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第一章

16.ハヤシライスのルー

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リッチモンド視点


「これ、ポーション。元気、出る」

そう言ってアーサーが持ってきた飲み物に、どよめきが起こる。
それもそのはず、“ポーション”とは幻の薬と呼ばれる回復薬なのだ。今や人族にも亜人族にも作れる者はいないだろう。

「ち、治癒魔法をかけていただき、“ポーション”まで……ここは神の楽園なのでしょうか?」

一番フラフラだった若い男がそう呟く。多分此奴は元騎士だったのだろう。
掌の剣だこと、礼儀正しさがそれを物語っていた。

「それでは、こちらのお子様達は天使様で、先程の女性は女神様なのでしょうか」

カナデが聞いたら大笑いしそうな事を、今度は女性が口にし、アーサーに「オレ、天使違う」と即座に否定されていたが、ルイは「カナデお母さんが女神様なのは否定出来ません」と呟いて場を混乱させていた。

「おぬしらの事情は後程聞くことにするが、まずはアーサーが持ってきてくれたものを飲むのだ」
「は、はいっ ドラゴン様!」

それぞれがアーサーの差し入れてくれたポーションを口にした瞬間、目を見開き、相当美味かったのだろう。あっという間に飲み干してしまった。

「ポーションとは、このように美味な飲み物だったのですね……」
「カナデのポーションは特別だ」

というより、ここで育つ野菜も、“れいぞうこ”の中にあるものも、全て特別だがな。

実際わしも、ここに来てから全盛期の力を取り戻した。いや、寧ろ今が全盛期なのかもしれん。

「さて、体力も回復したと思うがどうだ?」

わしの言葉に、5人が自身の体を見る。

「なんという事だ! 体が軽いっ」
「本当だわっ 私、今が一番調子がいいかもしれないわ!」
「おかぁ、さん、ミミ、しゃべれるよ……っ」
「ああっ ミミリィ!! あなた舌が治ったの!?」
「ミミリィ!! 良かった……っ 本当に良かった!!」
「おとうさん……っ」

ふむ。舌が欠損していたのか。

わしの治癒魔法は欠損部位は治せぬ。カナデのポーションは体力だけでなく、欠損部位も治すということか……。

「あぁ……神よ。感謝致します」

こっちの人族の男も舌を抜かれていたのだろう。先程まで全く喋らなかったが、カナデのポーションで治ったのだな。

しかし、舌を抜くなど、なんという残酷な事をしているのか。亜人族の国もやはり腐りきっておるな。

「さて、ここの二階に3部屋ベッドが置いてある部屋がある。“わしつ”にも布団を敷いてやるのでな。取り敢えずそこの親子は二階の部屋で休むがよい。後の二人も少し待っておれ」
「おじいちゃん、ぼくたちがお布団敷いてきます!」
「ひとつは、ここに敷いたら、いい?」
「うむ。良い子達だな。さすがわしの孫だ」

手伝いを申し出てくれたルイとアーサーに、布団を敷くのを任せ、わしは親子を二階の部屋に案内する。

子供達と村の家を探索しておいてよかった。こういう時に役に立つものだな。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



カナデ視点


「リッチモンドさん、これから皆のご飯作ろうと思ってるんだけど」
「カナデよ、皆ちょうど今ベッドに入った所だ。食事はもう少し後で良いだろう」
「え、そうなの? オムライス作ろうと思ってたんだけど……」

どうやら、皆疲れて眠ってしまったみたいだ。材料は切ってるけど、作るのは後にした方がいいみたい。

「おむらいす!? それは初めて聞く名だな! 一体どういう料理なんだ!?」
「えっと、ケチャップライスを玉子で包んだ料理だよ」
「おおっ けちゃっぷか。あの赤い甘酸っぱいソースだったな! わしも食べてみたい!」
「もちろんだよ! 皆が起きたら、一緒に食べましょう!」

楽しみにしてくれてるリッチモンドさんをリビングに残し、切った野菜を冷蔵庫に入れておこうと、もう一度キッチンへ戻った時、見つけてしまったのだ。

「こ、これは……っ ハヤシソースのルー!!!」

てことは、オムハヤシが出来るよ!!




さっそく、大きめの鍋で魔物肉多めのハヤシソースを作り、一時間以上かけてコトコト煮込んでいく。その匂いにヨダレが出そうになりながらも、そろそろいいかなとケチャップライスを炒める。

久々のオムハヤシだ! オムライスも美味しいんだけど、オムハヤシ大好きなんだよね。
リッチモンドさんも、ルイもアーサーもお肉好きみたいだし、オムハヤシを気に入ってくれるといいなぁ。


後、新しく来た人達の舌にも合うといいんだけど。


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