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第一章

19.それぞれの仕事

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「この中で、文字が書けない方はいらっしゃいますか?」
「はい。ヒューゴ先生、ぼくたちは文字を読む事は出来ますが、書いたことはありません」
「ペンと紙、触ったこと、ない」
「おや。では、お二人には文字の書き取りから始めていただきましょう。読めるのであれば、書く事もすぐ出来るようになりますからご安心下さい。ミミリィさんには、どの程度の文字を理解しているのかを教えていただきますね」
「「「はい!」」」

邸の1階にある、誰も使用していない書斎を開放し、ヒューゴさんには子供達に勉強を教えてもらっている。

その様子を覗き見して、うんうん頷いていれば、その後ろから、「お入りにならなくても宜しいのですか?」とイヴリンさんが聞いてくるので、邪魔したら悪いからと答え、扉を閉めた。

「子供達は文字の書き取りから始めるみたいです」
「そうですか。ミミリィが天使様方の邪魔をしなければ良いのですが……」
「ミミリィちゃんはしっかりしているから、そんな事にはならないですよ」

二人で談笑しながら、そのままキッチンへと移動する。今日はイヴリンさんの初仕事の日なのだ。


5人が村で暮らし始めて1週間が経っていた。

最初は家の設備や突然変わる畑の様子に戸惑っていたが、1週間も経つと慣れたようで、便利だと喜んで使いこなしている。

私だったら1週間経っても戸惑いっぱなしだと思うが、きっと5人は頭の出来が違うのだろう。

そして、慣れ始めた事で、今日からそれぞれの仕事に就いてもらう事になったのである。


「───キッチンは村の家とほとんど変わらない造りです。ちょっと大きくなっただけですね。電化製品の使い方も同じですから安心して下さい」
「畏まりました。食材はやはり見たことがないものばかりですので、料理に関してはまだ拙いとは思いますが、精一杯やらせていただきますので宜しくお願い致します」

イヴリンさんは丁寧に挨拶し頭を下げるが、私も料理なんて適当な所があるし、それに……

「イヴリンさん、頭を上げて下さい」

イヴリンさんは頭をゆっくり上げると、私を見る。
私はイヴリンさんと目を合わせ、にっこり笑うと伝えたのだ。

「皆さんが、この村で暮らすと決めた時から、私は皆さんの事を家族だと思っています。だから、仕事とかそんな風に思わずに、イヴリンさんは私のお姉さんとして一緒に料理したり、裁縫したり、楽しく暮らしましょう!」
「カナデ様……っ」

感動したようなイヴリンさんに、心の中で、本当は私の方が年上なんだけど、ごめんね。と平謝りしていた。

表情に出てないかが心配だ。

「私達をそのように思って下さってたなんて……っ」
「ああっ イヴリンさん泣かないで下さい」
「ミミリィが貴族に拐われて、助けて下さる人など周りにはおりませんでした……っ 皆見てみぬフリで……巻き込まれたくないのは分かります。けれど、警邏隊すら助けてくれない国の現状に、私達は絶望しておりました……っ レオ様だけが、あの貴族に逆らって下さって……。もし、あの国に戻れたとしても、私達親子は、二度とあの国の人々を信じられないでしょう」

辛い経験をして、人間不信になっちゃったんだね……。

「うん、もう大丈夫だからね。ここでは誰も、貴女達を傷付けたりしないよ」
「はい……っ」



午前中はイヴリンさんに邸内を案内し、午後からは自由行動してもらって、私は庭の様子を見にやって来た。

庭はイヴリンさんの旦那さんであるローガンさんが、庭師として仕事をしてくれる所だ。

邸の庭は、私が大雑把なせいなのか、花は咲いていてそれなりだが、素敵な庭とは言えない感じではあったので、正直助かっている。

「おおっ 花が全部フラワーポットに植替えられてる!」

「おや、カナデ様。こんにちは、いい天気ですねぇ」
「ぁ、こんにちは。ローガンさん」
「びっくりされたでしょう」

ローガンさんはニコニコと、花が無くなった庭を私に見せる。

「はい。全部の花の場所を移動させるんですね」
「仰るとおりです。花の位置が変わると、庭も全然違って見えるんですよ」

植物が好きなのだろう。ローガンさんは眩しそうに花達を見つめている。

「イヴリンさんが飲み物を用意してくれるので、休憩しながらやって下さいね」
「おや、それはたすかります! カナデ様、ありがとうございます」
「いえ、素敵なお庭、期待してますね」

ローガンさんに手を振って別れ、次はレオさんの様子を見に行く事にした。


レオさんはリッチモンドさんに連れて行かれたけど、どこに行ったのかなぁ。

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