20 / 37
第19話 死に至る病
しおりを挟む
俺はすぐさまエミリアの元へと駆け寄った。そして、ミーシャに状況を確認した。
「何が起きたんだミーシャ!」
「わ、分かりません! ユウトさん達の戦いに2人して魅入っていたら、急にエミリアさんが倒れたんです!」
目に涙を浮かべながらそう叫ぶミーシャ。軽くパニックになっているようだ。正直俺もパニック寸前だ。
しかし、こういう時こそ落ち着かねば、とりあえずエミリアの状態を確認しないと。
俺はしっかりと様子を確認しようと、倒れていたエミリアをそっと抱き起こした。するとすぐにエミリアの体がかなり発熱していることが分かった。顔も紅潮しており、全身汗でびっしょりだった。
「う……、うう……。ユウ……ト……」
かろうじて意識はあるようで、エミリアは呻きつつも俺の名前を呼んでくる。
「エミリア! しっかりしろ! どうしたんだ! どこか痛むのか!?」
「み……、右……腕……」
「右腕? 右腕がどうしたって言うん……!!!」
エミリアの右腕に視線を移した俺は驚愕した。エミリアの右腕全体が赤黒く変色して腫れあがっていたからだ。何だこれは。医学には全く詳しくないが、そんな俺でもこれはヤバいと分かる。一体どうすりゃいいんだ。
俺がうろたえていると、後ろからベイルが声をかけてきた。
「ユウト、ちょっと俺にも見せてくれ」
俺は言われた通りベイルにエミリアの様子を見せる。そうだ。長年冒険者をやっているベイルなら何か分かるかもしれない。そんな期待を俺は胸に抱いていると、エミリアを見たベイルの目が大きく開いた。
「こ、こいつはまさか……! いや、でもそんなはずは……」
「な、何か知ってるのかベイル!?」
ベイルの反応に思わず叫ぶ俺。
「あ、ああ。1つ心当たりがある。だが、説明は後だ。ひとまずギルドの救護室に運ぼう。ユウト、ミーシャ、手を貸してくれ」
「ああ、分かった」
「はっ、はいっ!」
俺達は辺りの人々が心配そうに見つめる中、エミリアを慎重に救護室へと運んだ。
俺達はギルドに戻り、受付のエマに事情を話して今は救護室にいる。
エミリアをベッドで横にならせ、その周りに俺、ミーシャ、ベイル、エマが立っている。
ちなみに徐々に冷静さを取り戻した俺が、医者を呼んだ方がいいんじゃないかと提案したのだが、この世界は医学というものがあまり進歩していないらしく、イシャって何だ?と全員に聞き返される始末であった。なので、今は少しは医学をかじっているらしいエマがエミリアを看病している。
さて、そろそろ本題に入るとするか。
「ベイル、さっきの話の続き何だが……、エミリアの症状に心当たりがあるんだよな?」
「ああ。こいつは間違いなく『ブラマド病』だ」
初めて聞く病名に俺は首を傾げる。ミーシャもエマも俺と同じで聞いた事ないといった様子だった。
「まあ、お前ら若い奴らが知らないのも無理はねえ。この病気は今から30年前に流行った病で今じゃかかる奴はいないからな」
「30年前……。そりゃかなり昔だな。つーか今はかかる奴はいないってのはどういうことだ? 現にエミリアはその病気にかかってるわけだろ?」
「ああ、問題はそこだ。ユウト、最近……というかおそらく昨日か。お前たちは黒いマンドラゴラと遭遇して、エミリアはそいつの体液を浴びたりしたんじゃないか? おそらく右腕に」
「黒いマンドラゴラ……!! そ、そうだ! 確かにエミリアは右腕に体液を浴びてたぞ、それもベイルの言うとおり昨日にだ」
「やっぱりか……。なんてこった」
そう言ってベイルは肩を落とした。そして今まで以上に真剣な顔つきになった。
「お、おいベイル。つまりはその体液が原因でエミリアがこうなったって事なのか?」
「ああ、そうだ。そいつの体液を浴びるとブラマド病に感染する」
「で、でも昨日腕にかかった時には何ともなかったぞ」
「そう。すぐには発症しないのがこの病気の厄介なとこなんだ。なんでも体液を浴びてから半日くらい潜伏期間ってのがあるらしく、その後で発症するらしい。えーとだな。この際だ。少し長くなるが、詳しく説明していくぞ」
一呼吸置いてベイルが説明を開始する。
「まずお前らの遭遇した黒いマンドラゴラだが、ブラックマンドラゴラというそのまんまの名前のモンスターだ。30年前の話になるが、こいつが世界各地に大量発生して、エミリアのように体液を浴びた人たちがみんなブラマド病にかかった。その事態を重く見た世界の国々は各地の冒険者たちにブラックマンドラゴラの討伐を依頼したんだ。そして大規模な討伐隊が編成され、半年がかりで世界中のブラックマンドラゴラを全滅させた。だから現在ではこの病気にかかることはあり得なくなった」
なるほど。今じゃかかる奴はいないってのはそういうことだったのか。
「……ん? 待ってくれ。全滅させたって言ったけど、俺達は昨日ブラックマンドラゴラに遭遇したんだぞ。これはどういう事なんだ?」
「問題はそれだ。ブラックマンドラゴラは30年前に確実に全滅した。ここ30年目撃情報もないしな。だが、お前らは出会ったと言う。これはあり得ないことだ。ユウト、いったいどこで出会ったんだ?」
「そ、それは……だな」
俺はエマの方をちらりと見る。エマは相当なショックを受けた顔をしていた。そりゃそうだろうな。だって遭遇した場所は……。
「ギルドのクエストダンジョンです」
俺が答える前にエマがそう答えた。
「ギルドのダンジョン……だと?」
「はい。昨日開催したB級昇級クエストに使用してたダンジョンの1つに出現したようです。そのダンジョンにユウトさん達が挑んでいて、その最中にエミリアさんが被害にあったようです……。本当に申し訳ありません!! 私の管理が甘かったばっかりに……」
昨日に増して酷く落ち込むエマ。目には涙も浮かんでいる。今回の件は完全に自分の責任だと思っているようだ。その様子を見てか、ベイルが声をかける。
「エマ、お前が気に病む必要はないぜ。ブラックマンドラゴラが突然出現するなんてイレギュラー中のイレギュラーだ。管理のしようがないさ。それにな、知り合いの冒険者たちに聞いた情報なんだが、1ヶ月くらい前から世界中のモンスターの動向がおかしいようなんだ。おそらく今回のもその関係だろう」
世界中でそんな事が起こってるのか。知らなかった。じゃあ、昇級クエストのゴーレムの合体だったり、初クエストの時のヴェノムオークの出現もそれに関係あるって事だろうか。
しかし、1ヶ月かくらい前か。それって俺がこの世界に来た時期くらいじゃないか。なんだか嫌な時期に来てしまったな。
「なあ、ベイル。この病気についてなんだが、エミリアはこのままだとどうなるんだ? このまま安静にしてれば治るのか?」
俺の質問に「うーん」と唸ってからベイルは話し出した。
「この病気は潜伏期間が終わって発症すると、体液を浴びた部分が炎症を引き起こし、40℃近い高熱が出るんだ」
ふむ。今のエミリアの症状そのものだな。
「そんでその高熱に3日間苦しむことになり、そして……」
「そして?」
「死ぬ」
その発言に思わず血の気が引いた。ミーシャもエマも表情が凍りつく。
死ぬ……だと。は、はは……、冗談じゃないぞ。そんなことがあってたまるか。出会ってそんなに長くはないが、エミリアは俺の大切な仲間だぞ。絶対に死なせるもんか。
「し、死ぬって……。べ、ベイル……、何か助ける方法はないのか?」
俺は恐る恐る尋ねる。
「安心しろ。ブラマド病には特効薬がある。30年前に病気が流行したときに冒険者たちで協力して開発したんだ。それを使えばエミリアは助けられる」
それを聞いて俺もミーシャ達も胸をなでおろした。
「よ、よかった……。じゃあさっそく薬を買いに行こう。王都のどっかに売ってるのか?」
「いや、王都では売ってない。というか今現在ではその薬はどこにも売ってないだろう。さっきも言ったようにブラマド病は30年前の病気だから、今じゃ薬なんて必要ないから市販されてないんだ」
「そ、そんな……」
「だが、大丈夫だ。俺が作り方を知ってる。必要な材料もこの王都の店をまわればほぼ手に入る」
「ほぼ?」
「ああ、ほぼだ。残念ながら1つだけここじゃ手に入らないもんがある。ロフィラって言う花の成分が必要なんだが、この花はアグニ山脈の頂上付近にしか咲かない珍しい花でな。それはまず市場には流通していない。だからそれを取りに行かないといけない」
「じゃあすぐ取りに行こう! アグニ山脈ってのはここからどのくらいかかるんだ?」
「普通なら数週間はかかるが、そこは俺に任せろ。王都にいる知り合いが飛竜を飼っててな。そいつに乗せてもらえば半日とかからず着ける」
それは朗報だ。それなら3日以内にエミリアを助けられるだろう。
「うし、じゃあユウトは俺と一緒に来てくれ。アグニ山脈は危険なモンスターが多くて厄介だからな。お前の力を借りたい」
「ああ、まかせてくれ」
「エマはここに残ってエミリアの看病を頼む」
「はい! 誠心誠意看病します。ベイルさん達が戻るまで、絶対にエミリアさんは死なせません!」
「言い返事だ。あとはミーシャ、お前もここに残ってエマの手伝いをしててくれ」
そうベイルが言うと、それまで一言も発さず黙っていたミーシャが口を開いた。
「あの、私も一緒に連れていって下さい」
「お、おいおい。待てミーシャ、今行ったようにアグニ山脈は危険なんだ。冒険者になりたてのお前には荷が重すぎる。今回はここで待っててくれ」
ベイルがそう諭すが、ミーシャは首を横に振った。
「い、嫌です。待っているなんてできません。エミリアさんがこうなったのは私のせいなんです。ブラックマンドラゴラに不用意に近づいて襲われそうになった私を、エミリアさんが庇って体液をくらってしまったんです。だから、私はエミリアさんを絶対に助けなくちゃいけないんです。だから、だから……、一緒に行かせて下さい! お願いします!!」
そう言って深々と頭を下げるミーシャ。その真摯な姿を見たベイルは観念したようで。
「ああ分かった。俺の負けだ。ミーシャも一緒に行くぞ。そのかわり山脈では前衛には絶対に出るなよ。約束だ」
「は、はい! ありがとうごさいます!!」
「うっし、じゃあすぐに出発するぞ、2人とも」
「おう!」
「はい!」
俺達はアグニ山脈へ向かうべくギルドを後にする。
エミリア……。辛いだろうけど待っててくれ。必ず助けてやるからな。
「何が起きたんだミーシャ!」
「わ、分かりません! ユウトさん達の戦いに2人して魅入っていたら、急にエミリアさんが倒れたんです!」
目に涙を浮かべながらそう叫ぶミーシャ。軽くパニックになっているようだ。正直俺もパニック寸前だ。
しかし、こういう時こそ落ち着かねば、とりあえずエミリアの状態を確認しないと。
俺はしっかりと様子を確認しようと、倒れていたエミリアをそっと抱き起こした。するとすぐにエミリアの体がかなり発熱していることが分かった。顔も紅潮しており、全身汗でびっしょりだった。
「う……、うう……。ユウ……ト……」
かろうじて意識はあるようで、エミリアは呻きつつも俺の名前を呼んでくる。
「エミリア! しっかりしろ! どうしたんだ! どこか痛むのか!?」
「み……、右……腕……」
「右腕? 右腕がどうしたって言うん……!!!」
エミリアの右腕に視線を移した俺は驚愕した。エミリアの右腕全体が赤黒く変色して腫れあがっていたからだ。何だこれは。医学には全く詳しくないが、そんな俺でもこれはヤバいと分かる。一体どうすりゃいいんだ。
俺がうろたえていると、後ろからベイルが声をかけてきた。
「ユウト、ちょっと俺にも見せてくれ」
俺は言われた通りベイルにエミリアの様子を見せる。そうだ。長年冒険者をやっているベイルなら何か分かるかもしれない。そんな期待を俺は胸に抱いていると、エミリアを見たベイルの目が大きく開いた。
「こ、こいつはまさか……! いや、でもそんなはずは……」
「な、何か知ってるのかベイル!?」
ベイルの反応に思わず叫ぶ俺。
「あ、ああ。1つ心当たりがある。だが、説明は後だ。ひとまずギルドの救護室に運ぼう。ユウト、ミーシャ、手を貸してくれ」
「ああ、分かった」
「はっ、はいっ!」
俺達は辺りの人々が心配そうに見つめる中、エミリアを慎重に救護室へと運んだ。
俺達はギルドに戻り、受付のエマに事情を話して今は救護室にいる。
エミリアをベッドで横にならせ、その周りに俺、ミーシャ、ベイル、エマが立っている。
ちなみに徐々に冷静さを取り戻した俺が、医者を呼んだ方がいいんじゃないかと提案したのだが、この世界は医学というものがあまり進歩していないらしく、イシャって何だ?と全員に聞き返される始末であった。なので、今は少しは医学をかじっているらしいエマがエミリアを看病している。
さて、そろそろ本題に入るとするか。
「ベイル、さっきの話の続き何だが……、エミリアの症状に心当たりがあるんだよな?」
「ああ。こいつは間違いなく『ブラマド病』だ」
初めて聞く病名に俺は首を傾げる。ミーシャもエマも俺と同じで聞いた事ないといった様子だった。
「まあ、お前ら若い奴らが知らないのも無理はねえ。この病気は今から30年前に流行った病で今じゃかかる奴はいないからな」
「30年前……。そりゃかなり昔だな。つーか今はかかる奴はいないってのはどういうことだ? 現にエミリアはその病気にかかってるわけだろ?」
「ああ、問題はそこだ。ユウト、最近……というかおそらく昨日か。お前たちは黒いマンドラゴラと遭遇して、エミリアはそいつの体液を浴びたりしたんじゃないか? おそらく右腕に」
「黒いマンドラゴラ……!! そ、そうだ! 確かにエミリアは右腕に体液を浴びてたぞ、それもベイルの言うとおり昨日にだ」
「やっぱりか……。なんてこった」
そう言ってベイルは肩を落とした。そして今まで以上に真剣な顔つきになった。
「お、おいベイル。つまりはその体液が原因でエミリアがこうなったって事なのか?」
「ああ、そうだ。そいつの体液を浴びるとブラマド病に感染する」
「で、でも昨日腕にかかった時には何ともなかったぞ」
「そう。すぐには発症しないのがこの病気の厄介なとこなんだ。なんでも体液を浴びてから半日くらい潜伏期間ってのがあるらしく、その後で発症するらしい。えーとだな。この際だ。少し長くなるが、詳しく説明していくぞ」
一呼吸置いてベイルが説明を開始する。
「まずお前らの遭遇した黒いマンドラゴラだが、ブラックマンドラゴラというそのまんまの名前のモンスターだ。30年前の話になるが、こいつが世界各地に大量発生して、エミリアのように体液を浴びた人たちがみんなブラマド病にかかった。その事態を重く見た世界の国々は各地の冒険者たちにブラックマンドラゴラの討伐を依頼したんだ。そして大規模な討伐隊が編成され、半年がかりで世界中のブラックマンドラゴラを全滅させた。だから現在ではこの病気にかかることはあり得なくなった」
なるほど。今じゃかかる奴はいないってのはそういうことだったのか。
「……ん? 待ってくれ。全滅させたって言ったけど、俺達は昨日ブラックマンドラゴラに遭遇したんだぞ。これはどういう事なんだ?」
「問題はそれだ。ブラックマンドラゴラは30年前に確実に全滅した。ここ30年目撃情報もないしな。だが、お前らは出会ったと言う。これはあり得ないことだ。ユウト、いったいどこで出会ったんだ?」
「そ、それは……だな」
俺はエマの方をちらりと見る。エマは相当なショックを受けた顔をしていた。そりゃそうだろうな。だって遭遇した場所は……。
「ギルドのクエストダンジョンです」
俺が答える前にエマがそう答えた。
「ギルドのダンジョン……だと?」
「はい。昨日開催したB級昇級クエストに使用してたダンジョンの1つに出現したようです。そのダンジョンにユウトさん達が挑んでいて、その最中にエミリアさんが被害にあったようです……。本当に申し訳ありません!! 私の管理が甘かったばっかりに……」
昨日に増して酷く落ち込むエマ。目には涙も浮かんでいる。今回の件は完全に自分の責任だと思っているようだ。その様子を見てか、ベイルが声をかける。
「エマ、お前が気に病む必要はないぜ。ブラックマンドラゴラが突然出現するなんてイレギュラー中のイレギュラーだ。管理のしようがないさ。それにな、知り合いの冒険者たちに聞いた情報なんだが、1ヶ月くらい前から世界中のモンスターの動向がおかしいようなんだ。おそらく今回のもその関係だろう」
世界中でそんな事が起こってるのか。知らなかった。じゃあ、昇級クエストのゴーレムの合体だったり、初クエストの時のヴェノムオークの出現もそれに関係あるって事だろうか。
しかし、1ヶ月かくらい前か。それって俺がこの世界に来た時期くらいじゃないか。なんだか嫌な時期に来てしまったな。
「なあ、ベイル。この病気についてなんだが、エミリアはこのままだとどうなるんだ? このまま安静にしてれば治るのか?」
俺の質問に「うーん」と唸ってからベイルは話し出した。
「この病気は潜伏期間が終わって発症すると、体液を浴びた部分が炎症を引き起こし、40℃近い高熱が出るんだ」
ふむ。今のエミリアの症状そのものだな。
「そんでその高熱に3日間苦しむことになり、そして……」
「そして?」
「死ぬ」
その発言に思わず血の気が引いた。ミーシャもエマも表情が凍りつく。
死ぬ……だと。は、はは……、冗談じゃないぞ。そんなことがあってたまるか。出会ってそんなに長くはないが、エミリアは俺の大切な仲間だぞ。絶対に死なせるもんか。
「し、死ぬって……。べ、ベイル……、何か助ける方法はないのか?」
俺は恐る恐る尋ねる。
「安心しろ。ブラマド病には特効薬がある。30年前に病気が流行したときに冒険者たちで協力して開発したんだ。それを使えばエミリアは助けられる」
それを聞いて俺もミーシャ達も胸をなでおろした。
「よ、よかった……。じゃあさっそく薬を買いに行こう。王都のどっかに売ってるのか?」
「いや、王都では売ってない。というか今現在ではその薬はどこにも売ってないだろう。さっきも言ったようにブラマド病は30年前の病気だから、今じゃ薬なんて必要ないから市販されてないんだ」
「そ、そんな……」
「だが、大丈夫だ。俺が作り方を知ってる。必要な材料もこの王都の店をまわればほぼ手に入る」
「ほぼ?」
「ああ、ほぼだ。残念ながら1つだけここじゃ手に入らないもんがある。ロフィラって言う花の成分が必要なんだが、この花はアグニ山脈の頂上付近にしか咲かない珍しい花でな。それはまず市場には流通していない。だからそれを取りに行かないといけない」
「じゃあすぐ取りに行こう! アグニ山脈ってのはここからどのくらいかかるんだ?」
「普通なら数週間はかかるが、そこは俺に任せろ。王都にいる知り合いが飛竜を飼っててな。そいつに乗せてもらえば半日とかからず着ける」
それは朗報だ。それなら3日以内にエミリアを助けられるだろう。
「うし、じゃあユウトは俺と一緒に来てくれ。アグニ山脈は危険なモンスターが多くて厄介だからな。お前の力を借りたい」
「ああ、まかせてくれ」
「エマはここに残ってエミリアの看病を頼む」
「はい! 誠心誠意看病します。ベイルさん達が戻るまで、絶対にエミリアさんは死なせません!」
「言い返事だ。あとはミーシャ、お前もここに残ってエマの手伝いをしててくれ」
そうベイルが言うと、それまで一言も発さず黙っていたミーシャが口を開いた。
「あの、私も一緒に連れていって下さい」
「お、おいおい。待てミーシャ、今行ったようにアグニ山脈は危険なんだ。冒険者になりたてのお前には荷が重すぎる。今回はここで待っててくれ」
ベイルがそう諭すが、ミーシャは首を横に振った。
「い、嫌です。待っているなんてできません。エミリアさんがこうなったのは私のせいなんです。ブラックマンドラゴラに不用意に近づいて襲われそうになった私を、エミリアさんが庇って体液をくらってしまったんです。だから、私はエミリアさんを絶対に助けなくちゃいけないんです。だから、だから……、一緒に行かせて下さい! お願いします!!」
そう言って深々と頭を下げるミーシャ。その真摯な姿を見たベイルは観念したようで。
「ああ分かった。俺の負けだ。ミーシャも一緒に行くぞ。そのかわり山脈では前衛には絶対に出るなよ。約束だ」
「は、はい! ありがとうごさいます!!」
「うっし、じゃあすぐに出発するぞ、2人とも」
「おう!」
「はい!」
俺達はアグニ山脈へ向かうべくギルドを後にする。
エミリア……。辛いだろうけど待っててくれ。必ず助けてやるからな。
0
お気に入りに追加
266
あなたにおすすめの小説
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる