継母の心得

トール

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第二部 第2章

323.地下迷宮探検4 〜 ソロモン殿下視点 〜

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ソロモン第一皇子視点


階段を下りきった所は、広い洞窟のような場所で、全体がぼんやりと発光している。

とても幻想的です……

「ヒカリゴケね。こういった洞窟にはよく生えている植物よ。仄かに帯びた魔力を発光させているの」

ヒカリゴケ……初めて見ました。

「あにうえ、きれえですね」
「そうですね」

イーニアスは目を輝かせて洞窟を見ている。

この幼い弟とは、つい最近まで会うことも出来ませんでした。他の姉妹とは違い、祝福の儀で挨拶をしたくらいで、交流する事もなかったものだから、とても心配していたのです。

だってイーニアスはひとりぼっちで、離宮に閉じ込められていたから。ずっと寂しい思いをしているんじゃないかと思っていました。

私は、他の姉妹もですが、よく離宮のお庭が見えるバルコニーから、イーニアスの様子を見ていましたから、この子がいつも寂しそうな顔をしていたのを知っています。
何度そばに行ってあげたいと思ったことでしょう。

母上も、少し前まではお命を狙われていたので……、イーニアスを守る為に離宮に閉じ込めていたという事は、子供の私でも知っていました。
でも、ディバイン公爵夫人が、公子をつれてきてくれたから、イーニアスにもお友だちができて、お庭で楽しそうに遊んでいる姿が見られるようになったから、姉妹たちと喜んでいたのです。

たとえ会えなくても、可愛い弟が元気でいてくれるならそれでいいと、そう思っていました。
けれど、父上の様子が変わり、母上も変わり、ついにお話ができた時、本当に、本当に嬉しかったのです。

イーニアスも離宮から父上の隣の宮に移り、私たちが自由に交流できるようになってからは、私を兄と慕い、よく私たちの宮に遊びにも来てくれるようになりました。
私も姉妹も、そんな弟が可愛くて仕方ありません。

そして今回、地下迷宮の探検に誘われた時、戸惑いはしましたが、私を誘ってくれた事がとても嬉しかったのです。
だから、兄として、仲間として、この冒険を心から楽しもうと思います。

「こんな所なら、母上がおっしゃるように、宝物もありそうですね」
「「たからもの!」」

イーニアスとノア君の目がキラキラと輝きます。

「こういう所にある宝は、古代文明の叡智が詰まった道具とか、金銀財宝がセオリーよ!」

母上は子供のようにはしゃぎ、微笑みました。私も、実はずっとワクワクしています。

「神々の秘宝というのも、絵本で見たことがあります」
「あらソロモン、あなたなかなか素敵な事言うじゃない」
「こだい、ぶんめい……?」
「かみがみの、ひほー?」

幼い子にはまだわからないみたいですが、何となく雰囲気で察したのか、二人もワクワクしているみたいです。

『はやく、いく!』
『ぼーけんに、しゅっぱーつ!!』

私には妖精様の姿も見えませんし、声も聞こえませんが、イーニアスがそう言っていると教えてくれました。

「イーニアス、はぐれてはいけませんから手はつないだままにしましょう」
「はい。あにうえ」

鉱山跡ということでしたが、人が掘ったとは思えないくら広い洞窟は、思ったよりも歩きやすく、これならイーニアスの小さな足でも大丈夫かもしれないと、少し安心しました。

暫く歩くと分かれ道が現れ、妖精様が方向を教えてくれたのですが……、

『あっちは、まちにある、きょーかいにつながってるほーこー!』
『こっちは、いせきー!!』

と言っていると母上が教えてくれました。

「遺跡ですって? そんなもの、城の周りにはないはずだけど……」
『いせき、ある!』
『かくしつーろからしか、いけない!!』
「隠し通路からしかいけない……?」
「母上……?」

妖精の話を聞いた母上が、楽しそうに口のはしをあげるものだから、嫌な予感しかしませんでした。
本来は街に繋がる道を行き、折り返して終わりの予定だったはずです。

「それは、行くしかないでしょう!」
「「おー!」」

やっぱり、そうなると思いました。
イーニアスたちもよくわかっていないのに、楽しそうに声をあげていますし、予定を変更するしかなさそうです。

イーニアスとノア君の体力は大丈夫でしょうか……。

今度は、楽しそうに前進する母上の後を追いかけるように、私とイーニアスが後からついていく事になりました。

たくさんの分かれ道を右や左、時に真っ直ぐ進み、辿り着いた場所は───

「何もないじゃない」
「いきどまり、なのだ」
「アオ、みち、まちがえた?」

絵本であるような壁に仕掛けがほどこされているということもなく、完全な行き止まりでした。

妖精様でも、道を間違えることがあるのですね。

『アカ、みちまちがえてない!』
『アオも、みちまちがえてない!!』

「あにうえ、アカもアオもまちがえてないと、いっています」とイーニアスが教えてくれるのですが、どういうことなのでしょうか?

『ここ、アスのまりょく、こめる!』
『ここ!!』
「わたしの、まりょく?」

イーニアスが妖精様に何かを言われたのか、とつぜん地面にしゃがみこんだのです。

「きれいな、いしがうもれています!」
「いち、きれえね!」
「あら、本当。透明な……水晶かしら?」

たしかに、水晶らしき石が地面にうもれていました。

「ここに、まりょくを、こめる……」

イーニアスがボソッとつぶやき、その石に触れたせつなでした。

「きゃあっ!? イーニアス! ソロモン! ノアちゃん!!」

とつぜん地面が輝きだし、母上が私たちを抱きしめると、その輝きがさらに強くなって、目を開けていられなくなったのです───



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ようこそお越しくださいました。ウィーヌス・ウラノ・ディオネ枢機卿猊下。本日は私が、この図書館をご案内いたします」
「よろしく頼みますよ」
「はい。帝都の現在と昔の地図、それと坑道の地図を拝見されたいと伺いましたので、あちらの個室にご用意しております」
「ありがとうございます」
「では、ごゆっくりお過ごしください」
「案内と準備に感謝いたしますね」


「……さて、これが坑道の地図。そして……現在の帝都……フフッ、なるほど。教会の地下にも、道はあるのか───」


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