継母の心得

トール

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第二部 第1章

237.完成、レール馬車

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「ベル、レール馬車が完成したと連絡があった」

デルベ伯爵夫人が行方不明になった後の事だ。
前世であった子育て支援センターの事を思い出してから、企画書を作る為、資料を集めたり、読み込んだりで忙しくしていた数日後、やっとひと息吐いていた時に、テオ様が珍しく興奮気味にリビングに入ってきて言ったのだ。

「まぁっ、大きな馬車ですから大変だったはずですが、遂に完成いたしましたのね!」
「れーりゅ、ばちゃ?」

わたくしのお膝の上で、良い子に麦茶を飲んでいたノアが上目遣いで見てくる。「レール馬車ってなぁに?」と目で訴えているのだ。

「レール馬車っていうのは、今ディバイン公爵領地に作っている公園を皆を乗せてぐるっと回る馬車のことですわ」
「ばちゃ! わたち、へんけーばちゃ、しゅきよ。アスでんかも、だいしゅき、いってたのよ」
「そうですわね。ノアもイーニアス殿下も、新型馬車が大好きよね」

ウフフ、と笑うノアは本当に可愛らしい。

「ですがテオ様、ここは帝都ですので、完成した馬車を見るのは暫く後になりそうですわね」
「何を言っているんだ。君の考案した、レール馬車が完成したんだぞ。見に行かないという選択肢はない」
「また皇后様をタクシー代わりに使う気ですの!?」
「たくし……? それが何かはわからんが、皇后は乗り気のようだぞ」

皇后様……、ついこの間も公園を見に行ったばかりではありませんの……。

「3日後なら時間が取れる。絶対に行くと言っていたぞ」

まったく、あの方はどうしてこうもアグレッシブなのかしら……。


◇◇◇


─ 3日後 ─


「今回は朕も行くのだ!」

ノアとテオ様と共に登城したのだけれど、そこで待っていたのは張り切って支度をしている皇帝陛下と、うんざりした顔の皇后様、そして困り顔のイーニアス殿下だった。

「絶対行くのだ!!」

イーニアス殿下と皇后様を抱きしめ離さない皇帝陛下に、「ちちうえ、くるしぃ、です……」と手を伸ばすイーニアス殿下、そして、「もうっ、わかったから離しなさいよっ」と叫ぶ皇后様に、ノアがびっくりして口を開いたまま眺めているではないか。

「ふふっ、ノア、お口が開いたままになっておりますわよ」
「! おかぁさまっ、たいへん、なのよ! アスでんか、ちゅぶれてるの!!」
「あらあら、あれは潰れているのではなく、陛下にぎゅーっとされているだけなのよ。陛下も力加減はちゃんとわかっておりますから、ほら、イーニアス殿下も笑顔ですわ」
「ほんとね! びっくりちた」
「フフッ、びっくりしましたわね」

びっくりしたと自己申告するノアの可愛さにメロメロですわよ。

「ノア!」

今まで陛下に抱きしめられていたイーニアス殿下が、ノアに気づき嬉しそうに名前を呼ぶと、「アスでんかっ」とノアが駆けていく。このやり取りはお決まりのようで、会うと毎回やっている。

「きゃあ! テオ様にイザベル様っ、いつからそこに!?」

やっぱり気付いておりませんでしたのね。皇后様、お顔が真っ赤ですわ。

「ディバイン公爵、朕も絶対行くのだぞ!」

今回は譲れぬ! と頑なに、テオ様に向かって宣言する陛下に対し、溜め息を吐くテオ様と、二人の関係性がよりフレンドリーになっている気がしなくもない。

結局皇后様、皇帝陛下、イーニアス殿下、テオ様、ノア、ウォルト、ミランダ、わたくしという大人数で領地に転移したのだけれど、皇后様は、どれだけの人数を運ぶ事が出来るのかしら? わたくし思うのだけど、皇后様が一番チートな能力を持っていますわよね。


カントリーハウスに転移した後は、以前来た馬車専門店の作業場ではなく、レール馬車専用にテオ様が用意した大きな作業場へと馬車で移動する。
国家事業として計画が進んでいるレール馬車は、新型馬車とは規模が違うのだ。

「───お待ちしとりました!」

工場と言ってもいいような、大きな建物に入ると、いつもの車大工の親方が迎えてくれ少しホッとする。

「こりゃあ、随分大勢で来なすったんですね。凛々しい二人の坊ちゃんもご一緒ですかぃ」

イーニアス殿下もノアも、満更でもないのかご機嫌に頷いているのが面白い。

「親方、本日はよろしくお願いいたしますわ」

この世界初のレール馬車ですものね。楽しみですわ!


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