継母の心得

トール

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第二部 第2章

387.証拠はありますの

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「にゃ!?」

枢機卿猊下の話を理解しているかのように、ぺーちゃんのおめめがまんまるなお月さまのように見開く。

「ぺーちゃん、しゅーききょ、おとぅさま?」
「にゃ!?」
「そうなのか!? まさか、こんなぐうぜんがあるとは、おどろいて、うしろに、ひっくりかえりそうになったぞ」
「ぁちゅ、ぃーちゅ、っく、けぇて」
「アスでんか、ぺーちゃん、ひっくりかえりゅの、あぶないの。きおちゅけてって」
「うむ。きをつけるのだ」

驚いて後ろにひっくり返るだなんて……っ、しかもそれを心配してあげる優しさ、なによりノアの通訳にわたくしメロメロですわ! 子供たちのやり取りが可愛らしすぎるのだけど。

「イザベル様、子供たちが可愛いのはわかりすぎるほどわかるけど、今は枢機卿の話を聞いてあげて」
「そ、そうですわね。申し訳ありませんわ」

皇后様から注意され、和んでいた気分をシリアスモードに切り替える。

「ぺーちゃんが、猊下のお子様だという証拠はありますの?」

あら、わたくしの返しが、追いつめられた犯人のようになってしまいましたわ。

「一族に息子の誘拐を依頼されたエンプティの一員に接触し、当時の話を聞き出しました」
「まぁっ、生まれたばかりのぺーちゃんを誘拐した犯人が誰か、割り出せたのですか!?」
「はい。苦労しましたが、今まで調査してきた事と、エンプティ内の情報を多少手に入れていたおかげで、特定できました」

そう話す猊下から察するに、かなりの情報を手に入れていたのだろう。
どれだけ必死に、子供の行方を捜索していたのか、少しだけ理解できた気がした。

「実行犯はかなり下っ端の者だったようで、当時、とある貴族から乳幼児を誘拐し殺害するようにという依頼を受けたのだと、すぐに口を割りました。ただ、乳幼児だった事もあり、情が勝って、ある農家の軒下に放置したのだと……」
「まさかそれが、ぺーちゃんを虐待し教会へ置き去りにした夫婦の家でしたの!?」
「はい……、まさか、私の息子が虐待されているなんて……っ」

もっと早く探し出せていれば……っ、と後悔しきりに顔を歪める枢機卿を見て、ぺーちゃんは少し震えていた。

「よしよし。ぺーちゃん、大丈夫、大丈夫。わたくしがここにいますわ」
「にゃ……」

ぺーちゃんの背中を一定のリズムでぽんぽんすると、少し落ち着いてきた。

「クレオ大司教、ぺーの今後はどのように考えている」

テオ様はわたくしとぺーちゃんをじっと見た後、大司教に向き直って、わたくしが一番気になっていた質問をする。

「フェリクスの意思に任せたいと思っておりますが……」

ぺーちゃんはまだ1歳ですわ。それは難しいのではないかしら。

「大司教、どうかウィーヌス様からお子様を取り上げないでください! ウィーヌス様にはもう、フェリクス様しかいないのです! お願いします!!」

ルネさんが大司教に必死で訴え、大司教は困ったようにテオ様とわたくしに視線を向けた。
いくら枢機卿猊下がぺーちゃんの本当の父親だとしても、幼児を誘拐したという前科持ちだ。しかも守ろうとしていたとはいえ、今まであまり良い扱いをしてこなかったわけだし、取り上げられると思うのも無理はない。

「猊下は、このまま教会に残られますの? それともご実家を継がれるのでしょうか?」

皇后様からは、枢機卿猊下の犯罪は許し難いが、情状酌量の余地ありという事で、影の監視下に置かれる事になったが、他は自由だと聞いた。もし、領地に戻るとなると、ぺーちゃんが一緒に行くとなった場合、会えなくなってしまうのだ。

「私は……、このまま何もなかったように教会で過ごす事も、息子を殺そうとしたディオネ家に戻る事もできません」
「では、どうなさるおつもりですの?」
「それは……」

まだ決まっておりませんのね。

「それなら、わたくしに提案があるのですが」


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