継母の心得 〜 番外編 〜

トール

文字の大きさ
上 下
32 / 189
その他

番外編 〜 ネロウディアスとアベル 〜 ノア5歳、アベル0歳

しおりを挟む


ネロウディアス視点


「レーテ! ディバイン公爵夫人の子供が、タイラー子爵……いや、アベラルド様の生まれ変わりというのは本当なのだろうか!?」

朕にとってタイラー子爵は、洗脳してきた憎むべき相手ではないかと思われるが、本当の親に放置されていた朕を世話してくれた育ての親でもある。

洗脳は許せる事ではないが、多分洗脳されていなかったら、耐えられるような人生ではなかった。
きっとディバイン公爵のように女性を嫌いになっていただろうし、もしかしたら、部屋に引きこもって出てこれなかったかもしれぬ。
タイラー子爵……アベラルド様は、悪魔に利用されていた中でも、何とか朕を助けてくれようとしたのだろう。優しい人だったから。

それに、彼に世話をしてもらえなかったら、朕はきっと死んでいたに違いない。そういう意味でも、恩人だ。

あの方の優しい心を利用し、操っていた悪魔こそが、憎むべき敵なのだ。

「そうみたいよ。……どうしたい? あなたが会いたくないなら、会う必要はないけど」

レーテが気をつかってくれるが、朕はむしろ……

「会いたいのだ」


◇◇◇


「───おおっ、ディバイン公爵に似ているのだ!」
「本当。ノアちゃんほど瓜二つというわけではないけど、テオ様の面影があるわ!」
「公爵とは違い、感情が豊かそうなのだ」

小さな小さな赤ん坊は、ふにゃふにゃしていてとても可愛いのだ。

「貴族は感情を表に出さないよう教育されますので」
「公爵は出さなすぎなのだぞ。ディバイン公爵夫人はいつも明るいのに」
「ベルは特別です」
「朕のレーテも負けぬがな!」
「ベルには誰も勝てません」
「朕はレーテが一番美しく、優しく、明るく、賢い女性だと思うのだ」
「それはベルの事でしょう。ベルは私の女神です」
「レーテだって朕の女神なのだ!」

バチバチと朕と公爵の間で火花が散る。

公爵は夫人の事となると引かぬからな。ん? 思えば公爵が引いた所など見たことがない! 夫人のことでなくとも、大人げないのだ!

「ネロったら、テオ様に絡んで何をやってんのかしら」
「て、テオ様っ、なんて恥ずかしいことを言っておりますの!?」
「ぁぶ……」
「あら、あーちゃんも呆れてるわぁ」

よしよしと赤ん坊を抱き上げるレーテは、聖母のようだ。
やはりレーテが一番なのだぞ。

「ぁーう」

すると、赤ん坊がレーテの腕の中で朕をじっと見て、何か言っているではないか。

「アベル、もしかして皇帝陛下がわかりますの?」
「ぁぶ」

!? あ、アベラルド様は、朕を覚えているのか!?

あまりに嬉しくて、両手で自身の口を塞いでしまったのだ。
アベラルド様は、「ぁう、ぶー」とやはり朕に話しかけてくるではないか!

「イーニアス殿下にお会いした時も、とっても嬉しそうでしたし……、妖精たちは赤ん坊だから、まだ魂の記憶が表に出ているのかもしれないと話しておりましたわ」
「なんと!?」

やはりアベラルド様は朕を覚えて……っ

「そうです! 朕はアベラルド様に育ててもらった、あのネロウディアスです!」
「ぁぶ」
「覚えておいででしたか! ぅう……っ、朕は嬉しいのだ」

はらはらと涙を流していると、「陛下は赤ん坊に何を言っているんだ」と公爵の冷静な声が耳に届いた。

黙るのだ公爵。今、朕は感動の再会をしているのだぞ!

「ぁ~う」
「はい。あの時は本当にありがとうございました!」
「ぅぶ」
「そうそう、畑の耕し方も教えていただきましたね! お料理も! あ、掃除も裁縫も、今では得意です!」

懐かしいのだ。

「……ネロって本当に皇帝なのかしら」
「話を聞いておりますと、完全に庶民のお母さんですわね」「赤ん坊と会話しているのか?」

アベラルド様は、ぶぶっと口をならし、ヨダレを垂らす。

「前もお伝えしましたが、朕はアベラルド様に感謝しております」
「あぅあ~」
「……そして、生まれてきてくださって、ありがとうございます。今度こそ、皆が幸せに暮らせるよう、朕も頑張りますので、アベラルド様も、」
「ふぇ……っ、ふぇっ」
「!?」

あ、アベラルド様が泣いてしまったのだ!

「あーちゃんどうしたの。ネロが嫌だった? うっとおしくてごめんね~」
「酷いのだぞ!? レーテっ」
「ふぇ……っ」
「よしよし、やっぱり泣き止まないわね……イザベル様、あーちゃんはお母様がいいみたい」

レーテはそう言ってイザベル様の腕の中へとアベラルド様……いや、アベルをそっと返すと、あやすのを懐かしそうに見つめていた。

イーニアスの赤ん坊の頃を思い出しているのだろう。
本当は、レーテとなら、何人でも子供は欲しいが、朕の兄たちの事を思い出すと恐ろしい。

「……ネロ、イザベル様が、アベルちゃんが外出できるようになったら、公爵家の領都にある公園を案内してくれるって!」
「うぬ!? 公園とは、今建設中のあの公園か!」
「そうよ。色々面白そうなものがあるらしいから、今から楽しみよね!」
「うむ! 子供たちもきっと喜ぶのだ!」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

継母の心得

トール
恋愛
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 4巻発売中☆ コミカライズ連載中、2024/08/23よりコミックシーモアにて先行販売開始】 ※継母というテーマですが、ドロドロではありません。ほっこり可愛いを中心に展開されるお話ですので、ドロドロが苦手の方にもお読みいただけます。 山崎 美咲(35)は、癌治療で子供の作れない身体となった。生涯独身だと諦めていたが、やはり子供は欲しかったとじわじわ後悔が募っていく。 治療の甲斐なくこの世を去った美咲が目を覚ますと、なんと生前読んでいたマンガの世界に転生していた。 不遇な幼少期を過ごした主人公が、ライバルである皇太子とヒロインを巡り争い、最後は見事ヒロインを射止めるというテンプレもののマンガ。その不遇な幼少期で主人公を虐待する悪辣な継母がまさかの私!? 前世の記憶を取り戻したのは、主人公の父親との結婚式前日だった! 突然3才児の母親になった主人公が、良い継母になれるよう子育てに奮闘していたら、いつの間にか父子に溺愛されて……。 オタクの知識を使って、子育て頑張ります!! 子育てに関する道具が揃っていない世界で、玩具や食器、子供用品を作り出していく、オタクが行う異世界育児ファンタジー開幕です! 番外編は10/7〜別ページに移動いたしました。

【完結】わたしはお飾りの妻らしい。  〜16歳で継母になりました〜

たろ
恋愛
結婚して半年。 わたしはこの家には必要がない。 政略結婚。 愛は何処にもない。 要らないわたしを家から追い出したくて無理矢理結婚させたお義母様。 お義母様のご機嫌を悪くさせたくなくて、わたしを嫁に出したお父様。 とりあえず「嫁」という立場が欲しかった旦那様。 そうしてわたしは旦那様の「嫁」になった。 旦那様には愛する人がいる。 わたしはお飾りの妻。 せっかくのんびり暮らすのだから、好きなことだけさせてもらいますね。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

悪役令嬢に転生したと思ったら悪役令嬢の母親でした~娘は私が責任もって育てて見せます~

平山和人
恋愛
平凡なOLの私は乙女ゲーム『聖と魔と乙女のレガリア』の世界に転生してしまう。 しかも、私が悪役令嬢の母となってしまい、ゲームをめちゃくちゃにする悪役令嬢「エレローラ」が生まれてしまった。 このままでは我が家は破滅だ。私はエレローラをまともに教育することを決心する。 教育方針を巡って夫と対立したり、他の貴族から嫌われたりと辛い日々が続くが、それでも私は母として、頑張ることを諦めない。必ず娘を真っ当な令嬢にしてみせる。これは娘が悪役令嬢になってしまうと知り、奮闘する母親を描いたお話である。

無関係だった私があなたの子どもを生んだ訳

キムラましゅろう
恋愛
わたし、ハノン=ルーセル(22)は術式を基に魔法で薬を 精製する魔法薬剤師。 地方都市ハイレンで西方騎士団の専属薬剤師として勤めている。 そんなわたしには命よりも大切な一人息子のルシアン(3)がいた。 そしてわたしはシングルマザーだ。 ルシアンの父親はたった一夜の思い出にと抱かれた相手、 フェリックス=ワイズ(23)。 彼は何を隠そうわたしの命の恩人だった。侯爵家の次男であり、 栄誉ある近衛騎士でもある彼には2人の婚約者候補がいた。 わたし?わたしはもちろん全くの無関係な部外者。 そんなわたしがなぜ彼の子を密かに生んだのか……それは絶対に 知られてはいけないわたしだけの秘密なのだ。 向こうはわたしの事なんて知らないし、あの夜の事だって覚えているのかもわからない。だからこのまま息子と二人、 穏やかに暮らしていけると思ったのに……!? いつもながらの完全ご都合主義、 完全ノーリアリティーのお話です。 性描写はありませんがそれを匂わすワードは出てきます。 苦手な方はご注意ください。 小説家になろうさんの方でも同時に投稿します。

完璧な姉とその親友より劣る私は、出来損ないだと蔑まれた世界に長居し過ぎたようです。運命の人との幸せは、来世に持ち越します

珠宮さくら
恋愛
エウフェシア・メルクーリは誰もが羨む世界で、もっとも人々が羨む国で公爵令嬢として生きていた。そこにいるのは完璧な令嬢と言われる姉とその親友と見知った人たちばかり。 そこでエウフェシアは、ずっと出来損ないと蔑まれながら生きていた。心優しい完璧な姉だけが、唯一の味方だと思っていたが、それも違っていたようだ。 それどころか。その世界が、そもそも現実とは違うことをエウフェシアはすっかり忘れてしまったまま、何度もやり直し続けることになった。 さらに人の歪んだ想いに巻き込まれて、疲れ切ってしまって、運命の人との幸せな人生を満喫するなんて考えられなくなってしまい、先送りにすることを選択する日が来るとは思いもしなかった。

お幸せに、婚約者様。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

処理中です...