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試練その弐
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朝比奈悠 21歳 職業 運送会社勤務 恋人 なし 家族構成 両親は共に3年前に事故で他界 兄弟 なし。親戚付き合いも殆どしなかった両親だったので、孤独とはまさに自分の事だと思い知らされる。他界した後家に住もうかと悩んだ挙句、1人では掃除や固定資産税等の金銭面の事に疎い自分は無理だと思いアパートを借りることにした。1LDK築10年で家賃は4万円。近所付き合いもしなくて済むので悠にはもってこいだった。
だが1度死を経験した事になるのだろう自分は、どこかもの寂しさを感じ始めていた。もしかするとあの鳥との約束を果たせたら、7月のあの日に死ななくて済むかもしれない。言い換えれば約束を果たせなければ自分は死ぬのだ。1度経験したあの日がやってくる。どうせ死ぬなら残り僅かかもしれないこの時を全力で生き抜いてやろうと思った。こうなれば何が何でもアスカを守ってやる。と言えど素性も全く知らない。知っているのは顔と居酒屋らしき所でアルバイトをしていて、更には彼氏がいそうな事くらいだ。恋愛経験も殆どない悠だが彼女は自分の好みなのは間違いない。
1つめの災難と思われる今日をなんとかやり過ごした後、会社に戻るといつもの如く誰も居なかった。ますます寂しい人間なのだと自分を憐れむ。社用車を駐車場に停め時間もあるし、自分の車でも洗車でもする事にしたのだ。
特に何事にも興味を持たない悠だが、車にだけはお金をつぎ込んでいた。スカイラインのクーペをこの仕事を始めてすぐに中古で購入した。速さを求めて買った訳ではなく、クーペならではのフォルムが好きだったのと自分にはたくさんの人を一挙に乗せる事がないからだった。速さを求めていないのは車を見れば判断できる。ホイールは22インチのクロームメッキ製を履かせている為、タイヤの厚みなどほぼ無いに等しい。ホイールで走っているようなものだ。当初日本車に大径ホイールを履かせている車が珍しく、車カスタム雑誌に取り上げられた事もある。そんな車と触れ合っている時が唯一心が休まる時間だった。
ボディに載った埃をまずはホースから出る水で洗い流し、バケツに張ったシャンプーを泡立てながらボディを撫でていく。日が落ちかけているがまだ気温は高く、早く洗い流さないと乾いて汚れがボディに焼き付いてしまう。洗車に関しては熟知はしている。セーム革を使い水滴の1つも残さぬよう拭きあげる。ドアの内側やトランクの内側といった細かい所まで骨の折れる作業だ。これを行った所で女にモテる訳でもお金が貰える訳ではない事は十分に理解している。ただの自己満足だ。ワックスをかけようかと思ったが、日も暮れかけていたので家に帰る事にする。帰り道のスーパーに寄って480円の弁当とビールを買った。普段は家で飲まないが、今日は仕事を十分にこなした自分へのご褒美も必要だと思ったのだ。
素っ気ない食事を済ませさっさと風呂に入りビールを飲み干した。どっと疲労感が押し寄せてくる。テレビはついていて若い芸人がコントをしているが、内容は全く頭に入ってこない。普段は使う事のない神経を存分に使ったのだ、眠くなっても仕方がないだろう。20時45分寝るには早すぎる、明日は朝から配達もないので10時に出勤すればいいのだ。カーテンの隙間から心地良い風が入ってくる。今日眠るとまた夢を見るのだろうか。あの予告のような。そんな事を思うと目を瞑るのが怖くなってくるが、重い瞼はゆう事をきいてくれずに閉じてしまう。今度の休みは気晴らしにドライブにでも出かけよう。どこか遠い場所に。
少しして湿っぽい雨のようや匂いが鼻腔を掠め目を開ける。つけたままのテレビが異様に室内に響いていた。ソファに肌着一枚で寝転んでいて身震いする。窓の外でザァーと音がしている。カーテンを開け外を見ると大きな雨粒が部屋に入ってくる。舌打ちをし車をせっかく洗ったのにと溜息を漏らす。時計を見ると22時だった。少しだけ寝ていたようだ。この間には夢を見なかった。この後も夢を見ないでくれよと自分に言い聞かせ、どうせならワックスをかければよかったと後悔した。
だが1度死を経験した事になるのだろう自分は、どこかもの寂しさを感じ始めていた。もしかするとあの鳥との約束を果たせたら、7月のあの日に死ななくて済むかもしれない。言い換えれば約束を果たせなければ自分は死ぬのだ。1度経験したあの日がやってくる。どうせ死ぬなら残り僅かかもしれないこの時を全力で生き抜いてやろうと思った。こうなれば何が何でもアスカを守ってやる。と言えど素性も全く知らない。知っているのは顔と居酒屋らしき所でアルバイトをしていて、更には彼氏がいそうな事くらいだ。恋愛経験も殆どない悠だが彼女は自分の好みなのは間違いない。
1つめの災難と思われる今日をなんとかやり過ごした後、会社に戻るといつもの如く誰も居なかった。ますます寂しい人間なのだと自分を憐れむ。社用車を駐車場に停め時間もあるし、自分の車でも洗車でもする事にしたのだ。
特に何事にも興味を持たない悠だが、車にだけはお金をつぎ込んでいた。スカイラインのクーペをこの仕事を始めてすぐに中古で購入した。速さを求めて買った訳ではなく、クーペならではのフォルムが好きだったのと自分にはたくさんの人を一挙に乗せる事がないからだった。速さを求めていないのは車を見れば判断できる。ホイールは22インチのクロームメッキ製を履かせている為、タイヤの厚みなどほぼ無いに等しい。ホイールで走っているようなものだ。当初日本車に大径ホイールを履かせている車が珍しく、車カスタム雑誌に取り上げられた事もある。そんな車と触れ合っている時が唯一心が休まる時間だった。
ボディに載った埃をまずはホースから出る水で洗い流し、バケツに張ったシャンプーを泡立てながらボディを撫でていく。日が落ちかけているがまだ気温は高く、早く洗い流さないと乾いて汚れがボディに焼き付いてしまう。洗車に関しては熟知はしている。セーム革を使い水滴の1つも残さぬよう拭きあげる。ドアの内側やトランクの内側といった細かい所まで骨の折れる作業だ。これを行った所で女にモテる訳でもお金が貰える訳ではない事は十分に理解している。ただの自己満足だ。ワックスをかけようかと思ったが、日も暮れかけていたので家に帰る事にする。帰り道のスーパーに寄って480円の弁当とビールを買った。普段は家で飲まないが、今日は仕事を十分にこなした自分へのご褒美も必要だと思ったのだ。
素っ気ない食事を済ませさっさと風呂に入りビールを飲み干した。どっと疲労感が押し寄せてくる。テレビはついていて若い芸人がコントをしているが、内容は全く頭に入ってこない。普段は使う事のない神経を存分に使ったのだ、眠くなっても仕方がないだろう。20時45分寝るには早すぎる、明日は朝から配達もないので10時に出勤すればいいのだ。カーテンの隙間から心地良い風が入ってくる。今日眠るとまた夢を見るのだろうか。あの予告のような。そんな事を思うと目を瞑るのが怖くなってくるが、重い瞼はゆう事をきいてくれずに閉じてしまう。今度の休みは気晴らしにドライブにでも出かけよう。どこか遠い場所に。
少しして湿っぽい雨のようや匂いが鼻腔を掠め目を開ける。つけたままのテレビが異様に室内に響いていた。ソファに肌着一枚で寝転んでいて身震いする。窓の外でザァーと音がしている。カーテンを開け外を見ると大きな雨粒が部屋に入ってくる。舌打ちをし車をせっかく洗ったのにと溜息を漏らす。時計を見ると22時だった。少しだけ寝ていたようだ。この間には夢を見なかった。この後も夢を見ないでくれよと自分に言い聞かせ、どうせならワックスをかければよかったと後悔した。
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