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番外編 〜ノア5歳〜 〜
番外編 〜 シモンズ伯爵家の事情1 〜 ノア5歳、イザベル出産間近
しおりを挟む「何!? 新素材を開発したのは、エンツォの娘だと……っ」
「はい。ディバイン公爵家に嫁ぎ、現在妊娠中との事です。数々の事業を手掛けているようで……あの“おもちゃの宝箱”のオーナーもイザベル・ドーラ・ディバインだと……」
「おもちゃの宝箱……、帝都にも支店のあるあの子供用品の店か」
「どうなさいますか?」
「まぁいい。シモンズ伯爵家が持ち直した今、新素材の権利が伯爵家にあるのならば……、シモンズの正当な後継者である私こそが、当主となるべきだろう」
「では……」
「ああ。エンツォから、私のあるべき場所を奪い返してくれるわ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
イザベル視点
「お父様!? 突然どうされましたの!?」
読書をしていると急に、メイドからお父様が公爵邸に来たと聞き、慌てて玄関まで迎えに出ると、父はニコニコと挨拶をし、「会いに来たよ」と言うので、呆気に取られてしまう。
先触れも何もございませんでしたわよ!?
「お仕事は大丈夫ですの?」
「ああ、問題ないよ。実はね、可愛い孫と娘の様子を見に来たのがメインだけれど、今日はディバイン公爵と事業の話があるんだ」
「まぁっ、ではテオ様はお父様が来ることをご存知だったのですね!」
わたくしの横にいるテオ様に顔を向けると、
「君を喜ばせたかったんだ」
と悪戯が成功したような顔で笑っているではないか。
「もうっ、仰ってくだされば良かったのに。本当に驚きましたのよ」
「イザベル、私がディバイン公爵に黙っていて欲しいとお願いしたんだ。びっくりさせたくてね」
そう言って片目をつぶってみせる父に驚いた。
こんなお茶目な事をするお父様を見るのは久々ですもの。
お母様が生きていた頃は、一緒になって、よくわたくしたちに悪戯をしかけてきていたっけ……。
「もうすぐ臨月だから、一度様子も見たかったんだ。可愛い孫にも会いたかったしね。元気そうでよかったよ」
「皆良くしてくださいますの。そういえば少し前にテオ様と……」
「イザベル、義父上をいつまでも玄関先に立たせておくわけにもいかないだろう。リビングに案内してから、ゆっくり話すと良い」
テオ様にそう促されて、「そうですわね」と慌てて父をリビングへと案内する。
父に「君は相変わらずだねぇ」と笑われてしまい、少し恥ずかしかったわ。
「お父様、今日はお泊まりになるのよね」
「ああ、ディバイン公爵にはそのように仰っていただいているよ」
「でしたら、シェフにお父様がお好きなお料理を作ってもらいますわね!」
「無理を言ってはダメだよ?」
「ウチのシェフは腕がとても良いので大丈夫ですわ!」
「イザベル、君はもうすぐお母さんになるのだから、少し落ち着きを持たないといけないよ」
「まあっ、お父様、わたくし落ち着いておりますわ! ねぇ、テオ様」
ミランダに息子を呼びに行ってもらっている間、三人でおしゃべりをしていれば、お父様が子供扱いしてくるものだから、テオ様に援護してもらおうと話を振ったのだけど、
「……ベルはそんな所も可愛いので」
「どういう意味ですの!?」
ちょっとテオ様! 目をそらさないでくださいませ!
「夫婦仲が良くて安心したよ」
お父様は優しい瞳で、「孫がもう一人生まれたら、ますます賑やかになるんだろうね」と微笑んでわたくしたちを見ていた。
「おじいさま!」
『エンツォだー!!』
「やぁノア、久しぶりだね」
暫くしてノアがリビングにやって来て、お父様は嬉しそうにノアを抱っこすると、従者に目配せをして何かを持って来させる。
「ノア、先日おじいちゃんのお家に、他国から商人が来たんだよ」
「たこく……?」
「他所の国の事だよ。そこの商人がね、珍しい雑貨を売っていたから、ノアへのお土産にと思って持ってきたんだ」
「おみあげ!」
『おみやげなにー!!』
「これだよ。開けてごらん」
「はい! おじいさま、ありがとぉ」
『エンツォ、ありがと!! ノア、はやくあけてー!!』
ノアはお礼を言うと、嬉しそうに箱を開けている。
包装したものを、一人で開けられるようになったのね……。子供の成長は早いですわ。
そして出てきたのは……、指先ほどの大きさの、木彫りでできた、小人の人形だった。
「わぁ! ちいさな、おにんぎょう!」
『こびとー!!』
「妖精様の形を模した人形らしくてね。ノアは妖精様が好きだから、こういう人形も喜ぶかもしれないと思ったんだ」
「すき!」
『これよーせーちがう!! アオ、もっとかわいー!!』
文句を言うアオとは正反対に、喜ぶノアを見て、お父様は幸せそうに笑っている。
この時は、お父様のこの笑顔が曇るような事が起こるなんて、思ってもみなかったのだ。
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