸ばす。不安そうなアベルの手を握ってあげるノアは、素敵なお兄ちゃんだ。

「奥様……」

声を潜め、ミランダが困ったようにわたくしを呼び、視線の先の扉を見ると、隙間から、心配そうにアベルを見るフロちゃんの姿もあって驚いた。

「まぁ、フロちゃんまで。どうしたんですの??」

わたくしが声をかけると、入ってもいいの? というように大人たちの顔色を伺っているので、「こちらへおいでなさい」と呼ぶと、遠慮がちにやって来る。

アベルとフロちゃん、二人が並ぶ。

「二人とも、どうしてお客様がいらっしゃっている所へやってきましたの?」
「……あのね、アオが、きょーこーさまっていうひとが、かんてーっていう、ちからもってるから、フロちゃんのこと、しられてるってね、おしえてくれたんだ」

アオ……。

『アオ、わるくない!! たまごたち、おしえてくれた!! アオ、ノアと、アベル、おしえてあげたい!!』

まったく、このキノコ妖精は……。チクられた卵たちが慌てていますわよ。

「それでオレ、だいしきょおさまに、おねがいがあって……っ」

アベルはフロちゃんを守りたいと思ったんですのね。そんな所はテオ様そっくりですわ。

「アベル公子、私にお願いとはなんでしょうかな?」

椅子から立ち上がり、二人の前に膝をつくと、にっこり笑う大司教に、アベルは勇気を振り絞ったように言い放つ。

「だいしきょおさま、フロちゃんは、まだこどもです!」
「ホホッ、そうですな。アベル公子様も、フローレンス様も、まだ小さなお子様ですなぁ」
「こどもは、ほご……ほごしゃ! の、そばにいなきゃいけませんっ」
「確かに仰る通りですな」
「だから、おとなになったら、きょーかいではたらきますから、いまは、きょーかいにつれていくのは、やめてください!!」

アベル……。あなたって子は……っ、いつからこんなに頼もしくなったのかしら。

「ホホッ、大人になったら、教会で働いてくださるのですか。それは嬉しいことですな!」
「え……、いいの?」
「もちろんです」

大司教はにこにこと、はっきりそう返事をしたのだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

継母の心得

トール
恋愛
【本編第一部完結済、2023/10〜第二部スタート ☆書籍化 11/22ノベル5巻、コミックス1巻刊行予定☆】 ※継母というテーマですが、ドロドロではありません。ほっこり可愛いを中心に展開されるお話ですので、ドロドロが苦手の方にもお読みいただけます。 山崎 美咲(35)は、癌治療で子供の作れない身体となった。生涯独身だと諦めていたが、やはり子供は欲しかったとじわじわ後悔が募っていく。 治療の甲斐なくこの世を去った美咲が目を覚ますと、なんと生前読んでいたマンガの世界に転生していた。 不遇な幼少期を過ごした主人公が、ライバルである皇太子とヒロインを巡り争い、最後は見事ヒロインを射止めるというテンプレもののマンガ。その不遇な幼少期で主人公を虐待する悪辣な継母がまさかの私!? 前世の記憶を取り戻したのは、主人公の父親との結婚式前日だった! 突然3才児の母親になった主人公が、良い継母になれるよう子育てに奮闘していたら、いつの間にか父子に溺愛されて……。 オタクの知識を使って、子育て頑張ります!! 子育てに関する道具が揃っていない世界で、玩具や食器、子供用品を作り出していく、オタクが行う異世界育児ファンタジー開幕です! 番外編は10/7〜別ページに移動いたしました。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!? 自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。 果たして雅は独りで生きていけるのか!? 実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています

愛する夫にもう一つの家庭があったことを知ったのは、結婚して10年目のことでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の伯爵令嬢だったエミリアは長年の想い人である公爵令息オリバーと結婚した。 しかし、夫となったオリバーとの仲は冷え切っていた。 オリバーはエミリアを愛していない。 それでもエミリアは一途に夫を想い続けた。 子供も出来ないまま十年の年月が過ぎ、エミリアはオリバーにもう一つの家庭が存在していることを知ってしまう。 それをきっかけとして、エミリアはついにオリバーとの離婚を決意する。 オリバーと離婚したエミリアは第二の人生を歩み始める。 一方、最愛の愛人とその子供を公爵家に迎え入れたオリバーは後悔に苛まれていた……。

異世界で狼に捕まりました。〜シングルマザーになったけど、子供たちが可愛いので幸せです〜

雪成
恋愛
そういえば、昔から男運が悪かった。 モラハラ彼氏から精神的に痛めつけられて、ちょっとだけ現実逃避したかっただけなんだ。現実逃避……のはずなのに、気付けばそこは獣人ありのファンタジーな異世界。 よくわからないけどモラハラ男からの解放万歳!むしろ戻るもんかと新たな世界で生き直すことを決めた私は、美形の狼獣人と恋に落ちた。 ーーなのに、信じていた相手の男が消えた‼︎ 身元も仕事も全部嘘⁉︎ しかもちょっと待って、私、彼の子を妊娠したかもしれない……。 まさか異世界転移した先で、また男で痛い目を見るとは思わなかった。 ※不快に思う描写があるかもしれませんので、閲覧は自己責任でお願いします。 ※『小説家になろう』にも掲載しています。

【完結】わたしはお飾りの妻らしい。  〜16歳で継母になりました〜

たろ
恋愛
結婚して半年。 わたしはこの家には必要がない。 政略結婚。 愛は何処にもない。 要らないわたしを家から追い出したくて無理矢理結婚させたお義母様。 お義母様のご機嫌を悪くさせたくなくて、わたしを嫁に出したお父様。 とりあえず「嫁」という立場が欲しかった旦那様。 そうしてわたしは旦那様の「嫁」になった。 旦那様には愛する人がいる。 わたしはお飾りの妻。 せっかくのんびり暮らすのだから、好きなことだけさせてもらいますね。

地味薬師令嬢はもう契約更新いたしません。~ざまぁ? 没落? 私には関係ないことです~

鏑木 うりこ
恋愛
旧題:地味薬師令嬢はもう契約更新致しません。先に破ったのはそちらです、ざまぁ?没落?私には関係ない事です。  家族の中で一人だけはしばみ色の髪と緑の瞳の冴えない色合いで地味なマーガレッタは婚約者であったはずの王子に婚約破棄されてしまう。 「お前は地味な上に姉で聖女のロゼラインに嫌がらせばかりして、もう我慢ならん」 「もうこの国から出て行って!」  姉や兄、そして実の両親にまで冷たくあしらわれ、マーガレッタは泣く泣く国を離れることになる。しかし、マーガレッタと結んでいた契約が切れ、彼女を冷遇していた者達は思い出すのだった。  そしてマーガレッタは隣国で暮らし始める。    ★隣国ヘーラクレール編  アーサーの兄であるイグリス王太子が体調を崩した。 「私が母上の大好物のシュー・ア・ラ・クレームを食べてしまったから……シューの呪いを受けている」 そんな訳の分からない妄言まで出るようになってしまい心配するマーガレッタとアーサー。しかしどうやらその理由は「みなさま」が知っているらしいーー。    ちょっぴり強くなったマーガレッタを見ていただけると嬉しいです!

側室の妊娠により正妃は婚約破棄されました。愛して貰えなかった正妃はどうしたらいいの?

五月ふう
恋愛
「今日はね、ソラに  一つ嬉しい知らせがあって  教えに来たのよ。」 「なによ?  貴方がこの城を出ていくの?」   私にとって、 それ以上の知らせはない。 「いいえ。  私ね、  フィリップの子供を  妊娠したの。 」 「え、、、?」  側室である貴方がが、 正妃である私より先に妊娠したら、 私はどうなるの、、? 「ああ、  そんなにびっくりしないで。  ソラは正妃としての仕事を  そのまま続けてくれていいのよ。」 私は助かったの、かな、、? 「お飾りの正妃として、  このまま頑張ってね。  ソラ。」 その言葉は私を絶望させた。

処理中です...