99 / 189
番外編 〜ノア5歳〜 〜
番外編 〜 シモンズ伯爵家の事情4 〜 ノア5歳、イザベル出産間近
しおりを挟む「これは、エンツォ・リー・シモンズが父を脅迫し、書かせた書類よりも後に書かれたものです! これを皇室の鑑定士に見せた所、本物だと認めてもらえました!」
高々と羊皮紙を掲げる男に、皇帝陛下も皇后様も冷たい視線を送る。
傍聴席の貴族たちも、困惑し、ざわついているが、男は気にせず喋り続けていた。
「……では続いて、被告側の弁護人」
「弁護人を引き受けたテオバルド・アロイス・ディバインです」
『テオだ!!』
法廷に堂々たる姿で入室したテオ様に、アオが声を上げる。よく見ると皇后様は口を押さえ、顔を真っ赤にしているではないか。隣の皇帝陛下が心配そうに皇后様に声をかけているが、皇后様は興奮を隠せないようだ。
もちろん、突然のテオ様の登場に、原告の顔は引きつり、傍聴席の貴族たちも騒然としだす。特にご婦人方は違う意味で騒然としていた。
「まず、シモンズ伯爵家前当主についてだが、前当主と親交のあったタフーリ辺境伯から、バルバーリ子爵の持っている書類の日付の頃に、病で倒れた前当主を見舞っていたと証言を得ている。もちろん、証拠となる日記もお借りしており、その日の日記には、文字も書くことが出来ぬほど衰弱していた。とある。さらに、ヴィヴェンツィ男爵、アバーテ伯爵からも同様の証言をいただいている」
「その日記が本当にその日に書かれたものかもわからないではないか! 証拠としては弱いだろうっ」
「原告は勝手な発言を控えてください。弁護人、続けてください」
裁判官が騒ぐイルデブランド・ウーゴ・バルバーリに注意をすると、渋々引き下がるが、裁判が始まった時と違い、イライラしてきているようで落ち着きがない。
「さらに、当時前当主は印章のインクに特殊なものを使用しており、エンツォ・リー・シモンズ伯爵の提出された書類にももちろんそのインクが使用された印章が押されていた。そのインクは皇室に過去数十年に渡って提出された印章付きの書類を確認したところ、全てに使われていた事も調査によって発覚している」
テオ様は無表情で淡々と証拠を並び立てていく。
ノアはそんな父親を、目を輝かせて見つめていた。
ノアがこんな瞳でテオ様を見るなんて、テオ様の魔法を見た時以来かしら。
「フンッ、インクなど気分によって変える事もあるだろう!」
「原告は勝手な発言を控えてください。これで三度目です。もし次に勝手な発言をした場合、退出していただきます」
「チッ」
まぁ警告されて悪態をついておりますわ……。余計裁判官の心象が悪くなりますのに。
「───そして最後に、そちらの書類が偽造されているものだという証拠を得ている。裁判官、証人をこちらに呼びたいので、入室の許可をいただきたい」
テオ様の予想だにしない言葉に法廷が騒然とした。
裁判官ですら戸惑い、話し合いを始めてしまったのだ。
夫と父に注視していたが、テオ様はまだしも、お父様まで一切動揺していないではないか。
どういう事かしら……。先程のアオの言葉といい、2週間前のテオ様の態度といい、こうなる事を知っていたとしか思えないですわ。
「おかぁさま、おとぅさま、かっこいいの」
「まぁっ、ノア、お父様が格好良いと思いましたの?」
ノアがこんな事を言うのは初めてではないかしら!
わたくしの言葉に、少しだけ恥ずかしそうに頷くノアを抱き寄せる。
テオ様に長年放置されて、和解したとはいえ、二人の間にはどうしても埋められない溝が出来ていたのには気付いていましたわ。それが、この子の口から「かっこいい」という言葉が聞けるなんて……っ
「ノア、お父様の格好良い所を見逃さないようにしましょう」
「はい! わたし、おとぅさまがんばれって、おーえんするの!」
「そうね。お母様と一緒に応援ですわよ」
『アオも!!』
『チロも~』
わたくしたちが盛り上がっていると、裁判官に認められ、証人が……あら? 縛られておりますわ? あれが、証人ですの!?
後ろに手を回され、縛られた男が、衛兵に連れられやって来たではないか。
「な!? お、お前……っ」
イルデブランド・ウーゴ・バルバーリが驚愕した表情でその人物を見て、口をパクパクさせている。
「この者は、別件で捕縛した犯罪者だが、捕縛後の家宅捜索で、多数の印章が発見された。どうやらこの男は、印章を偽造し、さらに偽造品の複製をコレクションのように保管していたようだ」
「何ですと!?」
「まさか印章の偽造!?」
「印章の偽造は死刑だぞ!」
テオ様の話にその場が騒然とする。縛られた男は、青い顔をして震え、足に力が入っていないのかへたり込んでしまった。
「その中に、シモンズ伯爵家の印章もあり、問い質した所、イルデブランド・ウーゴ・バルバーリが発注したと口を割った」
偽造印章の複製品が、衛兵から裁判官の手に渡り、裁判官は目を丸くしてそれを確認している。
「な!? ち、違うっ、私は偽造などしていない!! 私は……っ」
「この男は、自分の彫った印章に、鑑定士でもわからぬような目印を付けているようでな。自らそれを“星”と呼んでいた」
「ディバイン公爵、その目印というのは、どういったものでしょうか」
「印章の右下に、かすかな点があるようだ。ゴミの跡のようだが、よく見るとギザギザした点らしい」
「原告の証拠書類をこちらに!」
裁判官が慌ただしく動き出し、書類を見て叫ぶ。
「ありました!! 印章の右下にゴミのような跡……よく見ればギザギザの点です!!」
裁判官たちの言葉に、またもや傍聴席が騒然としだす。
「は、嵌められた……っそう、エンツォ・リー・シモンズに嵌められたのだ!!」
「往生際が悪いぞ。イルデブランド・ウーゴ・バルバーリ。すでにお前の邸を家宅捜索し、偽造印章を発見している」
「!? バカな……っ、そうか、わかったぞ! ディバイン公爵も、エンツォ・リー・シモンズと共謀し、私を嵌めようとしているのだ!」
574
お気に入りに追加
5,605
あなたにおすすめの小説
いやいやながら女にされて
ミスター愛妻
ファンタジー
ある日ある時、男、いや、元男は荒野のど真ん中に立っていた。
ただ慌ててはいない、神に出会い、色々と交渉して納得の状況だったからだ。
転生について、代わりに『お取り寄せ』という能力を授かった。
が、くだらない理由のために、次の様な事になってしまった。
彼女?は、生理周期の黄体期に母乳が出て、それから沈香(じんこう)の薫りがする『霊薬』を精製する……
そんな神との契約を結んでの転生……
その上、神様のお仕事も引き受け?させられ、お給料をいただくことにもなった。
お仕事とはこの世界に充満する、瘴気を浄化すること、更には時々『神託』を遂行すること……
最低限のお仕事をこなし、のんびりと過ごそうと……だがそうはうまくいくはずもない……
カクヨムでも公開しております。
表紙はゲルダ・ヴィークナー作 若者のためのダンスドレス です。
パブリックドメインのものです。
領主の妻になりました
青波鳩子
恋愛
「私が君を愛することは無い」
司祭しかいない小さな教会で、夫になったばかりのクライブにフォスティーヌはそう告げられた。
===============================================
オルティス王の側室を母に持つ第三王子クライブと、バーネット侯爵家フォスティーヌは婚約していた。
挙式を半年後に控えたある日、王宮にて事件が勃発した。
クライブの異母兄である王太子ジェイラスが、国王陛下とクライブの実母である側室を暗殺。
新たに王の座に就いたジェイラスは、異母弟である第二王子マーヴィンを公金横領の疑いで捕縛、第三王子クライブにオールブライト辺境領を治める沙汰を下した。
マーヴィンの婚約者だったブリジットは共犯の疑いがあったが確たる証拠が見つからない。
ブリジットが王都にいてはマーヴィンの子飼いと接触、画策の恐れから、ジェイラスはクライブにオールブライト領でブリジットの隔離監視を命じる。
捜査中に大怪我を負い、生涯歩けなくなったブリジットをクライブは密かに想っていた。
長兄からの「ブリジットの隔離監視」を都合よく解釈したクライブは、オールブライト辺境伯の館のうち豪華な別邸でブリジットを囲った。
新王である長兄の命令に逆らえずフォスティーヌと結婚したクライブは、本邸にフォスティーヌを置き、自分はブリジットと別邸で暮らした。
フォスティーヌに「別邸には近づくことを許可しない」と告げて。
フォスティーヌは「お飾りの領主の妻」としてオールブライトで生きていく。
ブリジットの大きな嘘をクライブが知り、そこからクライブとフォスティーヌの関係性が変わり始める。
========================================
*荒唐無稽の世界観の中、ふんわりと書いていますのでふんわりとお読みください
*約10万字で最終話を含めて全29話です
*他のサイトでも公開します
*10月16日より、1日2話ずつ、7時と19時にアップします
*誤字、脱字、衍字、誤用、素早く脳内変換してお読みいただけるとありがたいです
転生幼女はお詫びチートで異世界ごーいんぐまいうぇい
高木コン
ファンタジー
第一巻が発売されました!
レンタル実装されました。
初めて読もうとしてくれている方、読み返そうとしてくれている方、大変お待たせ致しました。
書籍化にあたり、内容に一部齟齬が生じておりますことをご了承ください。
改題で〝で〟が取れたとお知らせしましたが、さらに改題となりました。
〝で〟は抜かれたまま、〝お詫びチートで〟と〝転生幼女は〟が入れ替わっております。
初期:【お詫びチートで転生幼女は異世界でごーいんぐまいうぇい】
↓
旧:【お詫びチートで転生幼女は異世界ごーいんぐまいうぇい】
↓
最新:【転生幼女はお詫びチートで異世界ごーいんぐまいうぇい】
読者の皆様、混乱させてしまい大変申し訳ありません。
✂︎- - - - - - - -キリトリ- - - - - - - - - - -
――神様達の見栄の張り合いに巻き込まれて異世界へ
どっちが仕事出来るとかどうでもいい!
お詫びにいっぱいチートを貰ってオタクの夢溢れる異世界で楽しむことに。
グータラ三十路干物女から幼女へ転生。
だが目覚めた時状況がおかしい!。
神に会ったなんて記憶はないし、場所は……「森!?」
記憶を取り戻しチート使いつつ権力は拒否!(希望)
過保護な周りに見守られ、お世話されたりしてあげたり……
自ら面倒事に突っ込んでいったり、巻き込まれたり、流されたりといろいろやらかしつつも我が道をひた走る!
異世界で好きに生きていいと神様達から言質ももらい、冒険者を楽しみながらごーいんぐまいうぇい!
____________________
1/6 hotに取り上げて頂きました!
ありがとうございます!
*お知らせは近況ボードにて。
*第一部完結済み。
異世界あるあるのよく有るチート物です。
携帯で書いていて、作者も携帯でヨコ読みで見ているため、改行など読みやすくするために頻繁に使っています。
逆に読みにくかったらごめんなさい。
ストーリーはゆっくりめです。
温かい目で見守っていただけると嬉しいです。
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています
矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜
――『偽聖女を処刑しろっ!』
民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。
何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。
人々の歓声に包まれながら私は処刑された。
そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。
――持たなければ、失うこともない。
だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。
『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』
基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。
※この作品の設定は架空のものです。
※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。
※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)
噂好きのローレッタ
水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。
ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。
※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです)
※小説家になろうにも掲載しています
◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました
(旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた
cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。
お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。
婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。
過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。
ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。
婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。
明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。
「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。
そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。
茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。
幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。
「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?!
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる