継母の心得

トール

文字の大きさ
上 下
347 / 371
第二部 第3章

464.天を指すノア

しおりを挟む


巨大な水晶……というか、巨大すぎて、祭壇後ろの壁の小窓のような所から、一部しか見えない、水晶かどうかもわからないものの前に、ノアとイーニアス殿下は堂々たる面持ちで立つ。

本来、創造神様の加護を除いた、五家いなければならない加護持ちだが、現在、表向きは光、闇、土の加護持ちが存在せず、皇族とディバイン公爵家の二家のみとなっている。さらに、加護持ちはどちらも子供を代表に出したとなれば、教会も批判してくるのではないか、と、わたくしは身構えながら、二人の後ろ姿を見つめていた。

先程の作戦会議通りに、変な(子供たちには格好いい)ポーズを取りながら、魔力を込めたりすれば、巫山戯ていると責められたりしないだろうか……。わたくしなら可愛すぎて心臓がもたないが、色んな意味でかなり心配だ。

「ベル、大丈夫だ」

テオ様が、ハラハラしているわたくしに、優しく声をかけてくれた。

「テオ様……。わたくし、ノアもイーニアス殿下も、賢く、可愛く、素晴らしい子たちだと思っておりますのよ」
「ああ」
「ですが、心配でたまりませんの」

だって、まだたった4歳と5歳ですのよ。ノアなんて祝福の儀も済ませておりませんのに。なのに、大勢の知らない大人たちの前で、魔力を込めるだなんて……

「───では、イーニアス殿下から、お願いいたします」

クレオ枢機卿が促し、イーニアス殿下が一歩前に出ると、イーニアス殿下は両手を天に掲げ、前に押し出すように、小窓のような所から水晶に触れる。おそらくこれは、作戦会議でやっていた、格好いいポーズだ。

「……あの行動は、一体なんだ?」
「ホホッ、可愛らしいですわね」

テオ様が不可解な顔をしている中で、わたくしはほっこりとその様子を眺める。周りも、心配していたような非難めいた反応はなく、それどころか、孫の初めての発表会を、応援しているような、そんな優しさを感じた。

「イーニアスったら、ノアちゃんに良いところを見せようと頑張っているのかしら」
「うむ。朕のイーニアスはなんと愛らしい事か」

前の席では皇后様と皇帝陛下が、ほのぼの会話をしており、段々参観日に来ている気分になってきた時だ。イーニアス殿下が触れた水晶が、火の鳥のような形の炎を映し出し、真っ赤に染まったではないか。小窓の中が燃えているような、しかし幻想的で美しい光景に、誰からともなくため息を漏らす。

「五年前の、ネロウディアス帝の時には、なにも反応がなかっただろう?」
「あの時は魔力は流していない。形だけだったではないか」
「やはり、焔神の加護を持つ者はこうも違うものなのですね」
「ダスキール公爵の時にもこのような事はなかったよな……」
「ディバイン公爵の時は、かなり光ったのを覚えているが、まさかこのような美しい……」

ヒソヒソと話す声に、皇帝陛下を見る。あまりいい気はしない話に、落ち込んでいるのでは、と思ったが、まったく気にしていないどころか、息子を誇らしそうに見つめている姿に、心を打たれた。

陛下は、本当にイーニアス殿下の事を可愛がっていらっしゃるのだわ。

「テオ様、鳥の形をした炎が……」
「おそらくは、あれが管理者となったイーニアス殿下の、魔力が可視化されたものなのだろう」
「鳥……あの珍獣と、繋がりを持ったから、魔力もあのように変化したのでしょうか?」
「そうだろう。あの珍獣が言う、純粋な魔力というのがあの炎なのかもしれん」

さすがは次期皇帝だ。と皆が感心する中、次はいよいよノアの番だ。

はぁ……、何だかわたくしがドキドキしますわ。

当の本人は全く緊張していないように、堂々と水晶に向かっている。
皆が、固唾をのんで見守る中、ノアは片手を掲げ、人差し指で天を差したのだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

継母の心得 〜 番外編 〜

トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。 【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 4巻発売中☆ コミカライズ4/16より連載開始】

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」

まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。 気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。 私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。 母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。 父を断罪できるチャンスは今しかない。 「お父様は悪くないの!  お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!  だからお父様はお母様に毒をもったの!  お願いお父様を捕まえないで!」 私は声の限りに叫んでいた。 心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。 ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※タイトル変更しました。 旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」

浮気性の旦那から離婚届が届きました。お礼に感謝状を送りつけます。

京月
恋愛
旦那は騎士団長という素晴らしい役職についているが人としては最悪の男だった。妻のローゼは日々の旦那への不満が爆発し旦那を家から追い出したところ数日後に離婚届が届いた。 「今の住所が書いてある…フフフ、感謝状を書くべきね」

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。