継母の心得 〜 番外編 〜

トール

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番外編 〜 ノア3〜4歳 〜

番外編 〜 天使たちのしゅぎょお1 〜ノア4歳

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まだ妊娠が発覚する前、悪魔が滅んだすぐ後の事だ。ウォルトから詳しい話を聞いて知ったのだけど、わたくしがアベラルド様に攫われていた間、テオ様がノアに魔法を教えていたのだとか。
しかも皇城に連れて行き、指導していたと聞いて驚いた。
なんでも、イーニアス殿下の魔法もテオ様が教えているようで、今日がその指導の日だというではないか!

これは是非見学したいですわ!

と勢い勇んでやって来た皇城で、何だかよく分からない人に絡まれてしまいましたのよ。

「貴女がディバイン公爵夫人?」

わたくしを頭から爪先までジロジロ見て、ご自分のお名前を教えてくださらないこの女性は、見た目は15歳くらいかしら? 可愛らしい容貌をしているのだけど、お胸は豊満で、アンバランスな魅力がある方だわ。

「……どちら様でしょうか?」
「私の事、ご存知ないの!?」

皇帝陛下の愛妾や側妃様たちはもう離縁され、実家に戻られているし、第一皇女殿下はまだ10歳……。他に、現在皇族の次に位の高いディバイン公爵夫人という立場のわたくしに、ここまで高圧的な態度を取れる女性って、おりませんのよね。伯爵令嬢だった頃ならいざ知らず……。

という事は、若さ故の暴走かしら?

この位の年の頃には、怖いもの知らずに目上の方に絡むご令嬢がいらっしゃると聞きますし……。
きっと、若人の社交界で幅を利かせているご令嬢に違いはないのでしょうけど、わたくし、デビュタントしたばかりのご令嬢が出るパーティーに参加したことがないのでよく知りませんのよ。

もちろん貴族名鑑は覚えておりますから、お名前を教えてくだされば、どんなお家の方か分かりますけれど……。

はぁ……。ノアの勇姿を見に来たというのに、おかしな人に絡まれてしまいましたわね……。

「わたくし、お若い方のパーティーにはあまり出席いたしませんので、あなたのお顔を存じ上げないのですが、お名前をお聞かせいただけますかしら?」
「お若い方のパーティーって……あなたも私たちとそう変わらないのではなくて!?」

確かに年は3、4歳の違いでしょうが、精神的には30代なんですもの。

「ご挨拶していただけないようですので、わたくしは失礼いたしますわ」

それでもデビュタントされた立派なレディですもの。デビュタント前でしたら教えて差し上げますけれど、大人のレディへは、遠回しの注意しか出来ないのが暗黙のルールですものね。

貴族ってそういうところが面倒ですわ。

「なっ、ちょっと待ちなさいよ! 貴女、挨拶も出来ないの!?」

このご令嬢、きちんと教育を受け直した方が良さそうですわ。ここまでくると、遠回しの注意も何もございませんわよね。

「わたくし少し急いでおりますの。どなたかは存じ上げませんが、突然話し掛けてこられて、お名前も教えてくださらない方に時間を割く事は出来かねますわ」
「っ私は、この国の宰相の娘よ!! あなた何様のつもりよ!!」

これは、アレだわ。マナー教育を怠ったご令嬢というやつ。
昔のわたくしより酷いですわよ。

「まぁ、宰相というと、ハリス侯爵ですわね」
「そうよ! 私は、この国の“ナンバー2”の娘なの」

ハリス侯爵って確か、皇后様とテオ様に小間使いのように働かされて、疲れきって可哀想なほど頭が薄くなってしまったあの方ですわよね。

「ハリス侯爵はお人柄も良い、優秀なお方だと聞いておりましたが、ご令嬢の教育には失敗したようですわね」
「何ですって!!」
「この事は、ハリス侯爵にお伝えしますわ。まさか皇后様と皇族を侮辱なさるなんて」 

まさか宰相がナンバー2だと思っているなんて。
皇帝陛下の次の位は皇后、次いで皇族ですわよ。実質、皇后様と同等の権力を持つのはディバイン公爵ですが。

「私は皇后陛下も皇族の方々も侮辱なんてしてないわ……っ」
「先程、宰相がこの国のナンバー2と仰ったではありませんか。皇帝陛下に次いで高位の存在は、皇后陛下、それに続いて皇族、そしてディバイン公爵ですのよ。とはいえ、デビュタントしたばかりの子供ですもの。ハリス侯爵にはお伝えいたしますが、大事にする気はございません。あなたはお家にお帰りになって、もう一度学び直す事をおすすめいたしますわ」

ご令嬢は真っ赤になって震えているが、本当でしたら皇族侮辱罪というれっきとした犯罪ですのよ。
ハリス侯爵もお気の毒に……この事を聞いたらまた髪の毛が抜けてしまうかもしれませんわ。

何も言えなくなったご令嬢の横を通り抜け、わたくしはノアのいる場所へと急いだのだ。

このことが、ちょっとした騒動になる事など、知らぬままに───……




「イーニアス殿下、あの的に向け、力を抑えたまま火の魔法を放ってください」
「うむ!」
「ノアも、イーニアス殿下の魔法をよく見ているように」
「はい!」

皇城内にある騎士団の訓練場の一部を借りて、テオ様が子供たちに指導している姿が見える。

あのテオ様が、本当に先生をしていますのね……。

先程の事で少し遅くなってしまったが、まだ指導は始まったばかりのようでホッと安堵の息を吐く。

愛息子の勇姿は、目に焼き付けておきたいですもの!

「二人は魔力コントロールも上手く出来ている。後は魔法に慣れる事が大切だ」
「「はい!」」

子供たちは素直に言う事を聞いて頑張っていますのね。


「お、おいっ、あのご令嬢、何であんな格好してるんだ!?」
「ドレスがビリビリじゃないか……」

何だか周りの騎士たちが騒がしいですわね?

騎士たちの目線の先がわたくしの後ろだと気付き、後ろを見ると、ドレスの袖やスカートがビリビリに破けた、先程のご令嬢が立っているではないか!

「え」
「酷いわ! どうしてこんな事をなさるの!?」

はいぃぃ?!

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