継母の心得

トール

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第二部 第2章

301.飛んでいってしまいますわ

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テオバルド視点


「───男3名、女1名を捕えました。そのうち、女は実際にシスターとして共にいた男も下働きとしてディバイン公爵領都の教会で活動していたとの事です。敷地内に侵入した男2名は教会に良く出入りしていた商人……という事になっておりますが、どうやら私の同業者のようです」

同業者というのは執事ではなく、裏の仕事の事を指すのだろう。ウォルトの言葉に確信を深める。

「やはり、教会とエンプティは深く関わりがある事は間違いないだろう」
「そのようです。……これは持論ですが……」
「言ってみろ」
「エンプティと教会の共通点は、世界各国に拠点がある事です」

ディバイン公爵家のように水神、風神など、加護をいただいている神を祀る場合もあるが、基本的に創造神の下にそれぞれの神があるとされ、創造神を主神として祀る教会は世界中にある。確かにエンプティとの共通点と言われると否定できないだろう。

ちなみに、大司教となると一国の王並の権力を持つのだが……。

「そして教会の一部、おそらくは上位の役職に就くものが、エンプティの幹部……ここから導き出される答えは、教会そのものが犯罪組織の拠点として使われているのではないでしょうか」

私も同意見だ。ウォルトが言うように、拠点はあるのに実態が掴めないのは、教会自体がエンプティの本拠地なのではないか。教会内部は治外法権。安易に調査はできない。逃げ込むのに好都合の場所だ。

「しかし、教会は皇帝陛下やましてディバイン公爵の権力を持ってしても、容易に立ち入れる場所ではありません」
「だからこそ、お前たち影がいるのだろう」

影にはやってもらわねばならない事が山ほどあるからな。

「それに、今は協力者がいる」
「クレオ大司教ですね……。信用出来るのでしょうか」
「妖精たちが見えるほどの人物だ。周りに妖精の卵がいる時もある。奴らは巫山戯た存在だが、魂の汚れた者には近づかないからな」
「なるほど。それは良い基準になりますね」
「とにかく、教会を徹底的に調べ上げろ」
「かしこまりました」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




イザベル視点


「おかぁさま……」
「あら、どうしましたの? ノア」

教会関係者の人たちは、結局執事と門番に追い返されたようで、わたくしが一度も顔を見る事なく解決したのだ。さすが公爵家の使用人は優秀だとホッとしていたその日の夜、ぺーちゃんを寝かしつけた後にノアが不安そうな顔をして話しかけてきたではないか。

まさか、変な人が来たと聞いて、誘拐された時のトラウマが!?

教会関係者を名乗る訪問者めっ、許しませんわよ!

「アオが……」
「え? アオがどうかしましたの?」

訪問者ではなく、どうやらアオの事で相談があるらしい。

「アオね、ぱんぱん、はれたの……」
「腫れた? アオのどこが腫れ上がりましたの?」

妖精だけど、何かにかぶれたのかと心配になる。

「じぇんぶ」
「ん? 全部?」
「しょうなの。ぱんぱんよ」

ぱんぱん……それは前からのような?

「ノア、もしかしたらアオはおやつを食べすぎているのかもしれませんわ」
「おやちゅ、たべしゅ、すぎ……?」
「何でも食べ過ぎてしまうと、人間も動物も妖精も関係なく風船のようにぱんぱんになってしまうものですの」

本当は、妖精はどうかわからないけれど、アカとアオは出会った頃よりもぱんぱんですものね。

「わたちも?」
「ええ。ノアも食べ過ぎると、ぷっくぷくの可愛い雪だるまさんになってしまいますわよ」

ノアのほっぺをつんつんしながら説明すると、少し考えたノアが「おかぁさまも?」と言うので、

「そうよ。お母様もたくさん食べたら、アカとアオみたいに風船になって、お空を飛んでいってしまいますわ」

なんて冗談を言って和ませようとしたのだけれど、

「おかぁさま、とんでく……」

呟いて、ショックを受けた顔をするではないか。

何で!?

「ノア?」
「おかぁさま、おやちゅたべちゃ、めっ」

え……?

「とんでっちゃ、めっ」
「まぁっ、ノア、お母様がいなくなると思いましたの?」

抱きついて何処にも行かせまいとするノアに、驚いてしまう。

「おかぁさま、どこにも、いかないで……っ」
「もちろんよ。ノアを置いて飛んでいったりしませんわ」

ぎゅっと抱きしめると、ノアはそこから暫くわたくしから離れなかったのだ。


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