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番外編 〜 アベルとフローレンス 〜
番外編 〜 アベルとフローレンスの結婚 〜
しおりを挟むアベル視点
「聖女様が転移したぞ!?」
「探せー!」
オレの職場は教会にある。幼なじみのフロちゃんを守りたいというのがきっかけで、教会で働く事になったが、神官というわけではない。
オレの仕事は……、
「アベル様っ、聖女様が教会内のどこにもいないようなのです!」
「わかった。オレも探してくる。教皇猊下には、聖女は例の所に行ったのだろうから心配しないように、と伝えてくれ」
「はっ!」
オレの仕事は、教皇フェリクス様に仕える騎士で、聖女フローレンスの筆頭護衛。つまり、“聖騎士”だ。
「フロちゃんはまた、玩具カフェに行ったんだろうな……」
もうすぐ20歳になるオレは、5年前のデビュタントでフロちゃんにプロポーズをした。フロちゃんからは良い返事をもらえ、そのまま婚約をしたわけだが、そろそろ正式に夫婦になっても良い年だろうと、先程教皇にもお許しをいただいた所だ。
『アベル、フローレンスってば、やっぱりおもちゃの宝箱カフェにいるみたい』
「やっぱりか。ありがとうウィル」
『どういたしまして。アベル、フローレンスの所に飛ぶ?』
「そうするよ。力を貸して、ウィル」
『もちろん!』
オレと契約している精霊ウィルに力を貸してもらい、フロちゃんのいる、おもちゃの宝箱の、転移専用の部屋へと飛ぶ。
「あ、しまった……聖騎士の制服のままだった……」
『大丈夫! 私がアベルの部屋から外套取ってきてあげるね』
「ちょ、ウィル」
返事をする前に消えてしまったウィルは、昔から過保護で、率先して色々手伝ってくれる。けど、お父様やお母様からは、自分のことは自分でやらないといけないと言われているので、あまり頼りすぎないよう気を付けているつもりだったけど……
『お待たせ! アベルの外套取ってきたよ』
「ウィル、ありがとう。次からは自分で何とかするから。手を煩わせてごめん」
『何言ってるの!? 私がアベルの為にしてあげたいのだから、気にしないでっ』
「ありがとう……でもさ、オレももうすぐ結婚して、家庭を持つし、しっかりしないといけないだろ」
『アベルは十分しっかりしてるよ!』
ノアお兄様に比べたら、全然頼りないよ。
ノアお兄様は次期公爵として領地経営の仕事も、皇城での仕事も任されて、完璧にこなしている。それに比べてオレは……
『アベルだって、聖騎士として頑張ってる! 不安だって言うなら、ウィルが何でもしてあげるよ! だから……』
「ウィル、オレはウィルが何もしなくても、ただそばにいてくれるだけで嬉しい。だからそんな事言わなくていい」
『アベル……』
「そんな風に言わせてしまってごめん。こんなんじゃ、好きな人とも結婚できないよな……」
5年前はプロポーズに頷いてくれたけど、聖女のフロちゃんが、たかが聖騎士の一人であるオレと本当に結婚してくれるのだろうか───
パクパクと、その細い身体のどこに入っているのかと言いたくなる、山のように積まれたエビフライを食べ続けている女性は、周りからいつものように注目を集めている。
「フロちゃん、勝手にいなくなったらダメだよ」
「……んぐ、あーちゃん……。ちゃんと、置き手紙して、侍女にも、護衛にも伝えた……」
「それでも、転移しちゃったら護衛もついてこれないだろ」
「護衛……あーちゃんが、来てくれたから、大丈夫」
大丈夫じゃないんだけど……。あ、フードがズレかけてるじゃないか。
「フロちゃん、それ食べたら帰ろう」
フロちゃんのズレかけたフードを直しながら言えば、「うん。来てくれてありがとう。迷惑かけてごめん……」と言いながらうなずく。そういう素直なところは可愛いと思う。
フードを被っているとはいえ、フロちゃんは綺麗だから、注目を集めてしまうんだよなぁ。
『アベル、フローレンスは最近全然ここに来れてなかったんだ。ずっと我慢してたんだよ!』
フロちゃんの契約妖精のナサニエルがそう言って、プンプンしている事に驚いた。
「どういう事だよ。フロちゃんがここに定期的に来れるよう、他の聖騎士や侍女にも伝えてから、オレとぺーちゃんは他領の教会に派遣されたっていうのに……」
『確かに周知されてたけど、フローレンス、アベルがいないと怖いって、外に出られなかったんだ』
「え?」
「……あーちゃんは絶対守ってくれる。でも他の人はわからない」
フロちゃん……っ
「うん。オレは絶対フロちゃんを守るよ!」
「ありがと、あーちゃん」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
~ おまけ ~
「なんて事があってさ、やっぱりフロちゃんもオレの事大好きだよね」
休みの日にリュークの皇宮に遊びに来て、惚気話ってやつをしてやった。
「え……スピードアスレチックで優勝して雄叫びあげてたの誰だって話だよ」
「フロちゃんは本当は寂しがり屋だし、怖がりなんだよ」
「お前何言ってんの? オークだぞ。フロちゃん」
リュークはまだ恋人がいないから嫉妬してるんだろうな。
「決めた! 明日、フロちゃんにもう一度プロポーズする!」
「あのフロちゃんを嫁に迎える事が出来るのは、お前だけだよ」
リュークもそう言って、応援してくれたんだ。
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