継母の心得

トール

文字の大きさ
上 下
171 / 371
第二部 第2章

290.ノアの小さな葛藤

しおりを挟む


地球で言えば聖職者が着るアルバというのかしら、あの足首まである白くて長いワンピースのようなものに似た、聖職者らしい、けれど薄手のアウターにも見える、金ボタンが付いた前開きの服、その上から同じ白いマントを羽織った、ほっそりした好々爺。

この人が大司教……。確かに品のあるお顔立ちと振る舞い、そして権謀術数渦巻く場所で生きてきた人が出す独特の雰囲気。大司教と言われれば納得出来るが……。

「ぅりぇお……」

目をうるうるさせ、手を伸ばすぺーちゃん。

この子は、大司教のお孫さんだったのね。

「お初にお目にかかります。わたくし、テオバルドの妻、イザベル・ドーラ・ディバインと申しますわ。この子は息子の、」
「おはちゅに、おめに、かかります。でぃばいんこうしゃくけ、ちゃくなん、ノア・きんばりぃ・でぃばいん、です」

まぁっ、スラスラと自己紹介出来るようになってきて! ノアったら天才ですわ!

「はい、お初にお目にかかります。ディバイン公爵夫人、公子様。私はクレオと申します。帝都の教会で大司教などと呼ばれておりますが、ただの爺ですのでそのように畏まる必要はございませんぞ」

ニコニコと優しい笑みを見せるが、大司教ってそんなフレンドリーに接する事の出来る方ではございませんわよね!? 教皇、枢機卿に続く、教会のNo.3ですもの。

「公子様、フェリクスのお世話をしてくださっていたのですね。ありがとうございます」
「ふぇり、くちゅ?」
「ホホッ、公子様が抱っこしている赤ちゃんの名前ですな」
「? このこ、ぺーちゃんよ?」
「ほっ? ぺーちゃん、ですか」
「しょうです! ぺーちゃん」

あらあら、ノアったらぺーちゃんの本名に戸惑ってしまっておりますのね。まぁ、ノアの気持ちもわかりますけれど。ぺーちゃんの本名がフェリクスだったとは思いもしませんでしたもの。てっきりペーターや、ペが付く名前なのだと思っておりましたわ。

「ぅりぇお、ぺぇちゃ」
「ふむふむ。なるほど。フェリクスが公子様に、ぺーちゃんだと教えて差し上げたようですな」
「はい!」

クレオ大司教、ぺーちゃんの言葉がわかりますの!?

「でしたら、ぺーちゃんで間違いない。フェリクス、いえ、ぺーちゃんが、公子様に大変お世話になったようですから、お礼を言わせてください」
「ぺーちゃんね、わたしの、おとぉと、です。だから、だいじょぶです」
「そうでしたか。フェリ……ぺーちゃんを、弟のように可愛がってくださったのですね」

穏やかな優しい声でノアとお話してくれる大司教に、ノアはあっという間に懐いてしまいましたの。

何となく、わたくしのお父様に空気が似ているのも要因なのかもしれない。

だけど何故、帝都からディバイン公爵領にお越しになったのかしら? しかもお孫さんを連れて……。それに、親御さんの姿も見えませんわ。

「ディバイン公爵夫人、フェリクスには父母はおりません」
「ぇ、あ……、そうでしたの……」

クレオ大司教はわたくしの考えている事がわかったようで、先回りして教えてくださったのですけれど、わたくし、不躾な視線を送ってしまったのかしら……。

「申し訳ございませんわ……」
「ほ? 何を謝られることがありましょうか」
「でもわたくし、不躾な視線を送ってしまったようで……」
「おやおや、そのような事はありませんぞ。こちらこそ誤解させてしまいましたな」

大司教は穏やかな笑みを絶やさないので、つい、こちらの口元も綻んでしまいましたのよ。

「フェリクスや、そろそろこちらにおいで。公子様がお疲れのようですぞ」
「にゃ……にょあ」
「わたし、だいじょぶよ」

ノアはぺーちゃんを離したがらず、クレオ大司教はおやおやと、困ったように眉尻を下げた。

「ノア、ぺーもお前と同じように、家族の元へ帰りたいと思っているはずだ」

そこへテオ様が諭すように声を掛ければ、ノアはテオ様を見て目を潤ませると、腕の中にいるぺーちゃんを見た。

「……ぺーちゃん……」
「にょあ……ぁい、あちょ!」

ぺーちゃんは、ノアのほっぺにペタっと小さなおててをくっつけると、何かを呟いたのだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」

まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。 気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。 私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。 母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。 父を断罪できるチャンスは今しかない。 「お父様は悪くないの!  お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!  だからお父様はお母様に毒をもったの!  お願いお父様を捕まえないで!」 私は声の限りに叫んでいた。 心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。 ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※タイトル変更しました。 旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」

継母の心得 〜 番外編 〜

トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。 【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 4巻発売中☆ コミカライズ4/16より連載開始】

浮気性の旦那から離婚届が届きました。お礼に感謝状を送りつけます。

京月
恋愛
旦那は騎士団長という素晴らしい役職についているが人としては最悪の男だった。妻のローゼは日々の旦那への不満が爆発し旦那を家から追い出したところ数日後に離婚届が届いた。 「今の住所が書いてある…フフフ、感謝状を書くべきね」

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。