異世界チートはお手の物

スライド

文字の大きさ
上 下
32 / 37

第30話 交渉

しおりを挟む
 俺たちは交渉のため、ガルロ新聞社へとやってきた。
 ちなみに来る途中で俺は口座から2000万レードをおろし、そのお金はバッグの中にしまっている。

 ガルロ新聞社の前は、ベイルの件もあってか以前来た時よりもさらに多くの野次馬で溢れかえっていた。
 俺たちはそこをかき分けなんとか最前列へと到達した。

「はいはい下がって下がって! 予約のない人は入れるわけにはいかないよ!」

 新聞社の社員らしき男がそう言って俺たちを制止してきた。
 まあ、すんなり入れてくれるわけないか。だが、ここで引き下がるわけにはいかねえ。よーし。

「実はS級狩りについての特ダネを持ってきたんだ。予約はしてないけど、通してくれないか?」

 もちろん嘘だが、それを聞いた男の目の色がみるみる変わった。

「S級狩りの特ダネだと!? それは本当か!?」

 男はびっくりするくらい見事に食いついてきた。よし、これはいけるぞ。

「ああ、本当だ。だから編集長に会ってすぐに伝えたいんだ。中に入れてくれないか?」

「わ、分かった。付いてきなさい」

 やった! うまくいった。これで交渉できるぞ。

「あんた、よくもまあそんなすぐに嘘をつけるわね。ホント関心するわ。前世は詐欺師か何か?」

 エミリアが俺を誉めつつも少し悪態をつく。素直に褒められんのかこいつは。それに俺の前世は日本の高校生だ。 まあ正確には前世じゃない気もするけども。

「いいじゃねえかエミリア。上手くいきゃいいんだよ今は。とにかく行くぞ」



 その後、俺たちは男に応接室へと案内され、そこで待っているように言われた。
 5分ほど待っていると扉が開き、恰幅のいいおっさんが1人入ってきた。

「やあやあ大変お待たせしました。君たちだね、特ダネを持ってきたというのは。私はここで編集長をしているダルマンという者です。どうぞよろしく」

 そう言って笑顔で握手を求めてくるダルマン。俺は慌てて手を出し握手する。その後、エミリアもミーシャも握手をすると、一呼吸おいてダルマンが再び口を開く。

「では、早速ですがS級狩りについての特ダネを教えてもらいましょうか。情報料ははずませてもらいますよー。ほっほっほ」

 ホントに早速だな。とりあえず特ダネなんかないことを謝らないとな。

「申し訳ない。実はS級狩りについての特ダネがあるってのは嘘なんだ」

「な、なんですと?」

 ダルマンは眉間にしわを寄せた。

「で、でもことによっては特ダネよりすごい話を持ってきたんだ。聞いてくれ」

「ふむ……。まあいいでしょう。話してください」

「えーっと、端的に言うとだな。俺はユウト・アキヅキっていって冒険者をやっているんだ。今はまだB級の冒険者なんだけど、俺がS級冒険者になったていう記事を書いてほしいんだ」

「……ん? よく意味が分からないのですが……。嘘の記事を書けというお話ですか?」

「そうだ」

「うーん。なぜそんな記事を書いてほしいんだね?」

 当然の疑問をダルマンは尋ねてくる。

「S級狩りを倒すためだ」

「なっ!?」

 俺は素直にそう答え、ダルマンが驚きの声を上げた。

「ベイルがS級狩りにやられちまっただろ? 俺、ベイルとは最近仲良くなっていいライバル関係だったんだよ。それに色々助けてもらったりもして感謝の気持ちもある。だから仇を打ちたいし、これ以上被害を出さないためにもどうしてもS級狩りと戦って倒したいんだ。そしてそのためには俺がS級冒険者になったことにしておびき出すのが1番手っ取り早いんだ。S級狩りの動向に注目が集まってる今のこの時期に『新たなS級誕生。次に狙われるのはユウト・アキヅキか!?』みたいな感じの記事を明日の一面に載せてくれれば、きっとS級狩りもアクションを起こすだろうし、話題性で新聞の売り上げもはね上がる。俺あんたどちらにも利益がある。悪くない話だろ?」

「ふーむ……」

 ダルマンはしばらく考え込むと、重い口を開いた。

「魅力的なお話ですが、その記事は書けませんな。明日の記事の一面はベイル事件についてともう決まってますし、何より嘘の記事を書くわけにはいきませんな。申し訳ないですが、帰ってください」

 物凄く険しい表情でそう言われた。やはりダメか。だけどここまでは想定内。さあ、奥の手の登場だ。

「これを見てくれないか、ダルマンさんや」

 そう言って俺はバッグから2000万レードを出し、机に並べて置いた。

「なっ!? こ、これは……ほほっ、お金……?」

 険しかった表情がみるみる和らいでいき、ダルマンの目が完全にお金になった。どんだけ金好きなんだよおい。

「ここに2000万レードある。これをあんたに受け取ってほしい。ただし、ベイルの記事と一緒にでも構わないから、さっき言った記事も一緒に一面に載せてくれ。それが条件だ」

 さあ、首を縦に振ってくれい。まあこの感じだとまず間違いなく振るだろうけど。

「だ、だ、駄目だ! こ、こ、これは受け取りたい……じゃなかった。受け取れない! わ、私は新聞社の編集長として嘘の記事は書けん!! さ、さあ、帰った帰った!」

「なっ!?」

 ダルマンは明らかに受け取りたそうだったが、断られてしまった。
 なんてこった……。お金に目がないなら、2000万を出せば絶対に記事を書いてくれると思ったのに……。これじゃあ計画が台無しだ。どうしよう。

 俺が予想外の状況に焦っていると、エミリアが口を開いた。

「3500万よ」

「「……へ?」」

 俺とダルマンが気の抜けた声を上げる。

「3500万とはどういうことかね、お嬢さん?」

 エミリアは自分の通帳を取り出し、預金額をダルマンに見せた。

「見てください。私の通帳に1500万レード振り込まれてるでしょう。これもプラスしてあなたに渡すわ。これでどう?」

「お、おいエミリア! それはお前の……」

「いいから! さあダルマンさん、これで書いてもらえるわよね?」

「うう……。わ、わ、私は、そ、そそそそんなものは受け取りたーい! じゃない! 受け取れなーい! 帰ってくれーい! ふおおおお!」

 尋常じゃなくお金を受け取りたそうなダルマンだが、またしても拒否されてしまった。
 それを聞いたエミリアが声を上げる。

「これでも駄目だっていうの……。じ、じゃあいくらならいいっていうのよ!」

「ま、ま、まあ5000万レードでも出してくれれば書いてあげましょうかねえ。まあさすがにそんな額は無理でしょうなあ。ほっほっほ」

 それを聞いたミーシャがすかさず声を上げた。

「言いましたね。じゃあこれで5000万です」

「・・・・・・ほへ?」

 間抜けな声を上げたダルマンにミーシャがエミリアと同様に通帳を見せた。

「私のこの1500万レードも加算してください。これで5000万です。これで書いてくれるんですよね?」

 にっこりとミーシャがそう言った。ミーシャ、お前まで……。

「ご、ご、5000万レード……。ほほっ、ほほほほほー! 分かりました! 仕方ないですねえ。書いてあげましょう嘘の記事を!! ほほー!」

 何が仕方ないだ。死ぬほど嬉しそうだぞあんた。

「あ、そうだ。お金のことはくれぐれも内密にお願いしますよう。ほっほっほ」

「おう、もちろんだとも」

 よっしゃあ!! 何とか交渉成立だ。
 あ、そうだ。2人にお礼を言わなきゃな。

「ありがとう2人とも……。俺の無茶な交渉にお前らのお金を使わせちまって。ホントすまん!」

「何言ってるのよ。あんたに協力するって言ったでしょ。それに元々はあんたの宝くじで当たったお金だしね。別に気にしなくていいわよ」

「そうです。私もエミリアさんもこうするのが1番いいと思ってやったんです。何も問題ありません」

「お前ら……」

 我ながらいい仲間を持ったなあ。感無量だぜ。

 さあ、準備は整った。いつでも来やがれS級狩り。絶対ブチのめしてやる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

魔力吸収体質が厄介すぎて追放されたけど、創造スキルに進化したので、もふもふライフを送ることにしました

うみ
ファンタジー
魔力吸収能力を持つリヒトは、魔力が枯渇して「魔法が使えなくなる」という理由で街はずれでひっそりと暮らしていた。 そんな折、どす黒い魔力である魔素溢れる魔境が拡大してきていたため、領主から魔境へ向かえと追い出されてしまう。 魔境の入り口に差し掛かった時、全ての魔素が主人公に向けて流れ込み、魔力吸収能力がオーバーフローし覚醒する。 その結果、リヒトは有り余る魔力を使って妄想を形にする力「創造スキル」を手に入れたのだった。 魔素の無くなった魔境は元の大自然に戻り、街に戻れない彼はここでノンビリ生きていく決意をする。 手に入れた力で高さ333メートルもある建物を作りご満悦の彼の元へ、邪神と名乗る白猫にのった小動物や、獣人の少女が訪れ、更には豊富な食糧を嗅ぎつけたゴブリンの大軍が迫って来て……。 いつしかリヒトは魔物たちから魔王と呼ばるようになる。それに伴い、333メートルの建物は魔王城として畏怖されるようになっていく。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

処理中です...