継母の心得

トール

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第二部 第1章

196.世界で一番 〜 コーラの夫視点 〜

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コーラの夫視点


「───って、お隣さんや近所の奥さんたちに怒られたんス……」
「ハハッ、そりゃオメェが悪ぃわ」

妻に怒鳴ってしまった翌日、帰ったら隣の奥さんがオーガのような顔をして仁王立ちしていたから、マジでビビった。
オレだって言い過ぎたと思ってたから、謝ろうと思ってたんだよ。でもさ、その前に隣の奥さんに共有スペースへ引っ張って行かれて、そのまま他の奥さんたちにも囲まれて説教なんて、ちょっと酷くない?

休憩中、よく世話をやいてくれる先輩に、昨日帰ってからのことを愚痴る。
オレが帝都に来てから仲良くしてくれる、頼りになる人だ。

「でも、オレもこっち来た途端妻が妊娠したのが分かって、さらに出産直後にまた配置換えっスよ!? 忙しくて、それどころじゃなくて……仕事もついてくのがやっとだし、家に帰りゃ子供は泣きじゃくってるし……」

それに……

「オレ、おかしいかもしれねぇんスけど……」
「あ?」

ずっと誰にも言えなかったことを、思いきって話してみた。

「自分の子供が可愛いと思えなくて……いや、もちろん妻は愛してるし、子供だって大切なんスけど、周りが言うように、目の中に入れても痛くないだとか、そんなまでは、っていうか……」

こんな自分はおかしい。子供は可愛いもんだろ。何て酷いやつなんだと、ずっと思っていた。でも先輩は、こんな最低な話をするオレを、奇異な目では見なかった。それどころか、

「あ~……そりゃあれだ。オメェ、子供が奥さんの腹ん中にいた頃、全然触ったり話しかけたりしなかったろ」

普通の事のように、そう返してくれたんだ。

「いや、だってその頃、こっち来たばっかですよ!? あのクソ忙しくて、家にもほとんど帰れなくて、偶に帰れても寝てまた出勤の地獄の中だったんスよ!? 触ったり話しかけたりなんて余裕、なかったっスよ!」
「だろうな。だからだよ」
「え?」
「オメェさ、いきなり目の前に現れた奴を目の中に入れても痛くねぇなんて、思うか?」
「いや、そりゃ思わねっス」
「だろ。よく、生まれてきてくれてありがとう。オレの子を産んでくれてありがとう。なんて出産時に言ってる男いんだろ」
「ああ……」 
「ありゃあ、腹ん中にいた時からずっと、毎日毎日触って話しかけて、大きくなっていってる過程を見てきた奴にしか出てこねぇ言葉なんだよ」
「……」
「それをしてきてねぇオメェが、いきなり現れた赤ん坊を目の中に入れても痛くないなんて思うわけねぇだろ」
「ッス……」

先輩の話を聞いて、目が覚めたような気がした。
父親としての準備が全く出来てない状態で、突然赤ん坊が現れても戸惑うだけだと先輩は言うのだ。

「ガギが嫁の腹ん中にいる時から、触ったり話しかけたりして準備している父親とは違って、オメェはこれからなんだよ。これから毎日自分のガキと接していきゃあ一年もする頃にゃ、可愛いと思えない、なんて考えぶっ飛んでるぞ」

そうなんだろうか。

「これから毎日……」
「いつの間にかよ、生まれきてくれてありがとうどころか、コイツがいなきゃ生きていけねぇって思ってる自分がいる」
「そう、なんスかね……」
「おぅ! 今のお前と同じこと思ってたオレが言うんだから間違いねぇよ」

え!?

「先輩も……?」
「おぅよ。ま、頑張れよ新米パパ。自分のガキは、マジで可愛いぞ」
「あ、う、ウッス……」

この先輩も、初めはオレと同じだった……? この、子煩悩で有名な先輩が?

毎朝、娘と一緒じゃねぇと仕事できねーって叫んでるこの人が?

「何だよ。ジロジロ見んなって」
「あ、スンマセン」

この人みたいに、なれんのかな……? ウチの子が一番可愛いって、そんな風に……。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「───ん、まぁんま!」
「まんまかぁ! 今とぉちゃんが、おいちーまんま、やるからなぁ」
「と、ちゃ」
「!? コーラ、聞いたか!? 今、オレをとぉちゃって!!」
「うんっ、とぉちゃって言ったね!」
「おぅ! オレはとうちゃだ!!」
「とぉちゃ!」
「また言った!」

可愛いなぁ! ああ……、本当だ。
確かにオレの息子が、世界で一番可愛い!!


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