継母の心得 〜 番外編 〜

トール

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番外編 〜ノア5歳〜 〜

番外編 〜 イザベルの母4 〜 ノア5歳、イザベル臨月

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「お嬢様、ご無沙汰しております」
「サリー! 元気だったかしら。あなたもオリヴァーも体調をくずしたりはしていない? オリヴァーはアカデミーで上手くやっていて? あ、今日は素材のサンプルを持って来てくれたのよね……、」
「お嬢様、質問が怒涛すぎてお答えする暇がございません」

先触れの通り、サリーがディバイン公爵家にやって来て、玄関前で挨拶を交わし、会話をしながら邸の中へと入る。
相変わらずのサリーの態度にホッとしながらも、“秘密”が頭を過る。

「ホホッ、ごめんなさい。で、元気でやっていますの?」
「オリヴァー様も私も体調をくずすことなく、元気でございます。ちなみにオリヴァー様は、アカデミーでは当たり障りなくお過ごしで、お休みの日はお屋敷では日がな一日、研究室に閉じこもっております」
「まぁっ、あの子ったら!」

引きこもりになっていますのね!

「サンプルに関しましては、お部屋でお渡しいたします」
「そうね! お茶でも飲みながらゆっくりお話ししましょう!」

わたくしの部屋へと案内し、ミランダにお茶を準備してもらう。

「サリーはパンプキンパイが好きでしょう。パティシエにお願いして作ってもらったのよ」
「よろしいのですか?」
「もちろんよ! あなたはお客様として来ているのだし、もてなされてちょうだい!」

サリーとわたくしの前に切り分けられたパンプキンパイが置かれ、昔の事を思い出す。

「フフッ、昔は特別な日に、お母様がパンプキンパイを作ってくださったのよね……」
「左様でございますね」
「覚えている? いつもお菓子をオリヴァーに譲るサリーが、好物のパンプキンパイだけは譲らなくて、オリヴァーが変な顔をしていた事があったでしょう」
「そうでしたでしょうか……」

あら、サリーったら恥ずかしがっておりますわ。他の人には無表情に見えるでしょうけれど。実は照れている時少しだけ下唇を噛む癖があるのよ。

暫く他愛もない話をし、サンプルをもらって、またお喋りに花を咲かせていたのだけど、そろそろ切り出すべきよね。

「……あのね、サリー」
「何でしょうか。お嬢様」
「あの……サリーは、お母様の両親や親戚の事、知っていて?」

サリーの秘密には触れず、母の事を聞く。

だって、わたくしにも言いたくない事だから秘密にしているわけだし、それを無理矢理聞き出すような真似はしたくありませんもの。

「存じ上げております」
「そう。やっぱりサリーも知らな……え? 知ってますの!?」
「はい。存じ上げております」

淡々と返事をするサリーに、ぎょっと目を見開く。

「あの、それは……教えてもらう事は出来るかしら?」
「はい」
「良いんですの!?」
「イザベル様は、セレーネ様のお嬢様ですから、特に問題はございません」

エェ!?

「あ、あの、テオ様もわたくしのお母様の事を知りたいと言っておりますの。テオ様もお呼びしても良いかしら?」
「私は構いませんが、お嬢様は大丈夫でございますか」
「え、どういう事?」

お母様の両親や親戚は、そんなに問題がある方々なの!?

「お母様は、テオ様にご迷惑をお掛けするような立場の方だという事?」
「そのような事はございません」
「でしたら、大丈夫よ。テオ様は、わたくしが庶民であっても愛してくださると仰ってくれましたもの」

ミランダにテオ様を呼んでもらい、緊張しながら待つ。暫くしてテオ様がやって来て、わたくしとサリーを見てからわたくしの隣へと腰を下ろした。
ウォルトは扉のそばで待機し、ミランダとマディソンは部屋から出て行ったので、ウォルトがそう指示したのかもしれない。

「それで……サリー、お母様の事だけれど……」
「お嬢様、セレーネ様は、人間ではありません」


はい?



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



~ おまけ ~


【本当はこわい、クマさんのお話】


わたしのおじぃさま、ねんねのまえにね、おかぁさまのこと、たくさんおはなししてくれるのよ。

「イザベルはね、ノアくらいの年の時に、何を思ったのか突然、サリーと裏山に山菜を取りに行くといっていなくなったんだ。サリーと一緒にだから大丈夫だと、私もイザベルのお母様も安心していたんだけど、夕方になっても一向に戻ってくる気配がない。何かあったんじゃないかって、一家総出で探しに行ってね。そうしたら……、フフッ、どこにいたと思う?」

『エンツォ、それ、どこいた? アオきになる!!』

おじぃさまにアオのこえ、きこえないけど、おじぃさまニコニコってして、つづき、おはなししてくれたの。

「なんと、二人してクマの巣穴で眠っていたんだ!」
「クマさん!」
『クマ、おこらなかった!?』
「偶々、もう使っていない巣穴だったみたいでね、何事もなかったけど、あの時は本当に肝が冷えたよ」
『よかった!! つかってなかった!!』
「クマさんいれば、もっとふかふかよ?」
「ノア、クマさんはね、普段は大人しいけど、自分の縄張りに入ってこられると、とーっても怖いんだよ。ガォ~って、頭からバリバリ食べられてしまうかもしれない」

おじぃさま、わたしのあたま、おててでパクパクしたの!

『たべられちゃう!!』

アオがわたしにぎゅうって、したの。

クマさん、かわいいとおもってたの。でも、ほんとおは、とーってもこわいのよ!

「だからノアは、絶対真似したらダメだよ」
「はい! わたし、だまっていなくならないの。おかぁさまと、おやくそくしたのよ!」
『アオも、やくそくした!!』
「そうかい。じゃあ、ノアは大丈夫だね」
「だいじょおぶ!」
『アオも、だいじょーぶ!!』



10年後、森でクマに遭遇したノアが、あっという間に狩って、イザベルを驚かせてしまうという出来事が起こるのだが、この時はまだ、誰も知ることのないお話。

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