37 / 189
番外編 〜 ノア3〜4歳 〜
番外編 〜 公爵家の守護神 〜 ノア3歳
しおりを挟む~ ノアとイザベルが出会ったばかりの頃 ~
領地の公爵邸には、デュークとナラという、二匹のドーベルマンが飼われている。庭に放し飼いにされているのだが、ペットというよりは警備員のような役割で、日夜侵入者がいないか目を光らせるプロのハンターだ。
初めて見た時は、噛み殺されるのではないかと思ったほど、大きくて凶悪な顔をしている。そんな二匹だが、賢く、忠誠心の高い子たちなので、侵入者だと認識されない限りは、襲われたりしない。ただ、庭を散歩する時にじっと遠くから見つめてくるだけだ。
いつか噛み殺してやろう。と思っていない事を祈るしかない。
プロのハンターが闊歩する我が家の庭を、初めて私がノアを連れて散歩した時の話だ。
「ノア、お花が綺麗ね」
「おはな、きれー」
紙芝居を披露してから、お喋りを徐々にするようになったノアと手を繋ぎ、公爵邸の広い庭をゆっくり歩いていた。
花の感触や匂いを知ってもらおうと一緒に触っていた時だ。
デュークと目が合ったのは。
相変わらず怖い顔だわ。と思ったのもつかの間、いつもは見るだけで近寄って来ないデュークが突然、「ワフッ」とひと吠えし、駆け寄って来たのだ。
「ノアッ」
ドーベルマンが牙を剥き出しにしてノアに襲いかかろうとしている!
咄嗟に、デュークとノアの間に身体を滑り込ませ、抱きしめ庇う。
「クゥ……」
「…………?」
いつまでたっても衝撃が来ないどころか、耳元でキューンと甘えるような声と、ハッハッハという息遣いが聞こえ、湿ったものがほっぺたにくっついている感覚があって目を開けた。
「クゥン」
「え……」
デュークのしめった鼻が私の頬にくっつき、一生懸命ノアの匂いを嗅ごうと腕の隙間に無理矢理つっこみ、ノアの頭部に押し付けてくるではないか。
「デューク、あなた……」
「クゥ~ン」
甘えた声を出すデュークに、いつもの鋭いハンターとしての威厳はない。
紛うことなき、愛玩動物ですわね。
「おかぁさま、ワンワン?」
安堵して腕を緩めると、ノアが私とデュークを交互に見て尋ねる。
「ええ。そうよ……この子はデュークという名前の、ウチで飼っているワンワンですわ」
「ワンッ!」
デュークは紹介してもらえた事が嬉しいのか、ひと吠えして、短い尻尾をピコピコ動かす。
「ノアです」
「ワンッ」
ノアはペコリとお辞儀をし、デュークはきちんとおすわりをして、ノアのお辞儀に合わせ首を動かすので、お互い自己紹介してお辞儀をしあっているサラリーマンのようで、名刺交換かしらと、妙な光景に笑いが漏れた。
ずいぶん可愛らしいサラリーマンね。
……良く考えたらデュークが主人の息子を襲うわけないわよね。きっとノアが生まれた時に匂いを覚えさせていたんだわ。私ったら恥ずかしい事をしてしまったわ。
「ウォンッ」
と、そこへ、デュークの様子をずっと見ていたナラが、耳をピンと立て、え、甘えてもいいの? 「実はずっと甘えたかったの!」とでも言っているかのように怒涛の勢いで飛びかかってきたのだ。
私に。
「ワンッ」
「ウォンッ」
「くしゅぐったぁい」
二匹は尻尾をブンブン振って、私たちの手や顔を舐めるので、ノアは大喜びだけど、侍女やメイドは悲鳴をあげている。
そのうちすごい剣幕のメイド集団が走って来たものだから、さすがのドーベルマンも驚いていたわ。
そんな事があってから、ノアはすっかり二匹と仲良しになったのよね。
私も、実は甘えん坊の二匹を怖いなんて思えなくなったわ。
今日も公爵邸では、鉄壁の守護神が平和を保ってくれているのね。
937
お気に入りに追加
5,605
あなたにおすすめの小説
継母の心得
トール
恋愛
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 4巻発売中☆ コミカライズ連載中、2024/08/23よりコミックシーモアにて先行販売開始】
※継母というテーマですが、ドロドロではありません。ほっこり可愛いを中心に展開されるお話ですので、ドロドロが苦手の方にもお読みいただけます。
山崎 美咲(35)は、癌治療で子供の作れない身体となった。生涯独身だと諦めていたが、やはり子供は欲しかったとじわじわ後悔が募っていく。
治療の甲斐なくこの世を去った美咲が目を覚ますと、なんと生前読んでいたマンガの世界に転生していた。
不遇な幼少期を過ごした主人公が、ライバルである皇太子とヒロインを巡り争い、最後は見事ヒロインを射止めるというテンプレもののマンガ。その不遇な幼少期で主人公を虐待する悪辣な継母がまさかの私!?
前世の記憶を取り戻したのは、主人公の父親との結婚式前日だった!
突然3才児の母親になった主人公が、良い継母になれるよう子育てに奮闘していたら、いつの間にか父子に溺愛されて……。
オタクの知識を使って、子育て頑張ります!!
子育てに関する道具が揃っていない世界で、玩具や食器、子供用品を作り出していく、オタクが行う異世界育児ファンタジー開幕です!
番外編は10/7〜別ページに移動いたしました。
【完結】わたしはお飾りの妻らしい。 〜16歳で継母になりました〜
たろ
恋愛
結婚して半年。
わたしはこの家には必要がない。
政略結婚。
愛は何処にもない。
要らないわたしを家から追い出したくて無理矢理結婚させたお義母様。
お義母様のご機嫌を悪くさせたくなくて、わたしを嫁に出したお父様。
とりあえず「嫁」という立場が欲しかった旦那様。
そうしてわたしは旦那様の「嫁」になった。
旦那様には愛する人がいる。
わたしはお飾りの妻。
せっかくのんびり暮らすのだから、好きなことだけさせてもらいますね。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
悪役令嬢に転生したと思ったら悪役令嬢の母親でした~娘は私が責任もって育てて見せます~
平山和人
恋愛
平凡なOLの私は乙女ゲーム『聖と魔と乙女のレガリア』の世界に転生してしまう。
しかも、私が悪役令嬢の母となってしまい、ゲームをめちゃくちゃにする悪役令嬢「エレローラ」が生まれてしまった。
このままでは我が家は破滅だ。私はエレローラをまともに教育することを決心する。
教育方針を巡って夫と対立したり、他の貴族から嫌われたりと辛い日々が続くが、それでも私は母として、頑張ることを諦めない。必ず娘を真っ当な令嬢にしてみせる。これは娘が悪役令嬢になってしまうと知り、奮闘する母親を描いたお話である。
無関係だった私があなたの子どもを生んだ訳
キムラましゅろう
恋愛
わたし、ハノン=ルーセル(22)は術式を基に魔法で薬を
精製する魔法薬剤師。
地方都市ハイレンで西方騎士団の専属薬剤師として勤めている。
そんなわたしには命よりも大切な一人息子のルシアン(3)がいた。
そしてわたしはシングルマザーだ。
ルシアンの父親はたった一夜の思い出にと抱かれた相手、
フェリックス=ワイズ(23)。
彼は何を隠そうわたしの命の恩人だった。侯爵家の次男であり、
栄誉ある近衛騎士でもある彼には2人の婚約者候補がいた。
わたし?わたしはもちろん全くの無関係な部外者。
そんなわたしがなぜ彼の子を密かに生んだのか……それは絶対に
知られてはいけないわたしだけの秘密なのだ。
向こうはわたしの事なんて知らないし、あの夜の事だって覚えているのかもわからない。だからこのまま息子と二人、
穏やかに暮らしていけると思ったのに……!?
いつもながらの完全ご都合主義、
完全ノーリアリティーのお話です。
性描写はありませんがそれを匂わすワードは出てきます。
苦手な方はご注意ください。
小説家になろうさんの方でも同時に投稿します。
完璧な姉とその親友より劣る私は、出来損ないだと蔑まれた世界に長居し過ぎたようです。運命の人との幸せは、来世に持ち越します
珠宮さくら
恋愛
エウフェシア・メルクーリは誰もが羨む世界で、もっとも人々が羨む国で公爵令嬢として生きていた。そこにいるのは完璧な令嬢と言われる姉とその親友と見知った人たちばかり。
そこでエウフェシアは、ずっと出来損ないと蔑まれながら生きていた。心優しい完璧な姉だけが、唯一の味方だと思っていたが、それも違っていたようだ。
それどころか。その世界が、そもそも現実とは違うことをエウフェシアはすっかり忘れてしまったまま、何度もやり直し続けることになった。
さらに人の歪んだ想いに巻き込まれて、疲れ切ってしまって、運命の人との幸せな人生を満喫するなんて考えられなくなってしまい、先送りにすることを選択する日が来るとは思いもしなかった。
お幸せに、婚約者様。
ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの?
……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。
彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ?
婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。
お幸せに、婚約者様。
私も私で、幸せになりますので。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる