【完結】cat typing ～猫と麦酒～第10回ドリーム小説大賞奨励賞

開店、の後

エピローグ

　開店から、一週間ほどが経っていた。
　あの後、ビルを使っている人たちや、駅（他にはチェーン店くらいしかない）に近いことから、想像していたより、お客様が来てくれている。
　いつもの動物病院の獣医師の紹介で、（連合の譲渡会に猫の健康管理ボランティアに来てくれている）近隣の獣医師の溜まり場にもなりそうだ。
　お客様には、保護猫に興味を持ってくれた人もいた。
 
　保護猫と言えば、連合は、順調に活動している。
　特に、オジサンの財団の援助で始めた、猫写真の無料提供サイトは、有料でのリクエスト受付で、順調に収益を上げている。
　例えば、三毛猫が顔を洗っている写真がほしい、というリクエストを受け付けて、販売しているのだ。
　意外なことに、猫雑誌からも写真依頼があり、更にサイトや保護猫活動が紹介されて、里親が決まりそうなケースも出てきている。
 
　雪さんは、ビールを三杯以上呑まないと遊んでくれない、というツンデレ伝説を確立しつつあった。

　今日は、一年前に、雪さんが部屋に来た日だ。
　そういえば、保護猫だった雪さんは、誕生日がわからない。
　そうだ、今日を誕生日にして、帰ったらお祝いしよう。

　土曜日なこともあって、雪さんと出会った譲渡会の会場に向かっていた。
　連合総長（だっけ？）として、あまり顔を出すな、と言われているが、冷やかしだから、いいだろう、という不謹慎さだ。
　あと、雪さんを部屋に連れてきてくれたときのケージを、ようやく見つけたので、持ってきたのだ。
　あの日、あの場所に、なんとなく行かなければ、雪さんとは、出会わなかったのだ。
　いや、次の月でも、出会えていたのだろうか。
　雪さんに出会っていなければ、アニキをアニキと呼ぶこともなく、食事会に招くこともなく、店を開くこともなく。
　僕は、あの部屋で、今頃どうしていたのだろうか？
 
　そして、運命の出会いをした。
　僕は、黒い子猫を前に、ケージ片手に、猫会長に話かけていた。
「この子を連れて帰るには、どうしたらいいのでしょう？」
 
see you again.
ー尊敬する首藤剛志先生に捧ぐー