継母の心得

トール

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第二部 第1章

255.貼り付いた日記

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『イザベル様っ、大変よ!! 借りていたデルベ前伯爵の日記の最後のページ、貼り付いていたのよ!!』

晩餐前のノアとの団欒中でしたのよ。突然皇后様から妖精通信があったのは。

「はりついて……?」
『そう! 最後のページと、その前のページがぴったり貼り付いていたのよ!!』

何ですって!?

『アタシね、最初のページが白紙だったから、一番最後のページも白紙なんだろうと思って見ていたの。まぁやっぱり白紙だったから、特に違和感もないわ……って思っていたのよ。だけど、最初と最後の感触がちょっと違うって気付いて……っ』
「二重になっていたから違いましたのね……」
『それで、貼り付いている紙を剥がそうとしたんだけど、どうやらネロがよく使っている『接着剤』でくっつけられているみたいなのよ』

接着剤……最近開発されたものでくっつけているということは、貼り付いて間がないのだわ。

『接着剤ってお湯で剥がれるけど、それだと、もし何か書いてあった場合、インクが滲んで読めなくなってしまうでしょう。だからどうすべきか困ってしまって……』
「それもあって、わたくしに緊急の連絡をされたのですね」

一応接着剤の開発者ですものね。

『インクが滲まずに、貼り付いている紙を綺麗にはがす事ってできないかしら?』
「出来ますわ」
『そうよね。そんなに簡単に出来るわけ……え? 出来るの!?』
「はい。出来ますわ。ですが、多少は滲んでしまいますの」

マンガでしか見たことのないような反応をしている皇后様に、もう一度出来るとお伝えする。

『多少なら問題ないわ! どうやるの!?』

皇后様は、早く教えてちょうだいと言わんばかりに前のめりだ。

「接着を弱める為には、熱と水分が必要なのですわ。ですから、薄い布でその張り付いたページを覆い、蒸気をあてるのです」
『蒸気!?』
「お湯に直接浸けるよりはインクも滲みにくいですし、綺麗に剥がれると思いますのよ。ただ、羊皮紙は湿気と熱に弱いので、うねりや反りが出ると思います。カビも……」
『……わかった。剥がす事ができるなら、やってみるわ!』
「均等に蒸気がかかるようにしてくださいまし。それと、日記自体にもカバーはしてくださいましね」

注意事項をいくつかお伝えすると、皇后様はわかったと言って、『内容がわかったら、また連絡するわ!』と通信を切ったのだ。

少し心配だけれど、皇后様なら大丈夫だろう。

「おかぁさま、こおごおさま、おはなち?」

よいしょっとノアがわたくしの膝に這い上がり、見上げてくる。

「ええ。もうお話は終わったから大丈夫よ」
「じゃぁ、わたちと、あしょんで、くださぃ!」

笑顔が天使すぎて眩しいですわ。

「ええ。もちろんよ! 何して遊びましょうか?」
「ん~……、ぶらんこ!」
「まぁっ、もう日が落ちておりますのよ。お外は危ないですわ」
「ならと、でゅーく、いるのよ!」
「ナラとデュークがいても、お外は虫さんもたくさんいますのよ。ガブガブされますわよ~」
「がぶがぶ!?」

優しくノアを諭すと、ガブガブが怖かったのか、「わたち、やっぱり、おえかき、しゅる!」と紙とクレヨンを持って隣にちょこんと座るではないか。

「ふふっ、ブランコは明日しましょうね」

我が家の裏庭は、ノアの為に遊具を作って設置するうちに、大きな公園のようになってしまった。遊びに来るお子様に大人気で、子供用迷路やトランポリン、筋肉忍者になれるあの遊具もあり、さながら小規模のテーマパークである。

そのうちジップラインでも作ろうかしら。

「これ、カミラでぇ、これうぉると!」

さっき描いた絵を見せてくれる息子はやはり天使だ。

「お母様もノアを描こうかしら」
「! おかぁさま、きちのわたち、かいて?」
「騎士様のノア? じゃあ、立派な鎧と、立派な剣がいるかしら」
「しょう! おとぅさまより、しゅっごいの!」

まぁっ、ノアったらまだお父様をライバル視しているのだわ。

「そうねぇ、ノアは風と水の魔法が得意だから、この鍔……は日本刀の言い方だから……ガードかしらね。このガードの装飾部分に、風と水の魔石をはめられるようにして、魔法剣にしましょう!」
「まほお、けん?」
「そうよ。魔石に魔力を流してかまいたち……風の刃や、水の刃を出すの」
「しゅっごいの!!」
「そう。すっごい剣よ!」

なんて、ふざけてノリノリで描いた剣が、後々ノアの愛剣になるなど、この時には想像すらしなかったのだ。

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