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第一章
35.ガパオライス
しおりを挟む「ドラゴンさん!? 大変っ スポーツ飲料水飲ませなきゃいけないのに、気を失ってる……っ」
確か、意識の無い状態で飲み物を飲ませると、器官に詰まる可能性が高いんだよね!?
どうしよう……っ
「カナデ様、大丈夫です。スポーツ飲料水を飲ませましょう」
ヒューゴさんがやって来て、スポーツ飲料水を渡してくれた。
「このスポーツ飲料水は状態異常を回復するポーションです。つまり、喉に詰まっても、状態異常回復が勝るに違いありません」
なるほど! さすがヒューゴさんだ。
「じゃあ、飲ませてみます」
ドラゴンの大きな口と牙に一瞬怯んでしまったが、村の人達に手伝ってもらい、口を開けて貰う。かなり前に出てきていた脚立に乗って、口の奥にスポーツ飲料水を持った手を突っ込み、流し込んだのだ。
『ぅ……っ』
口が閉じられそうになったので、村の人達と急いで退避する。
びっくりした……。
もう少し遅れていたら腕が無くなっていたかもしれない。
ボロボロの羽や千切れかけていた尻尾がゆっくりと治っていっている。
まるで時間が巻き戻っているみたいだ。
「良かった……喉にも詰まってないし、怪我も治っていってる」
「カナデ様、暫くしたら目覚めるはずですから、ドラゴン様のお食事を作って参りますね」
「あ、イヴリンさん。私も一緒に作ります。丁度お昼ご飯も作ってる途中だったし。あ、皆さん、ドラゴンさんをお任せしても良いですか?」
「勿論です!」
イヴリンさんが料理を作るというので、昼食を作っている最中だったのを思い出し、キッチンへ行く事にした。
ドラゴンさんは巨大なドラゴンの姿のままなので、皆には気をつけるように伝えて移動した。
「あのドラゴンさん、女性の方でした」
「そうなんですか? ドラゴンの姿だと性別が分からないですが、カナデ様はお分かりになったのですね」
「声が女性の声だったので」
ヘラリと笑いながら、イヴリンさんと話しつつ料理を作っていく。
今日の昼食は、ガパオライス!
子供達が居ると、昼食は丼ものが一番なんだよね。
ナンプラーが出てきたし、リッチモンドさん達が取ってきてくれた鳥肉があるから、沢山作れそう!!
先ずはパプリカ、ピーマン、玉ねぎ、ニンニクを切って、フライパンで目玉焼きを作ります!
私は半熟の目玉焼きが好きだから、焼きすぎないように注意して……よし、出来た!
フライパンから目玉焼きを取り出したら、そこへニンニクと豆板醤を入れて炒めて……鳥を挽肉にした物を炒めたら野菜を入れてさらに炒めます!
「カナデ様、“なんぷら”と“おいすたソース”、お酒と砂糖を混ぜ終わりましたよ」
「ありがとうございます! じゃあそれをフライパンの中に入れて下さい」
イヴリンさんに混ぜ合わせてもらっていた調味料を入れてもらうと、ジュワッと音がたって、それと共に美味しそうな匂いが鼻孔をくすぐる。
はぁ~。いい匂い。
このまま水分をある程度飛ばして……
「イヴリンさん、後はご飯を器に盛ってもらったら、これと目玉焼きとサラダを入れて完成ですよ!」
「あら、でしたら子供達を呼んで来なければなりませんね! カナデ様、私が行ってきますので少々お待ち下さい」
「ありがとうございまーす」
イヴリンさんが子供達を呼びに行ってる間に盛り付けて……サラダにドレッシングをかけてレモンを添えたら完成!!
彩りも良いし、あの青いドラゴンさんも食べてくれるかなぁ。
「カナデ様、昼食の準備を手伝いに来ました!」
ぴょこんと扉の影から顔と耳を出したラヴィちゃんが、ほとんど出来ている料理を見て「え!? もう出来たんですか!?」と驚いている。
そういえばいつもより少し作るのが早いもんね。
あれ? ラヴィちゃん、もしかして青いドラゴンさんが来た事知らないとか?
「ラヴィちゃん、さっきね、ボロボロのドラゴンさんが庭にやって来たの」
「え!? リッチモンド様が怪我をされたんですか!? た、大変じゃないですか!!」
「違う、違う。リッチモンドさんじゃなくて、別のドラゴンさんがやって来たの。だからいつもより早く昼食を作ったんだよ」
「へ? 別のドラゴンさんですか??」
「うん。少し早いけど、皆でお昼食べよっか」
ラヴィちゃんはきょとんとした顔で瞳を瞬かせて、暫く考えた後、「はい!!」ととても良い返事をしたのだった。
子供達とイヴリンさん達家族、そして自称メイドチームには先に昼ご飯をしてもらい、私は青いドラゴンさんのところへガパオライスを運ぶ。
皆は私がわざわざ運ばなくても良いと言うが、青いドラゴンさんは人間の言葉が分からないかもしれないから、私が行った方が良いだろう。
前にリッチモンドさんは、自分は長く生きているから、人間の言葉が分かると言っていたしね。
庭に集まっている村人達の間を通り抜けて、さっき頼んだ村人とヒューゴさんに声を掛ける。
「ドラゴンさんの目は覚めましたか?」
「あ、カナデ様っ 目は覚めたようですが、私には何を仰っているのかわからず……今、ヒューゴ様が対応しております」
そういえば、ヒューゴさんはリッチモンドさんにドラゴンの言葉を習ってたよね。
『ここは、“魔の森”ではなかったのか……?』
『ココハ、“マノモリ”ノナカ、アル。カナデサマノムラダ』
『カナデ様?』
『サッキ、アナタタスケタ、オカタダ』
おおぅ。ヒューゴさん、片言のドラゴン語だね。
「ヒューゴさん、ドラゴンさんの事、ありがとうございます」
「カナデ様。いえ、私のドラゴン語がなんとか通じているみたいで、自信に繋がりました!」
「そ、それは良かったですね」
ハハッと笑って、青いドラゴンさんへ向き直る。
『ドラゴンさん、身体の調子はいかがですか?』
『お前は……先程の人間か。私は一体……、死にかけていたが、目覚めたら傷が全て治っていた。どんなに優秀な治癒魔法の使い手でも、無傷にするなど出来ないはずだが……』
自分の尻尾や羽を見て首を傾げているドラゴンさんに、安心するよう微笑む。
『それより、お腹空いてませんか? 食事を用意したので、良かったら人化してもらって、お食事にしませんか?』
『……良い匂いがすると思っていた……』
ドラゴンさんはそう言って、人化したのだ。
『有り難くいただこう』
私の目の前には、艷やかな黒みがかった青い髪を風に靡かせた、スーパーモデルのような美人さんが立っていたのだ。
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