継母の心得 〜 番外編 〜

トール

文字の大きさ
上 下
80 / 189
番外編 〜 ノア3〜4歳 〜

番外編 〜 狙われたイザベル3 〜 ノア4歳、イーニアス5歳

しおりを挟む


ミランダには止められたが、お返事していないとはいえ、手紙をくださった上でお越しになっているのですもの。

そう考え、カミラと護衛にはノアをお願いし、お客様をお迎えしたのだけど……、

「お願いいたします!!」

わたくしの目の前で、二人の男性の土下座が繰り広げられているこの状況、一体どうしたら良いのかしら……。


話は少し前に遡るのだけど、お客様を客用の応接室にお通しするよう指示をして、わたくしもそちらへ向かったのよ。
部屋に入ると男性が二人、立ち上がって頭を下げ、挨拶を交わすと、

「ディバイン公爵夫人、私はウィニー男爵領で商人の同業組合の組合長を任されております、ケヴィンと申します。本日は不躾に突然の訪問をいたしました事、お詫び申し上げます」

と謝罪をいただいたのよね。
もう一人の男性は、ケヴィンさんの部下らしいのだけど、二人ともとても腰が低い方でしたわ。

「こちらこそ、お手紙をいただいたのに、すぐにお返事が出来ず申し訳ありませんわ」
「いえ、とんでもございません! ディバイン公爵夫人がお忙しいのは重々承知しております」
「そうですか……あの、それで、本日はどのようなご用件でお越しになられたのでしょう?」
「っ実は……」

用件を話してくださるのだと思っていたその時、どういう訳かケヴィンさんとその部下は土下座をしたのだ。

そして今、わたくしの目の前で、その土下座は続いているというわけだ。

「ちょ、お二人ともどうされたのです!? お立ちになって!」
「ディバイン公爵夫人、お願いいたします! どうか……っ、どうか我々に、奇跡と言われるその知恵を、お貸しいただけないでしょうか!」
「お願いいたします!」

えぇ!? 

ミランダと護衛がわたくしの前に立ち、警戒しているが、二人は土下座をし、額を地につけたまま懇願していた。

「……お二人とも、何か理由がございますのね。その理由をわたくしに教えていただけないかしら?」
「公爵夫人……っ」

その後、メイドが二人を支えソファに座らせると、再度向き直ってから話を聞いたのだ。

「───実は……」

ケヴィンさんはウィニー男爵領の現状を話してくれた。

「ウィニー男爵領地は、この国の最北端に位置し、火の季節(夏)であっても防寒着コートを着なければ過ごせない、8割が未開拓の大地と言われる、人が住むには大変困難な土地なのです」
「ええ。文献からの知識ではありますが、存じ上げておりますわ」
「な、なんとっ、あの不毛な領地をご存知でしたか!」

わたくし、趣味が貴族名鑑と歴史書と地図を照らし合わせて読むことですの。この国の貴族家の成り立ちは大体把握しておりましてよ。

「そんな領地で唯一、人が住める場所に小さな町を作り、細々とですがやってまいりました。確かに過酷な場所ですが、人々は逞しく、ウィニー男爵も代々民の事を考えてくださるお人柄で、貧乏領地ですが、平和に暮らしていたのです」

少し前のシモンズ伯爵領と似ておりますのね……。他人事とは思えませんわ。

「しかし昨年、ウィニー男爵が雪崩に巻き込まれ、帰らぬ人となり、一人息子のニール様が、たった15歳の若さで男爵を継ぎ、一年頑張ってこられたのですが……、昨年の、男爵様のお命を奪った雪崩が……っ、我々の糧である山への入口を塞いでしまい……っ」

涙を流しながら、危機的状況の領地の話をしている二人に、胸が痛んだ。

「奥様、少しよろしいでしょうか」

その時、ミランダが珍しく話を遮ったのだ。

「どうしたの? ミランダ」
「そのお話で少し疑問に思ったのですが……、現ウィニー男爵でも、補佐でもなく、商人組合の組合長がこちらに来られたのはどういう事なのでしょうか」

確かに、商人が領地に関して、しかもわたくしのような素人に嘆願してくるのは、変よね。

「ニール様は、現在帝都へ、皇帝陛下に人員の派遣を嘆願しに向かっております。そしてニール様の補佐を務めておりますのが、私です! なにぶん貧乏な領地ですので、商人と兼業しております」

なるほど。現ウィニー男爵の補佐もされていましたのね。

「昨年雪崩が起きたと仰っておりましたが、なぜ今、陛下に嘆願をするのです?」
「その、今までの皇帝陛下は……あまり評判がいいとはいえず……」

しどろもどろになるケヴィンさんに、ああ、そういえば皇帝陛下は、洗脳されて悪辣非道と言われておりましたわよね……、と思い出し、納得してしまった。

「わかりましたわ。ですが、陛下への嘆願に行かれたのであれば、わたくしのような素人ではなく、陛下がお知恵と人手を貸してくださいますわ。どうしてわたくしなのです??」


「それは……あなた様が、奇跡を起こす女神様だからです!!」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「私が愛するのは王妃のみだ、君を愛することはない」私だって会ったばかりの人を愛したりしませんけど。

下菊みこと
恋愛
このヒロイン、実は…結構逞しい性格を持ち合わせている。 レティシアは貧乏な男爵家の長女。実家の男爵家に少しでも貢献するために、国王陛下の側妃となる。しかし国王陛下は王妃殿下を溺愛しており、レティシアに失礼な態度をとってきた!レティシアはそれに対して、一言言い返す。それに対する国王陛下の反応は? 小説家になろう様でも投稿しています。

高貴な血筋の正妻の私より、どうしてもあの子が欲しいなら、私と離婚しましょうよ!

ヘロディア
恋愛
主人公・リュエル・エルンは身分の高い貴族のエルン家の二女。そして年ごろになり、嫁いだ家の夫・ラズ・ファルセットは彼女よりも他の女性に夢中になり続けるという日々を過ごしていた。 しかし彼女にも、本当に愛する人・ジャックが現れ、夫と過ごす夜に、とうとう離婚を切り出す。

人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚

咲良喜玖
ファンタジー
アーリア戦記から抜粋。 帝国歴515年。サナリア歴3年。 新国家サナリア王国は、超大国ガルナズン帝国の使者からの宣告により、国家存亡の危機に陥る。 アーリア大陸を二分している超大国との戦いは、全滅覚悟の死の戦争である。 だからこそ、サナリア王アハトは、帝国に従属することを決めるのだが。 当然それだけで交渉が終わるわけがなく、従属した証を示せとの命令が下された。 命令の中身。 それは、二人の王子の内のどちらかを選べとの事だった。 出来たばかりの国を守るために、サナリア王が判断した人物。 それが第一王子である【フュン・メイダルフィア】だった。 フュンは弟に比べて能力が低く、武芸や勉学が出来ない。 彼の良さをあげるとしたら、ただ人に優しいだけ。 そんな人物では、国を背負うことが出来ないだろうと、彼は帝国の人質となってしまったのだ。 しかし、この人質がきっかけとなり、長らく続いているアーリア大陸の戦乱の歴史が変わっていく。 西のイーナミア王国。東のガルナズン帝国。 アーリア大陸の歴史を支える二つの巨大国家を揺るがす英雄が誕生することになるのだ。 偉大なる人質。フュンの物語が今始まる。 他サイトにも書いています。 こちらでは、出来るだけシンプルにしていますので、章分けも簡易にして、解説をしているあとがきもありません。 小説だけを読める形にしています。

夫が離縁に応じてくれません

cyaru
恋愛
玉突き式で婚約をすることになったアーシャ(妻)とオランド(夫) 玉突き式と言うのは1人の令嬢に多くの子息が傾倒した挙句、婚約破棄となる組が続出。貴族の結婚なんて恋愛感情は後からついてくるものだからいいだろうと瑕疵のない側の子息や令嬢に家格の見合うものを当てがった結果である。 アーシャとオランドの結婚もその中の1組に過ぎなかった。 結婚式の時からずっと仏頂面でにこりともしないオランド。 誓いのキスすらヴェールをあげてキスをした風でアーシャに触れようともしない。 15年以上婚約をしていた元婚約者を愛してるんだろうな~と慮るアーシャ。 初夜オランドは言った。「君を妻とすることに気持ちが全然整理できていない」 気持ちが落ち着くのは何時になるか判らないが、それまで書面上の夫婦として振舞って欲しいと図々しいお願いをするオランドにアーシャは切り出した。 この結婚は不可避だったが離縁してはいけないとは言われていない。 「オランド様、離縁してください」 「無理だ。今日は初夜なんだ。出来るはずがない」 アーシャはあの手この手でオランドに離縁をしてもらおうとするのだが何故かオランドは離縁に応じてくれない。 離縁したいアーシャ。応じないオランドの攻防戦が始まった。 ★↑例の如く恐ろしく省略してますがコメディのようなものです。 ★読んでいる方は解っているけれど、キャラは知らない事実があります。 ★9月21日投稿開始、完結は9月23日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

(完)そこの妊婦は誰ですか?

青空一夏
恋愛
 私と夫は恋愛結婚。ラブラブなはずだった生活は3年目で壊れ始めた。 「イーサ伯爵夫人とし全く役立たずだよね? 子供ができないのはなぜなんだ! 爵位を継ぐ子供を産むことこそが女の役目なのに!」    今まで子供は例え産まれなくても、この愛にはなんの支障もない、と言っていた夫が豹変してきた。月の半分を領地の屋敷で過ごすようになった夫は、感謝祭に領地の屋敷に来るなと言う。感謝祭は親戚が集まり一族で祝いご馳走を食べる大事な行事とされているのに。  来るなと言われたものの私は王都の屋敷から領地に戻ってみた。・・・・・・そこで見たものは・・・・・・お腹の大きな妊婦だった!  これって・・・・・・ ※人によっては気分を害する表現がでてきます。不快に感じられましたら深くお詫びいたします。

龍神の化身

田原更
児童書・童話
二つの大陸に挟まれた海に浮かぶ、サヤ島。サヤ島では土着の信仰と二つの宗教が共存し、何百年もの調和と繁栄と平和を享受していた。 この島には、「龍神の化身」と呼ばれる、不思議な力を持った少年と少女がいた。二人は龍神の声を聞き、王に神託を与え、国の助けとなる役割があった。少年と少女は、6歳から18歳までの12年間、その役に就き、次の子どもに力を引き継いでいた。 島一番の大金持ちの長女に生まれたハジミは、両親や兄たちに溺愛されて育った。六歳になったハジミは、龍神の化身として選ばれた。もう一人の龍神の化身、クジャは、家庭に恵まれない、大人しい少年だった。 役目を果たすうちに、龍神の化身のからくりに気づいたハジミは、くだらない役割から逃げだそうと、二年越しの計画を練った。その計画は、満月の祭の夜に実行されたが……。 40000字前後で完結の、無国籍系中編ファンタジーです。

私の妹と結婚するから婚約破棄する? 私、弟しかいませんけど…

京月
恋愛
 私の婚約者は婚約記念日に突然告白した。 「俺、君の妹のルーと結婚したい。だから婚約破棄してくれ」 「…わかった、婚約破棄するわ。だけどこれだけは言わせて……私、弟しかいないよ」 「え?」

残り一日で破滅フラグ全部へし折ります ざまぁRTA記録24Hr.

福留しゅん
恋愛
ヒロインに婚約者の王太子の心を奪われて嫉妬のあまりにいじめという名の悪意を振り撒きまくった公爵令嬢は突然ここが乙女ゲー『どきエデ』の世界だと思い出す。既にヒロインは全攻略対象者を虜にした逆ハーレムルート突入中で大団円まであと少し。婚約破棄まで残り二十四時間、『どきエデ』だったらとっくに詰みの状態じゃないですかやだも~! だったら残り一日で全部の破滅フラグへし折って逃げ切ってやる! あわよくば脳内ピンク色のヒロインと王太子に最大級のざまぁを……! ※Season 1,2:書籍版のみ公開中、Interlude 1:完結済(Season 1読了が前提)

処理中です...