継母の心得

トール

文字の大きさ
上 下
358 / 371
第二部 第3章

475.一歩前進、二歩後退?

しおりを挟む


子供祭も終わり、涼やかな風が吹き始めた頃、着々と進めていた、子育て支援センターが本格的に始動する。やっと、庶民街の大通りに場所が見つかったのと、スタッフの研修が思ったよりもスムーズに進み、予想より早く開く事が可能になったのだ。
これも、お医者様たちの協力と、スタッフたちの努力の賜物だ。

「やっと、はじめの第一歩が踏み出せますわ」

これは、育児の知識が乏しいこの世界で、幼い子供の死亡率を下げる為にも、親側の不安を解消する為にも、そして、将来ノアが大人になった時の為にも、必要な一歩ですのよ。

「ちえん、しぇんた……、ぺーちゃん、ま、さーじちたやちゅ!」
「まぁっ、ノアったら、よく覚えておりましたわね」
「にゃ?」
「まっさーじ、ぺーちゃん、とってもよろこんでたのよ」
「フフッ、そうね。ノアが手足のマッサージをしてあげたら、笑っていましたわね」
「ぺぇちゃ、ぅちゅ、ったぁ!」
「ぺーちゃん、くしゅぐったかったの?」
「にゃ!」

息子は以前行った、子育て支援センターの研修の一環でもあったベビーマッサージの事を覚えていたようだ。
ぺーちゃんも覚えているのか、くすぐったかったと訴えている。

「わたち、まっさーじ、とくい」

胸を張るノアだが、今は馬車の中。しかもノアはチャイルドシートに座っているのだから、ちょっと難しそうだ。

「ええ。ノアはベビーマッサージが上手ですわ。またぺーちゃんにやってあげましょうね」
「はい!」
「にゃ!」

そして、わたくしたちが馬車で向かっているのは、もちろん、庶民街の子育て支援センターである。

本当は、妊婦だからというのもあり、テオ様には、馬車での移動は渋られたのだが、フロちゃんに治癒魔法をかけてもらったので、とても調子が良いのだ。
何かあれば、ノアがフロちゃんの元に転移するという約束で、わたくしたちは外出許可をもらったのである。

まぁ、妊婦だからというだけではないのでしょうけれど……。犯罪組織『エンプティ』の問題は、まだ片付いていないのだから。

誘拐された事のある、ぺーちゃんとノアを見れば、にこぉっと天使の笑みを返され、頬が緩んだ。

まだ起きてもない事で不安になるのは止めよう。少なくともこの子たちの前では、笑って過ごしたい。

「さぁ二人とも、もうすぐ着きますわよ」
「はーい!」
「ぁーい!」

そして、馬車が停止した先にあったのは……

「な、なんですの、これ……」
「お、お、奥様!? 何かの間違いでしょうか……っ、こんな、ゾンビが棲みついていそうな所が、子育ての支援センターですか!?」

カミラの的確な表現に共感しながら、もう一度支援センターがあるとされる建物を見る。

「……お化け屋敷ですわ」
「おかぁさま、おばけ、でりゅ?」
「ぉにゃ!? ぺぇちゃ、こぁい……」

ノアはきょとんとした顔でわたくしを見上げ、ぺーちゃんはふるふるとチワワのように震え始めた。

「だ、大丈夫ですわ! おばけは出ませんっ」

何を隠そう、子供たちよりも、わたくしこそが、お化けが怖い。半分自分に言い聞かせるように、ぺーちゃんとノアを安心させようと必死の形相で否定していたら、余計ぺーちゃんを怖がらせてしまった。

「ディバイン公爵夫人!」
「ヒェ!?」
「にゃ!?」

戸惑っていた所に、わたくしを呼ぶ声で、心臓が止まりそうになる。

「おかぁさま、ぺーちゃん、だいじょぶ?」

我が息子は、お母様の心配をしてくれる優しい子に育っている。

「だ、大丈夫。大丈夫よ……」

見覚えのある顔が数人駆けてきて、馬車の外から「公爵夫人!」と叫んでいるのは、子育て支援センターのスタッフだった。

「あなたたち、一体なにがどうなっておりますの?」
「それが───」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

白のグリモワールの後継者~婚約者と親友が恋仲になりましたので身を引きます。今さら復縁を望まれても困ります!

ユウ
恋愛
辺境地に住まう伯爵令嬢のメアリ。 婚約者は幼馴染で聖騎士、親友は魔術師で優れた能力を持つていた。 対するメアリは魔力が低く治癒師だったが二人が大好きだったが、戦場から帰還したある日婚約者に別れを告げられる。 相手は幼少期から慕っていた親友だった。 彼は優しくて誠実な人で親友も優しく思いやりのある人。 だから婚約解消を受け入れようと思ったが、学園内では愛する二人を苦しめる悪女のように噂を流され別れた後も悪役令嬢としての噂を流されてしまう 学園にも居場所がなくなった後、悲しみに暮れる中。 一人の少年に手を差し伸べられる。 その人物は光の魔力を持つ剣帝だった。 一方、学園で真実の愛を貫き何もかも捨てた二人だったが、綻びが生じ始める。 聖騎士のスキルを失う元婚約者と、魔力が渇望し始めた親友が窮地にたたされるのだが… タイトル変更しました。

兄のお嫁さんに嫌がらせをされるので、全てを暴露しようと思います

きんもくせい
恋愛
リルベール侯爵家に嫁いできた子爵令嬢、ナタリーは、最初は純朴そうな少女だった。積極的に雑事をこなし、兄と仲睦まじく話す彼女は、徐々に家族に受け入れられ、気に入られていく。しかし、主人公のソフィアに対しては冷たく、嫌がらせばかりをしてくる。初めは些細なものだったが、それらのいじめは日々悪化していき、痺れを切らしたソフィアは、両家の食事会で……

【完結】悪役令嬢を期待されたので完璧にやり遂げます!

櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のマリアンヌには第一王子ジャルダンという婚約者がいた。 しかし、ジャルダンは男爵令嬢のロザリーこそが運命の相手だと豪語し、人目も憚らずに学園でイチャイチャしている。 ジャルダンのことなど好きではないマリアンヌにとってはどうでもいいことだったが、怒った父の公爵が婚約破棄の準備を進める中、マリアンヌは自分の噂話の現場に出くわしてしまう。 思わず聞き耳を立てると、最初はジャルダンとロザリーの非常識な振舞いに腹を立てているありきたりな内容は、次第にマリアンヌが悪役令嬢となってロザリーにお灸をすえて欲しいという要望に変わっていき―― 公爵令嬢として周囲の期待に応えることをモットーとして生きてきたマリアンヌは、完璧な悪役令嬢となってロザリーに嫌がらせを行うことを決意する。 人並み外れた脚力と腕力を活かしてヒロインに嫌がらせを行い、自分のアリバイをばっちり作って断罪返しをする悪役令嬢……を期待された公爵令嬢のお話です。 ゆるい短編なので、楽しんでいただけたら嬉しいです。 完結しました。

彼は別の女性を選んだようです。

杉本凪咲
恋愛
愛する人から告げられた婚約破棄。 ショックを受けた私は婚約者に縋りつくが、冷たく払われてしまう。 彼は別の女性を選んだようです。

【完結】令嬢は売られ、捨てられ、治療師として頑張ります。

まるねこ
ファンタジー
魔法が使えなかったせいで落ちこぼれ街道を突っ走り、伯爵家から売られたソフィ。 泣きっ面に蜂とはこの事、売られた先で魔物と出くわし、置いて逃げられる。 それでも挫けず平民として仕事を頑張るわ! 【手直しての再掲載です】 いつも通り、ふんわり設定です。 いつも悩んでおりますが、カテ変更しました。ファンタジーカップには参加しておりません。のんびりです。(*´꒳`*) Copyright©︎2022-まるねこ

手切れ金代わりに渡されたトカゲの卵、実はドラゴンだった件 追放された雑用係は竜騎士となる

草乃葉オウル
ファンタジー
上級ギルド『黒の雷霆』の雑用係ユート・ドライグ。 彼はある日、貴族から依頼された希少な魔獣の卵を探すパーティの荷物持ちをしていた。 そんな中、パーティは目当ての卵を見つけるのだが、ユートにはそれが依頼された卵ではなく、どこにでもいる最弱魔獣イワトカゲの卵に思えてならなかった。 卵をよく調べることを提案するユートだったが、彼を見下していたギルドマスターは提案を却下し、詳しく調査することなく卵を提出してしまう。 その結果、貴族は激怒。焦ったギルドマスターによってすべての責任を押し付けられたユートは、突き返された卵と共にギルドから追放されてしまう。 しかし、改めて卵を観察してみると、その特徴がイワトカゲの卵ともわずかに違うことがわかった。 新種かもしれないと思い卵を温めるユート。そして、生まれてきたのは……最強の魔獣ドラゴンだった! ロックと名付けられたドラゴンはすくすくと成長し、ユートにとって最強で最高の相棒になっていく。 その後、新たなギルド、新たな仲間にも恵まれ、やがて彼は『竜騎士』としてその名を世界に轟かせることになる。 一方、ユートを追放した『黒の雷霆』はすべての面倒事を請け負っていた貴重な人材を失い、転げ落ちるようにその名声を失っていく……。 =====================  アルファポリス様から書籍化しています!  ★★★★第1〜3巻好評発売中!★★★★ =====================

【完結】私の大好きな人は、親友と結婚しました

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
伯爵令嬢マリアンヌには物心ついた時からずっと大好きな人がいる。 その名は、伯爵令息のロベルト・バミール。 学園卒業を控え、成績優秀で隣国への留学を許可されたマリアンヌは、その報告のために ロベルトの元をこっそり訪れると・・・。 そこでは、同じく幼馴染で、親友のオリビアとベットで抱き合う二人がいた。 傷ついたマリアンヌは、何も告げぬまま隣国へ留学するがーーー。 2年後、ロベルトが突然隣国を訪れてきて?? 1話完結です 【作者よりみなさまへ】 *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

恋愛
今日、私はお飾りの妃となります。 ※実際の慣習等とは異なる場合があり、あくまでこの世界観での要素もございますので御了承ください。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。