継母の心得 〜 番外編 〜

トール

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番外編 〜 もう少しだけ、待っていて 〜

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エンツォ・リー・シモンズ視点


「旦那様! ディバイン公爵家より早馬が参りました!」

執事が慌てた様子で執務室へ入って来て、受け取った手紙を渡してくる。

「早馬で……? まさか娘が産気づいた!? そろそろだとは思っていたけど……」

手紙を開けると、やはり娘の出産が始まったとある。いつも丁寧な手紙を書いてくれるディバイン公爵も、この時ばかりは慌てていたのか、少々文字が乱れていた。

了解したとの返事と、明日行く旨を手紙にしたため執事に渡す。

「すぐに出発なされなくても大丈夫なのですか? 残りの仕事でしたら、後回しにされても……」
「本当はすぐにでも行きたいけど、夜に馬車を出すのは皆を危険に晒す行為だからね。何かあっては、娘にも迷惑をかけてしまう。ディバイン公爵は万全の医療体制を整えていると話していたし、私がそばにいなくとも無事生まれるさ」

イザベルには、妖精の加護もあるしね。

「かしこまりました。明日の朝、すぐに出られるよう準備しておきます」
「ああ、ありがとう」

出来るだけ仕事を終わらせて、翌日、シモンズ邸を出発した。娘が嫁いだのは隣の領地だから、こういう時は近くて助かる。

娘からプレゼントされた最新型の馬車に揺られ、昼前にディバイン公爵邸へとたどり着く。

相変わらずお城のようなお邸だなぁ……。

このお邸を見るたびに尻込みしてしまうのは、仕方ない事だろう。

「シモンズ伯爵、お待ちしておりました」

馬車から降りるとすぐにウォルト殿が迎えに出てくれており、そのまま邸の中へ案内される。
玄関を入るとすぐ、ディバイン公爵がやって来たので「テオバルド殿、お忙しいところお邪魔して申し訳ありません」と挨拶をする。

「義父上、お越しいただきありがとうございます。イザベルも義父上が来るのを首を長くして待っています」
「そうか……、あの子は無事出産したようですね」
「はい。元気な子を無事産んでくれました」

見たこともないくらい、柔らかく笑うディバイン公爵に目を見張る。このような表情をする人ではなかったが、娘と子供によって変わったのだろうか。

しかし、イザベルが無事で良かった……。

ホッと息を吐き、早く娘に会いたい気持ちを抑えながら公爵を見る。

「娘が昔から好きだったフルーツを沢山持ってきました。後程出してあげてください」

御者からメイドに渡された荷物の中にあるので伝えると、ディバイン公爵は頷いて私をイザベルのいる部屋へと自ら案内してくれたのだ。




「───イザベル、調子はどうだい……おや、可愛い天使が二人、君の横で眠っているじゃないか」
「お父様! いらしてくださったのねっ」

部屋に入ると、ベッドに座って微笑んでいる娘の姿が目に入り、その優しげな眼差しが妻と重なって息を呑んだ。

イザベルは確かに妻にそっくりだが、子供を産むと雰囲気までもがこうも似てくるものなのだと驚いてしまう。

「私の孫たちは可愛いねぇ」
「お父様、二人が起きてしまいますわ。しーですわよ」

なんという事だろう。妻にもよく、「しー、よ」と言われたものだが、まさか娘からも言われるだなんて……っ

君もどこから見ているかい? 私たちの可愛い娘が、立派な母親になったんだよ。

「あぁっ、ごめんねイザベル。でも、報せを聞いて慌ててやって来た甲斐があったよ」
「良いタイミングでしたわ。兄弟並んで眠っているんですもの」
「ああ。可愛い天使たちのお昼寝だね」

おじいさま、といつも私を慕って寄ってきてくれる、可愛い孫の横に、新顔の孫の姿があり、何だか幸せすぎて涙が滲む。

「お父様、泣いてますの?」
「……っ、ごめ、ごめんよ……っ、あまりにも幸せで、涙が止まらないんだ」
「お父様……っ」

娘の前で泣いてしまうなんて、君が見たら鼻で笑うんだろうね……。

君が天に召されてから、何年経つだろう。
私の時間はあの時止まったみたいに、思い出すたび悲しくて、寂しくなってしまうけれど、きっとずっと、悲しいのだけれど……、生きていると、幸せだと思う瞬間もやってくるものなんだね。

いつか、私が君の居る場所に行く事ができたら、孫たちの事、自慢しちゃうかもしれないな。
その時は、自慢ばっかりして! って、文句を言いながら、沢山話を聞いて欲しいから、もう少しだけ待っていてね。


私の愛しい───……。



「───おじぃさま、わたしと、あそぶのよ」
「ふふっ、何して遊ぼうか? ノア」
「つみき! あかちゃんと、アオと、せーれーも、いっしょにあそぶの!」

どうやら、話さなきゃならないことが、たくさんありそうだよ。


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