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番外編 〜ノア5歳〜 〜
番外編 〜 テオバルド、妻の実家へ行く 〜
しおりを挟むテオバルド視点
皇城での仕事を全て終わらせたと思えば、領地で問題が起こり、家族で行くはずだったシモンズ伯爵邸への訪問も、私だけがズレてしまった。
今頃、私の妻子はシモンズ伯爵邸でゆっくりしているのだろう。ベルの事だ。ノアと義父上と共に遊んでいるかもしれん。アベルはぐっすり眠っている頃か……。
「これは……っ、旦那様、領地内の盗賊と、土砂災害の被害について報告書が上がってきております」
「ああ」
早く仕事を終わらせ、シモンズ伯爵邸に行かねばな。
ベルの幼い頃の姿絵や、思い出の場所も見れるかもしれない。楽しみだ。
「報告書によれば、盗賊の数と被害が著しく減少しているとの事で、こちらの原因は恐らく、雇用の増加や領内における好景気だと考えます」
ベルの幼い頃はさぞ愛らしかった事だろう。今は、美の女神と言われても驚かない美しさだが。
毎日惚れ惚れとしていると伝えた事があったが、恥ずかしがっていたな……私の妻は可愛らしい。
「土砂災害に関しても一年前から本格的に行っている対策が功を奏しているようです。やはり奥様が仰る通り、樹木の根は、地盤の浸食や崩壊を防ぐ役割を果たしているのでしょう。植樹はこのまま進め、人工林の下刈りや間伐の手入れは林業に従事する者に任せてもよろしいかと」
「林業の労働災害の発生率は高い。このままではいずれ離職者も増加するはずだ。労働環境の改善など、対策も進めてくれ」
「承知いたしました。それと、雨季の河川の氾濫ですが、やはり堤防が間に合わなかった場所でのみ起こっております」
「事前に避難はさせたのだったな」
「はい。被害は───」
ウォルトの報告を聞きながら指示を出し、さらに緊急の仕事を処理する。
優先順位や決裁の要否で分けた書類のお陰で仕事がしやすい。さらに、書類を決まった形式や書式にした事により、見やすく間違いも発見しやすくなった。
「ベルのお陰だな」
妻の優秀さに頬が緩む。
「旦那様、後はこちらの決裁分さえ終わらせていただけましたら、奥様の元へ行っていただけますので、お願いいたします」
ついに終わりが見えた。これなら、明日の昼にはシモンズ伯爵領へ出発出来る。
◇◇◇
翌日、執務を終わらせ公爵邸を急いで出たのは昼前で、馬を走らせシモンズ伯爵領へと向かった。
「だ、旦那様、もう少しスピードを……っ」
「落とさん。ついて来られる者だけついて来い」
妻子に早く会いたいと馬を飛ばすが、護衛騎士たちはついてくるのがやっとの様子で、鍛え直さねばならないようだと溜め息が出る。
「そんな……っ」
「旦那様の体力と我々の体力は違います!」
「馬が……っ、死ぬ!」
煩い奴らだ。
結局ついて来られたのは一人だけで、後はそのうちやって来るだろうと、シモンズ伯爵家の使用人に部下の事を伝え、早速ベルを探す。
早くベルに触れたい。子供たちの顔も見たい。
使用人に案内され通されたのは応接室で、どこにも家族はいなかった。
暫くして義父上がやって来ると、その後をノアもついて回っいるようで、一緒に応接室へ入ってくる。
「おとぅさま」
ひょこっと義父上の後ろから顔を出した息子は、私の元へとやって来る。
「ノア、お祖父様に遊んでもらっているのか」
「はい! おとぅさまも、あそぶ?」
「後でな。義父上、お久しぶりです」
義父上と挨拶を交わし、ベルの居場所を聞けば、
「おかぁさま、はたけ、いくじゅんび、してるのよ!」
「畑??」
息子の言葉に、義父上は苦笑いだ。
「これから、我が家の畑をノアに見せてあげようと思いましてね」
「そうですか。私も行っても?」
「もちろんです。しかし、閣下が畑とは……護衛騎士は戸惑いませんか?」
「問題ありません。領内の視察でも良く行っています」
「そうでしたか」
ベルが行くのであれば、当然私も行く。
「おとぅさま、はたけ、いく?」
「ああ」
「あのね、おやさい、いっぱいなのよ」
「そうか」
「それでね、わたし、しゅーか? しゅー……するの!」
「集荷……? 収穫のことか」
「はい! あとね、おっきいねこさん、いたの!」
息子は嬉しそうに、これからやりたいこと、今までにあったことを話してくれた。
話しづらいだろうと抱き上げると、余計お喋りは止まらなくなり、珍獣がどうの、猫が喋るだのと、よくわからないことをとりとめもなく言っていた。
猫が人語を話すわけがないだろう。
それから、すぐにシンプルなドレスを着たベルが現れ、私を見つけると嬉しそうにそばへと寄って来た時は、やはりベルとノアは似ていると実感したのだ。
しかし私のベルはシンプルなドレスも良く似合う。
「───おとぅさまと、おかぁさまと、いっしょ、はたけ!」
私とベルに手を繋がれ、ニコニコと畑へと続く道を歩くノアに、ベルが幸せそうに話しかけている。
アベルも一緒にと思ったが、赤ん坊なので留守番だ。あの子がもう少し大きくなったら、今度は四人で畑までの道を歩こう。
その時には、ベルに似た赤ん坊も生まれているかもしれないな。
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