継母の心得 〜 番外編 〜

トール

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番外編 〜ノア5歳〜 〜

番外編 〜 イザベルの母1 〜 ノア5歳、イザベル臨月

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「何だか訳がわからない内に終わってしまったのだ……朕の出番はまったくなかった……」
「もうっ、印章偽造に関わった者たちを一網打尽にする為の罠だったなんて、何でアタシに教えてくれなかったの!?」

退廷後、わたくしとお父様、ノアは皇后様に呼び出され、皇城の皇后様のお部屋へと連れて来られていた。
皇帝陛下もご一緒にお茶をしているのだけど、肝心のテオ様は、大規模な犯罪組織に数人の貴族が関わっていた事で、その処理に追われているのか、姿はなかった。

「皇后陛下、申し訳ありません。出来るだけ誰にも知られないようにと言われておりましたので」

皇后様の向かいのソファに腰を下ろしたお父様が、ハンカチで汗を拭いながら、ペコペコと頭を下げる。
お父様とわたくしの間には、ノアがアオを抱っこして座り、大人たちの顔を見て、さも自分も話に混ざっているというような顔をしているのがおかしい。

「お父様、わたくしまったく聞かされておりませんでしたのよ。とても心配しましたわ!」
「イザベルもごめんよ。情報が漏れて、作戦が失敗してはいけないから、誰にも話せなかったんだよ。それに、まさか私の従兄弟が、こんな大事件に関わっているなんて、臨月の娘には言えなかったというのもあるけどね」

わたくしの事を考えてくれるのは嬉しいですが、ご自分の事を一番に考えていただきたいわ。

「結局、焦ったアタシがイザベル様に裁判になる事を伝えてしまったわ。ごめんなさい」と反省している皇后様に、お父様は慌てている。

「朕は何が何だか未だに理解出来ていないのだ」
『ネロ、テオはね、犯罪組織の中核を担う人間をひと月前に捕まえたんだ。それがあの縛られていた男さ』
「なるほど。そうだったのか……」
『アイツのポケット、ぎぞーいんしょーはいってた!』
「何と!?」
『テオ、おおきなはんざいそしきある、おもった!!』
「ほぅほぅ」
『でも、中々口を割らなくてね。それでボクたちが協力して、アジトを見つけたんだ───』

皇帝陛下がきちんと相槌を打ってくれるからか、妖精たちは入れ代わり立ち代わり、先程の裁判の全容を嬉しそうに説明している。

相槌だけ聞くと、イーニアス殿下と皇帝陛下の血の繋がりを感じますわ。

この中で唯一妖精の声を聞けないお父様は、ノアの頭をなでなでして、デレデレしていた。

「そういえば一つ気になったんだけど……、シモンズ伯爵。失礼ですが、伯爵の奥様は貴族出身ではないのかしら」

皇后様の歯に衣着せぬ質問に、皆がお父様に注目する。

「そうですね。妻は貴族ではありません」

特に隠す事でもないので、父は躊躇いなく答えたのだが、皇后様も皇帝陛下もそれが意外だったようで戸惑いを隠せないようだ。

「シモンズ伯爵家はグランニッシュ帝国建国時から続く名門よね。こう言ってはなんだけど、よく結婚を許してもらえたわね。騎士爵や男爵ならまだしも……」
「私は知っての通り本家筋ではありませんし、シモンズ伯爵家は借金まみれの貧乏貴族でした。裕福な庶民の生活よりも酷い有様でしたから、結婚について周りから何かを言われる事はありませんでした」
「そうだったの……。そのわりには、イザベル様の礼儀作法は高位貴族並みのようだけど。ディバイン公爵家に嫁いでから覚えたにしては、堂に入ったものよね。貧乏なら、家庭教師すら雇えなかったんでしょうし……」
「……娘の教育は妻がしていました」

ふと、正妖精から言われた、お母様が教会の関係者かもしれないという言葉を思い出したが、黙っていた方が良いだろうと口を挟まない事にした。

「貴族でない方が、娘に礼儀作法を完璧に仕込んだというの?」
「……そうです」
「まさか、没落した元貴族とか?」
「違います。妻は貴族ではないですから」

はっきりそう言う父に、皇后様は何か事情があるのだと分かってくれたらしい。それ以上つっこんで聞いてくる事はなかった。

その後、テオ様の話で盛り上がっている所へ本人がやって来て、皇后様の転移で領地に戻ったのだ。

「奥様、ムーア先生がお待ちです」と戻って早々、休む間もなく診察が始まってしまったので、お父様とお話できなかったが、今日も泊まっていくのだし、後でお母様について聞いてみようと思いながら、診察を受けたのだった。


「イザベル、君のお母様……セレーネについては、貴族ではないということ以外、私もよく知らないんだ」


お母様のことを父に聞いて、こんな答えが返ってくるとは、この時のわたくしは想像もしていなかったのだ。

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