継母の心得 〜 番外編 〜

トール

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番外編 〜 ノア3〜4歳 〜

番外編 〜 不死鳥の冒険2 〜 ノア4歳、イーニアス5歳

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不死鳥視点


「な、なんだこの急な坂は!? 子供らがみな滑り落ちておるではないか!」

店に入った途端目に入ってきたのは巨大な坂で、子供らがどんどん上から落ちてきている異様な光景だった。

「お客様、ご安心ください。あちらは滑り台という、子供から大人まで、あのように上から滑り下りる遊びが出来る遊具なのです」

愕然としていれば、店員が遊戯だと言うではないか。

「あれが、遊びだと!?」

確かに、子供らは楽しそうに落ちてくるが……、

「お客様もいかがでしょうか。行列はできていますが、すぐに順番は回ってきますので、思い出作りにぜひ」
「う、うむ……坂から落ちるのか……」

不死鳥が、あのように落ちるのは滑稽ではないだろうか。

「きっと楽しいですよ。大人でも一度滑った方は、面白いと何度も挑戦されますし」
「そ、そうなのか? では……やってみようかのぅ」
「それでは、あの階段の列にお並びください」

店員に案内され、階段に出来ていた行列へと並ぶ。五分もせぬうちに、階段上まで来たが、滑り落ちた者らがわしの後ろに並ぶので、行列はやはり階段下まで出来ていた。

「お客様、こちらへどうぞ」

とうとうわしの番がやってきて……、心の準備をしておる時に背を押され、坂の上から落とされたのだ!

な、な、何をする!?

しかし、案外安全に、シューッと滑って、あっという間に坂の下にいたわしは、立ち上がると首を傾げた。

何か……ちょっと、楽しかったかもしれん。

「32番の番号札をお持ちのお客様~」

32番……わしだ!

「ここにおるぞ」
「大変お待たせいたしました。番号札を持ったまま、二階のカウンターへお願いいたします」
「わかった」

滑り落ちる坂もなかなか楽しかったが、そろそろ腹ごしらえをせねばな。

「いらっしゃいませ! こちらのメニューから、お選びください」

絵と文字が書いてある紙を見せられ、そのわかりやすさに驚いた。

ほう、聞いたこともない名前の食べ物だが、絵がある事でどのようなものかわかるようになっておるのか。

「この、カレーパンとやらと、バターシュガー……く、クレープ、それと、ドーナツのプレーンとやらをもらおうか。全て三つずつじゃ」
「お飲み物はよろしいですか?」
「む、そうだのぅ。おすすめはなんじゃ」
「今の季節でしたら、こちらの冷たい飲み物の中の、フローズンドリンクで、いちごがおすすめです!」
「赤い飲み物か……わしにピッタリよのぅ。よし、それを三つ頼む」
「ありがとうございます!」
「それと、この金貨で支払いは出来るか」
「金貨でのお支払いも大丈夫ですよ」

問題ないようだ。お釣りで銀貨をもらい、楽しみにしながら外へと出る。

「どこかに食べる場所はないだろうか……」

椅子を探すが、どこも埋まっているようだ。

「仕方がない。イーニアスの所にお邪魔して食う事にするかのぅ。よし、イーニアスにもわけてやろう」

また姿の見えぬよう魔法を駆使し、空を飛ぶと、イーニアスのいる城へと向かったのだ。


◇◇◇


イーニアスの場所は、繋がっておるのですぐにわかる。

「こっちからイーニアスの気配がするの」
『あー! ふしちょーの、おじーちゃん!』
「おおっ、イーニアスの妖精ではないか!」
『どーした? アス、あいにきた?』
「そうじゃ。街に来たから挨拶がてら寄ってみた」

まだ姿は見えぬ魔法を使っているが、やはり妖精には見えるようだの。いや、イーニアスと契約しているから見えるのかのぅ。

「イーニアスはこの部屋か」
『そう! ふしちょーの、おじーちゃん、いいニオイする!』
「街で人気の店に寄って、菓子やらパンを買ってきたのだ。一緒に食そうぞ」
『わーい!』

イーニアスの妖精と共に部屋に入ると、イーニアスは一人本を読んでいる所だった。

「イーニアスよ、邪魔するぞ」
「? しらぬひとが……、アカ、そのかたは、だれなのだろうか??」
『アス、しってるひと!』

妖精がわしのそばにいるのと、わしと繋がっている事で、人化していても恐怖や不安という感情は湧かぬのだろう。
驚いてはいるが、落ち着いているようだ。

「わしじゃ。不死鳥じゃよ。人化しておるから驚いただろう」

正体を教えれば、大きな瞳をさらに大きく開き、ポカンとしている。

「ふしちょう……、ほむらの、しんでんの?」
「そうじゃ。今は久々に外の世界を冒険しておるのだ!」
「ぼうけん……っ」

冒険という言葉に、嬉しそうに反応する様は子供らしい。

「先程おもちゃの宝箱という、街で人気の店に行ってな。美味しいと評判のものを買ってきた。一緒に食そうではないか」
「おもちゃのたからばこ! わたしは、おもちゃのたからばこ、だいすきなのです!」
「おおっ、行った事があるのか?」
「はい! ははうえと、いきました。すべりだいも、ノアとともにすべったのです!」
「イーニアスもあの坂から滑り落ちたか! わしも落ちた。あれはなかなか楽しいものだ」

先程の事をイーニアスと妖精に話しながら、先程購入した物を机の上に並べると、妖精が『ドーナツ! クレープ!』と飛び跳ねておる。

見た目も変わっておるが、なんとなしにおしゃれな感じだのぅ。さてさて、どんな味なのか……、

「ふぉぉ!! な、なんじゃこれは!? この世にこんな美味いものがあったのか……っ」
「おもちゃのたからばこの、たべものは、なんでもおいしいのです!」
『アカも、だいすきー!』

昔はこんな美味いものはなかった……。時代は変わるものだな。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



一方、おもちゃの宝箱帝都支店では、

「な、何ですか!? この金貨は!? この金貨を受け取ったのは誰です!?」
「わ、私です。もしかして、その金貨、偽物だったのでしょうか!?」
「違いますっ、その逆です!! この金貨は、グランニッシュ帝国のものよりも大きく厚みがありますよね。いいですか、この金貨の価値は、恐らくグランニッシュ帝国の金貨の数倍です!」
「ええエェェェ!?」
「とにかく、この金貨を使ったお客様をお探しして、きちんと差額分をお返ししなければ、信用問題になりますよっ」
「そ、そんな……っ」
「どのような方だったのですか!?」
「あ、赤い髪の、びっくりするほど綺麗な方でした!!」

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