継母の心得 〜 番外編 〜

トール

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番外編 〜 ぺーちゃん 〜

番外編 〜 教皇の正体3 〜 ノア10歳、アベル5歳

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教皇フェリクス視点


私は生まれ落ちた瞬間から記憶があった。
最初は目があまり見えず、ぼやけていたから分からなかったが、私の両親が前世と同じだと気付いたのは早かったと思う。

ここは回帰した世界なのだと、そこで理解したのだ。

私は、人生をもう一度やりなおしている。

何故そんなにあっさり受け入れられたかといえば、この『鑑定』の能力が関係する。

特殊な能力と優秀な頭脳、そして神託で、赤子の頃から教皇という地位に就いた私は、二十代の時にこの世界を鑑定してしまった。能力の暴走かと思ったが、今考えると、あれは神からのメッセージだったのかもしれない。

“世界は回帰する”

鑑定で見たこのメッセージが、回帰した世界というのを受け入れられた理由だ。

私の大切な人たちが亡くなった後、暫く後、あの食事を最後に、目覚めるとこの世界だったので、恐らく私は毒殺でもされて、回帰前のあの世界は消滅したのだろう。


そして今世、私の特殊な能力の弊害か、夜になると私の瞳にはうっすら陣のようなものが見えるのは変わらなかった。いくら赤子のふりをしようと、能力を隠そうと、それだけは隠せるはずもなく、また、両親から化け物を見るような目で見られるのか、また、捨てられるのか。そう思うと溜め息が出た。
しかし、教会に捨てていってくれる事だけは、唯一、両親の褒められる所だと思う。

私を見つけてくれたのは、クレオという、大司教という立場にある老人だった。回帰前も、クレオに発見されたので、やはり人生は変わらないらしい。

コイツは人が良過ぎるほど良く、騙されやすいので目が離せない。私がいなくてはダメな奴なんだ。

しかし、言葉を話せるようになるまでの屈辱の日々は、思い出したくもない。
まぁ、オムツは想像していたより快適だったが。驚く事に、粗相をしても吸収して、匂いもなくベタつきもないのだ。
と、こんな話はどうでも良い。

「くりぇおよ、わたちは『かいき』ちたのだ!」

クレオは私の話を馬鹿にすることも、気持ち悪がるわけでもなく、最後まで聞いてくれた。誠に得難い爺である。
そして、

「教皇猊下、お話にあったオリヴィア側妃は処刑され、リッシュグルス国の第一王子は病気でお亡くなりになりました。現在第三王子であったジェラルド様が国王となり、グランニッシュ帝国の友好国として、とても良い関係を築いております。そして、ネロウディアス帝はぴんぴんしておりますし、韜晦皇帝と大変評判ですな。あの大粛清は本当に爽快でしたぞ」
「しょんな、ばかにゃ……っ」

隣国との戦争がきっかけで、周辺諸国が攻めてきたというのに!?

「戦争ですか? ディバイン公爵のおかげで、この国の防衛は万全。戦争のせの字も出ぬほど平和でございますなぁ」

ディバイン公爵も、生きているのか!?
どういう事だ……。回帰前とは全く違う!

「ディバイン公爵家の嫡男であらせられるノア公子は、とても優秀だそうで、イーニアス皇太子殿下と共に、デビュタント前にも関わらずすでに有名で、市井でも大人気なのですよ。グランニッシュ帝国は安泰ですな」
「にょあ!」

ノアは私の憧れの人だ! あの人は、優しく強く、皆の英雄ヒーローだった。聖女フローレンスを守る為に、共に戦った同士でもある。

「んにゅ? いーにあちゅ?」
「イーニアス皇太子殿下は、ネロウディアス帝と皇后マルグレーテ様の間に生まれた皇子で、皇太子として立太子しておりますよ」

イーニアスが皇太子というのは、回帰前のままだ。
しかし市井でも人気?? 私の知っているイーニアスは、皇帝になるためにノアの命を狙い、聖女であるフローレンスを手に入れようとしていた悪者だぞ。

「イーニアス皇太子殿下とノア公子は幼い頃から大変仲がよろしいようで、最近は『おもちゃの宝箱』にも二人一緒に顔を出しているようですな。ディバイン公爵夫人のお店ですから、安全ですし行きやすいのでしょう。私も一度は行ってみたいのですが、カフェはいいにしても、おもちゃとなると、この爺ではハードルが高くて……」
「にゃか、いい? ぉもちゃ? ぃばいん……ふじん?」

何だそれは!? まず、イーニアスとノアはそのように馴れ合う関係ではないはずだ! むしろ敵対していただろう!? おもちゃの宝箱なる店など聞いた事もないし、ディバイン公爵夫人だと!? 奴はノアを虐待していた悪辣非道な女ではないか!

「にょあ、だぃじょーぶ、にゃのか!?」
「? 大丈夫とは、何がですかな?」
「にょあ、ぃばいんこぉちゃくふじんに、いじめりゃれてりゅ!」
「ハハハッ、まさかそのような事はございませんよ」
「ふにゅ!?」
「あの母子は大変仲が良いと有名ですし、実際笑い合いながら手を繋ぎ、お出かけしている所をよく見ます。それに、ディバイン公爵夫人はとても評判の良い方ですよ」

何だと!?

回帰したら、世界は一変していた。
馬車は何かこう、シュッとスタイリッシュになっているし、あの地獄のような揺れも軽減され、何より変形するのだ。子供のおもちゃなるものは溢れかえっているし、もうなんか……怖い!

そんな戸惑いの中で、どうしてこうも変わってしまったのかを調査していた所、イザベル・ドーラ・ディバインが全ての中心に在る事を突き止めたのだ。

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