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第8章
優しさの理由(5/7)
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その後も延々、カナと肉体を交わらせ続けた。
屹立したペニスを豊満な胸の谷間に押し込んでしごいてもらったり、シックスナインの体勢になってお互いの性器を舐め合ったりと、めくるめく性技の応酬に時間が過ぎるのも忘れてどっぷり酔いしれていた。
俺もカナも幾度となく絶頂に達して、精や潮を散らしまくっていた。だけど性欲の昂ぶりは一向に鎮まる気配がなく、本能に突き動かされるまま肉体をぶつけ合い、内からたぎる欲望をぶちまけ続けた。
そして、これ以上なく念入りな前戯を済ませた後、ついにその時がやってきた。
「せんぱいっ、もう、我慢できません!」
乱れた呼吸のままカナが涙目で訴えてきた。俺の衰えしらずの肉棒を握り締め、自分の膣穴にあてがおうと身をねじらせている。
数瞬、葛藤に揺れた――このままセックスしてしまっていいのだろうか?
セックスするということはつまり、この天国のような時間にピリオドを打つということだ。外の世界に戻った時、俺にはカレンが待っている。もうカナとこんなことはできない。それを思うと胸に陰りが差すのだった。
だがこれ以上本能の叫びを黙殺することも困難だった。立花カナとセックスすることは3年前からの本願だ。それが叶うなら死んでもいいとすら思ってきた。まだカナと一緒にいたいという欲を優先してセックスを先送りにしてきたが、さすがに焦らしすぎだという自覚もあった。火起こしに時間をかけすぎて木片が消し炭になってしまっては元も子もない。加えてカナから求められたことも後押しとなってようやく、今だ、と決心がついた。
勇み立つカナを仰向けに横たわらせてから、膣穴に肉棒の照準を定める。
つかの間の静寂。
カナと中空で視線が絡み合う。その最中、様々な記憶と感情が克明に脳裏に蘇ってきた。
3年前、初めて彼女を電車の中で見かけた時の胸のざわめき。
初めて彼女と会話した時の心臓の高鳴り。
顔を合わせるたび、会話を重ねるたび、如実に距離感が縮まっていることを実感して得たこの上ない喜び。
彼女に恋をしているのだと自覚した時の身を焦がすような熱情。
彼女の驚いた顔、怒った顔。時折見せる影のある表情。それから、いつも自分を元気づけてくれた太陽のような笑顔――それが不意に、目の前にある彼女の蕩けきった表情と重なって、また胸がときめく。
睾丸がきりきりと痛い。いくら興奮が鎮まらないといえど、発散できる精に限りはある。気持ちよりも先に肉体のほうが限界を迎えそうだった。
ゆっくりと腰を前に突き出し、膣の中にペニスを挿入する。
ぎっしりと詰まった媚肉を無理やり搔き分けながら突っ込むと、華蜜が外にどっと溢れ出し、結合部をぬらぬらと濡らした。
「ああっ、せんぱいのが! 中に、入ってる……」
そう発するカナの声は感涙に染まっていた。
俺も同様に感動の境地に浸っていた。まさか彼女とこうして合体できる日が来るとは……3年前に決別して以来、夢にも思わなかった。さながら白昼夢をみているかのような心境で、まるで現実を生きている気がしなかった。
「ああ、せんぱい、すきっ、すきっ」
カナが首に手を回してキスをせがんでくる。
俺は上半身を前に倒して彼女の要求に応えた。
上でも下でも繋がった状態になり、一体感がぐんと深まる。
唇を重ねたまま、腰を前後に動かし始めた。絡みつく無数の膣襞が肉棒をきつく締め上げる。性器同士が擦れ合うたび、俺たちは共鳴するように声をかけ合っていた。
「あっ、ああっ、きもちいいっ、きもちいいですっ」
「くっ、俺もだ。カナっ。こんなに気持ちいいのは、はじめてだ」
がむしゃらに腰を振り付けて快楽を貪る。
カナの両手両脚が、もう離さないとばかりにしがみついてくる。
愛おしさが爆発して舌を重ねたままピストン運動を加速させた。
「ああっ、せんぱい……激しいぃぃ」
カナの締め付けが強度を増し、その分快感がレベルアップする。
腰を持ちあげて体重をかけるように真上からペニスを突き刺す。先端が最深部に到達すると彼女の肉体にぶるると震えが走った。
「あああッ、奥っ。だめっ、きもちよすぎる……」
顎をしゃくり上げて、よがり泣きの声を上げるカナ。
ここがいいのかと悟って執拗に奥を突き続けると、さらに彼女は咲き乱れた。
「あああッ、そんなに突かれると、おかしくなっちゃうッ」
抵抗の声も無視してピストンを続けていると、股間に暖もりと湿り気を感じた。みるとまたしても彼女の膣壺から盛大に潮が噴き出ていた。
ちゃんと絶頂に導けているようだという実感が自分の肉棒をさらに硬くみなぎらせた。
「ああっ、せんぱいっ、せんぱいっ――コージくんッ」
気づけば3年前の呼び方に戻っていた。それがまた何色もの感情を呼び起こし、途端に目頭が熱くなるのを感じた。
「うう……カナ」
目の前が見えなくなり、腰の動きを止める。
「……どうしたんですか?」
カナの心配そうな声が聞こえた。
俺は人差し指で目元をごしごしと拭った。
ようやく視界がはっきりしたところで、仰向けに股を開いた状態でぽかんとしているカナを見つめる。
「ごめん。つらい思いさせちまったな」
「えっ?」
カナのおもてに当惑の色が広がった。当然だろう。性交中の相手に突然泣き出されてしまっては反応に困るに決まっている。
俺はひとつ深呼吸して、胸中に溜まっていた澱を吐き出した。
「俺がヨシノからの誘惑を断り切れなかったばかりに、カナを精神的に追い詰めてしまった。カナが人間不信になったのも、行きずりの男に襲われたのも、全ては俺に責任がある」
後悔の涙が止め処なく溢れて、また視界を滲ませる。
自分の不甲斐なさが心の底から情けなくてどうしようもなかった。
「お前を裏切ってから、ずっと自分を責め続けてきた。このまま死ぬまで十字架を背負っていくつもりだった。……でもここでお前と再会できて、欲が湧いた。どうにか贖罪を果たして、この重すぎる十字架を下ろしてしまいたかったんだ。だけど、結局方法はなにも思いつかなかった。今になってわかったよ。そんな虫のいい話はないんだって」
カナの助けになれることはないか?
そう考えて、彼女のルーツを尋ねた。でも、そこに自分の入り込む余地はなかった。3年前、最後まで彼女の心の闇に気づけなかった自分にそのような資格はないのだと気づかされた。彼女が過去の一部を打ち明けてくれないのも、結局は信頼を勝ち獲れていないことの証左にほかならない。
「俺には謝ることしかできない。だけど、もちろん許してくれとは言わない。どうか一生、俺のことは恨み続けてほしい。最愛の人に恨まれ続けること、それこそが一番の罰だと思うから」
そこまで喋り終えると、不意にカナがむくりと上半身を起こした。その勢いのまま肩を押されて、こてんと仰向けになる。
正面をみるとカナが馬乗りになってこちらの顔を見下ろしていた。逆光でおもてに影が差しているせいか、少しだけ憮然とした表情に見えた。
カナは鼻からひとつため息をついて、先輩、と口を開いた。
「貴方はとんだうつけ者です」
咄嗟に俺は息を呑んだ。恨み続けてくれと言いはしたが、やはりカナから非難の言葉を浴びせられると胸に堪えるものがあった。
「先輩がしたことは確かに酷い裏切りだったと思います。当時の私は深く傷つき、現実に打ちのめされて、もう生きていくこともやめてしまいたいという滅多な考えがよぎったりもしました」
呆れの中に少しだけ怒気が混じったような口調になる。
返す言葉が思いつかず、さりとて彼女から目を逸らすのも卑怯な気がして、結局黙ったまま彼女の顔を見つめ返すことしかできなかった。
「でもだからといって、貴方が私の人生を背負う必要はないんです」
カナは続いて、そう言い放った。
神妙な顔つきながら、目元にはどことなく柔らかい光が宿っているように見えた。
「人間不信に陥って高校生活を棒に振ったことも、白木院タクミに処女を奪われたことも、先輩に責任があるなんてことは絶対にありません。それは私自身が背負うべき咎です。償おうという心意気は立派だと思いますが、私自身がそこまでのことを求めていません。悪いことをしたなと反省してくれれば、それでいいんです」
――違う。俺が君を裏切っていなかったら、そこまでの非業な命運を辿ることにはならなかったんだ。
そう言い返しそうとしたが、できなかった。口を開きかけたところで、カナが手を伸ばして無理やり口元を塞いできたからだ。もう少し黙って話を聞けということらしい。
カナは続けた。
「先輩には言ってませんでしたが、私、ヨシノと再会して、また友達になったんです。もちろん再会する前は彼女に対して複雑な思いを抱いていました。だけど会って話をした時に、私から先輩を奪ったことをとても後悔していると伝えられて、それだけで彼女のことを憎しみ続けるのが馬鹿らしくなりました。ほら、私が抱えていた怨恨の熱量なんて、そんなものです」
衝撃の事実だった。また友達になったのだと簡単に言うが、想い人を横からすくめ取った相手を許すというのは並の人間にできることではない。そもそもどういう経緯で、また何が目的でヨシノとの関係を修復することにしたのか興味はあるが、察するにそれは『明かされなかった過去』の話だ。今は訊いたってどうせ何も教えてくれやしないだろう。
「もうひとつ付け加えておくと、たぶん先輩とあのまま恋仲になれていても、長くは続かなかったと思います。なぜなら私の中にあった根本的な問題が解決されないままだったから。結果的に先輩と距離を置くことになったのは正解だったと思ってます。私は過去の自分の行動に1ミリも後悔していません。だから先輩だってもう、苦しまなくていいんです。私のことを忘れたら承知しませんけど、でも、私にしたことは綺麗さっぱり忘れてください」
カナは微笑を浮かべてそう締め括った。
話を聞いているうちに、すっかり体の力が抜けていた。
――俺はもう、苦しまなくていいのか……。
長年自分の心を締めつけていた鎖がボロボロと崩壊していく。
気づいた時にはまた視界がぼやけていた。だけど胸に広がる感情は先ほどとは趣を異にしていた。その正体は安堵にほかならなかった。
カナの上半身がしなだれかかるように覆い被さってくる。顔が胸に埋まり、後頭部に手を回されて優しく撫でられた。俺はその胸の中で静かに涙を流した。
やがて感情の波が収まったところで、彼女は再び上体を起こした。そして馬乗りになったまま、腰を前後に動かし始めた。その瞬間、股間に電流が走った。
カナが艶めかしい喘ぎ声を漏らす。見上げるとぶるんぶるんと白い乳房が揺蕩っていて壮観だった。
俺は両手を伸ばして、思い思いに乳房を弄んだ。
カナが快楽に表情を歪める。目の下をピンク色に染め上げて発情の気配を漂わせていた。
「せんぱい、私の中に出して」
腰を上下に弾ませながら、カナは言った。
そのひと言がトリガーとなって、再び興奮の高波に呑み込まれた。
カナのくびれた腰を掴んで、腰を持ち上げる。そのまま最深部を連続して突きまくった。
「あっ、あっ、せんぱい、いいっ。奥、きもちいいっ」
カナの身体が後ろに仰け反る。機を見て、俺は上体を起こした。
そうしてまたカナの身体が仰向けになり、形勢が逆転する。
なりふり構わず腰を振り付け、射精欲を高める。
カナ、カナ、カナ――
絶頂に上り詰める彼女の顔を見つめながら、止めようのない愛情に身を焦がしていた。
ーーこのままカナの中で果ててしまえば、もう彼女と一緒にいられなくなる……。
またしても葛藤が自分の中に生じていた。
同時にカレンの顔が浮かんだ。彼女とはすでに喧嘩別れしている。外の世界に戻ったら真っ先に頭を下げて復縁を迫ろうと思っていたが、もちろん彼女がそれに応じてくれるとは限らない。過去の男に用はないとばかりに門前払いを食らう可能性だってある。
ならばもうカレンのことはすっぱり諦めて、カナと一緒にいる道を選べばいいのではないか?
そんな邪な考えが脳裏をよぎった。そんな自分を最低だと思う一方で、カナの喘ぎ声を耳にするたび、肉棒を名器にたたき込むたび、想像が現実味を帯びていった。
間もなく射精を迎える気配があった。さすがに肉体の疲労感も限界に近く、あと1発放てば途轍もない脱力感に襲われて尽き果てるだろうという予感も感じていた。
終わりたくない……一生彼女とこうやって繋がっていたい!
本能がそう叫び立てていた。
そのたびにカレンの顔が浮かばれて、俺を葛藤の境地に誘うのだった。
「コージくん、コージくんっ」
不意に雷に打たれたような心地に駆られた。
3年前の情景が目に浮かんだ。記憶の中にあるカナの太陽のような笑顔が俺の迷いに決定打を与えた。
射精欲を堪えて、彼女の目を見つめた。
「カナっ、好きだ!」
叫ぶようにして伝えると、カナの表情に驚きの色が灯った。
勢いを殺さないまま、俺は続けた。
「これからもカナとずっと一緒にいたい。だから、お願いだ! 俺の恋人になってくれ」
ああ、ついに。禁断の告白をしてしまった。もう後戻りはできない。
つかの間、カナの表情は驚きに取り憑かれたまま硬直していたがーーやがて蕾が花開くように桜色の情念が滲み始めた。それは俺の目にはセックスがもたらす愉悦とは全く異なる感情のように見えた。
その後も延々、カナと肉体を交わらせ続けた。
屹立したペニスを豊満な胸の谷間に押し込んでしごいてもらったり、シックスナインの体勢になってお互いの性器を舐め合ったりと、めくるめく性技の応酬に時間が過ぎるのも忘れてどっぷり酔いしれていた。
俺もカナも幾度となく絶頂に達して、精や潮を散らしまくっていた。だけど性欲の昂ぶりは一向に鎮まる気配がなく、本能に突き動かされるまま肉体をぶつけ合い、内からたぎる欲望をぶちまけ続けた。
そして、これ以上なく念入りな前戯を済ませた後、ついにその時がやってきた。
「せんぱいっ、もう、我慢できません!」
乱れた呼吸のままカナが涙目で訴えてきた。俺の衰えしらずの肉棒を握り締め、自分の膣穴にあてがおうと身をねじらせている。
数瞬、葛藤に揺れた――このままセックスしてしまっていいのだろうか?
セックスするということはつまり、この天国のような時間にピリオドを打つということだ。外の世界に戻った時、俺にはカレンが待っている。もうカナとこんなことはできない。それを思うと胸に陰りが差すのだった。
だがこれ以上本能の叫びを黙殺することも困難だった。立花カナとセックスすることは3年前からの本願だ。それが叶うなら死んでもいいとすら思ってきた。まだカナと一緒にいたいという欲を優先してセックスを先送りにしてきたが、さすがに焦らしすぎだという自覚もあった。火起こしに時間をかけすぎて木片が消し炭になってしまっては元も子もない。加えてカナから求められたことも後押しとなってようやく、今だ、と決心がついた。
勇み立つカナを仰向けに横たわらせてから、膣穴に肉棒の照準を定める。
つかの間の静寂。
カナと中空で視線が絡み合う。その最中、様々な記憶と感情が克明に脳裏に蘇ってきた。
3年前、初めて彼女を電車の中で見かけた時の胸のざわめき。
初めて彼女と会話した時の心臓の高鳴り。
顔を合わせるたび、会話を重ねるたび、如実に距離感が縮まっていることを実感して得たこの上ない喜び。
彼女に恋をしているのだと自覚した時の身を焦がすような熱情。
彼女の驚いた顔、怒った顔。時折見せる影のある表情。それから、いつも自分を元気づけてくれた太陽のような笑顔――それが不意に、目の前にある彼女の蕩けきった表情と重なって、また胸がときめく。
睾丸がきりきりと痛い。いくら興奮が鎮まらないといえど、発散できる精に限りはある。気持ちよりも先に肉体のほうが限界を迎えそうだった。
ゆっくりと腰を前に突き出し、膣の中にペニスを挿入する。
ぎっしりと詰まった媚肉を無理やり搔き分けながら突っ込むと、華蜜が外にどっと溢れ出し、結合部をぬらぬらと濡らした。
「ああっ、せんぱいのが! 中に、入ってる……」
そう発するカナの声は感涙に染まっていた。
俺も同様に感動の境地に浸っていた。まさか彼女とこうして合体できる日が来るとは……3年前に決別して以来、夢にも思わなかった。さながら白昼夢をみているかのような心境で、まるで現実を生きている気がしなかった。
「ああ、せんぱい、すきっ、すきっ」
カナが首に手を回してキスをせがんでくる。
俺は上半身を前に倒して彼女の要求に応えた。
上でも下でも繋がった状態になり、一体感がぐんと深まる。
唇を重ねたまま、腰を前後に動かし始めた。絡みつく無数の膣襞が肉棒をきつく締め上げる。性器同士が擦れ合うたび、俺たちは共鳴するように声をかけ合っていた。
「あっ、ああっ、きもちいいっ、きもちいいですっ」
「くっ、俺もだ。カナっ。こんなに気持ちいいのは、はじめてだ」
がむしゃらに腰を振り付けて快楽を貪る。
カナの両手両脚が、もう離さないとばかりにしがみついてくる。
愛おしさが爆発して舌を重ねたままピストン運動を加速させた。
「ああっ、せんぱい……激しいぃぃ」
カナの締め付けが強度を増し、その分快感がレベルアップする。
腰を持ちあげて体重をかけるように真上からペニスを突き刺す。先端が最深部に到達すると彼女の肉体にぶるると震えが走った。
「あああッ、奥っ。だめっ、きもちよすぎる……」
顎をしゃくり上げて、よがり泣きの声を上げるカナ。
ここがいいのかと悟って執拗に奥を突き続けると、さらに彼女は咲き乱れた。
「あああッ、そんなに突かれると、おかしくなっちゃうッ」
抵抗の声も無視してピストンを続けていると、股間に暖もりと湿り気を感じた。みるとまたしても彼女の膣壺から盛大に潮が噴き出ていた。
ちゃんと絶頂に導けているようだという実感が自分の肉棒をさらに硬くみなぎらせた。
「ああっ、せんぱいっ、せんぱいっ――コージくんッ」
気づけば3年前の呼び方に戻っていた。それがまた何色もの感情を呼び起こし、途端に目頭が熱くなるのを感じた。
「うう……カナ」
目の前が見えなくなり、腰の動きを止める。
「……どうしたんですか?」
カナの心配そうな声が聞こえた。
俺は人差し指で目元をごしごしと拭った。
ようやく視界がはっきりしたところで、仰向けに股を開いた状態でぽかんとしているカナを見つめる。
「ごめん。つらい思いさせちまったな」
「えっ?」
カナのおもてに当惑の色が広がった。当然だろう。性交中の相手に突然泣き出されてしまっては反応に困るに決まっている。
俺はひとつ深呼吸して、胸中に溜まっていた澱を吐き出した。
「俺がヨシノからの誘惑を断り切れなかったばかりに、カナを精神的に追い詰めてしまった。カナが人間不信になったのも、行きずりの男に襲われたのも、全ては俺に責任がある」
後悔の涙が止め処なく溢れて、また視界を滲ませる。
自分の不甲斐なさが心の底から情けなくてどうしようもなかった。
「お前を裏切ってから、ずっと自分を責め続けてきた。このまま死ぬまで十字架を背負っていくつもりだった。……でもここでお前と再会できて、欲が湧いた。どうにか贖罪を果たして、この重すぎる十字架を下ろしてしまいたかったんだ。だけど、結局方法はなにも思いつかなかった。今になってわかったよ。そんな虫のいい話はないんだって」
カナの助けになれることはないか?
そう考えて、彼女のルーツを尋ねた。でも、そこに自分の入り込む余地はなかった。3年前、最後まで彼女の心の闇に気づけなかった自分にそのような資格はないのだと気づかされた。彼女が過去の一部を打ち明けてくれないのも、結局は信頼を勝ち獲れていないことの証左にほかならない。
「俺には謝ることしかできない。だけど、もちろん許してくれとは言わない。どうか一生、俺のことは恨み続けてほしい。最愛の人に恨まれ続けること、それこそが一番の罰だと思うから」
そこまで喋り終えると、不意にカナがむくりと上半身を起こした。その勢いのまま肩を押されて、こてんと仰向けになる。
正面をみるとカナが馬乗りになってこちらの顔を見下ろしていた。逆光でおもてに影が差しているせいか、少しだけ憮然とした表情に見えた。
カナは鼻からひとつため息をついて、先輩、と口を開いた。
「貴方はとんだうつけ者です」
咄嗟に俺は息を呑んだ。恨み続けてくれと言いはしたが、やはりカナから非難の言葉を浴びせられると胸に堪えるものがあった。
「先輩がしたことは確かに酷い裏切りだったと思います。当時の私は深く傷つき、現実に打ちのめされて、もう生きていくこともやめてしまいたいという滅多な考えがよぎったりもしました」
呆れの中に少しだけ怒気が混じったような口調になる。
返す言葉が思いつかず、さりとて彼女から目を逸らすのも卑怯な気がして、結局黙ったまま彼女の顔を見つめ返すことしかできなかった。
「でもだからといって、貴方が私の人生を背負う必要はないんです」
カナは続いて、そう言い放った。
神妙な顔つきながら、目元にはどことなく柔らかい光が宿っているように見えた。
「人間不信に陥って高校生活を棒に振ったことも、白木院タクミに処女を奪われたことも、先輩に責任があるなんてことは絶対にありません。それは私自身が背負うべき咎です。償おうという心意気は立派だと思いますが、私自身がそこまでのことを求めていません。悪いことをしたなと反省してくれれば、それでいいんです」
――違う。俺が君を裏切っていなかったら、そこまでの非業な命運を辿ることにはならなかったんだ。
そう言い返しそうとしたが、できなかった。口を開きかけたところで、カナが手を伸ばして無理やり口元を塞いできたからだ。もう少し黙って話を聞けということらしい。
カナは続けた。
「先輩には言ってませんでしたが、私、ヨシノと再会して、また友達になったんです。もちろん再会する前は彼女に対して複雑な思いを抱いていました。だけど会って話をした時に、私から先輩を奪ったことをとても後悔していると伝えられて、それだけで彼女のことを憎しみ続けるのが馬鹿らしくなりました。ほら、私が抱えていた怨恨の熱量なんて、そんなものです」
衝撃の事実だった。また友達になったのだと簡単に言うが、想い人を横からすくめ取った相手を許すというのは並の人間にできることではない。そもそもどういう経緯で、また何が目的でヨシノとの関係を修復することにしたのか興味はあるが、察するにそれは『明かされなかった過去』の話だ。今は訊いたってどうせ何も教えてくれやしないだろう。
「もうひとつ付け加えておくと、たぶん先輩とあのまま恋仲になれていても、長くは続かなかったと思います。なぜなら私の中にあった根本的な問題が解決されないままだったから。結果的に先輩と距離を置くことになったのは正解だったと思ってます。私は過去の自分の行動に1ミリも後悔していません。だから先輩だってもう、苦しまなくていいんです。私のことを忘れたら承知しませんけど、でも、私にしたことは綺麗さっぱり忘れてください」
カナは微笑を浮かべてそう締め括った。
話を聞いているうちに、すっかり体の力が抜けていた。
――俺はもう、苦しまなくていいのか……。
長年自分の心を締めつけていた鎖がボロボロと崩壊していく。
気づいた時にはまた視界がぼやけていた。だけど胸に広がる感情は先ほどとは趣を異にしていた。その正体は安堵にほかならなかった。
カナの上半身がしなだれかかるように覆い被さってくる。顔が胸に埋まり、後頭部に手を回されて優しく撫でられた。俺はその胸の中で静かに涙を流した。
やがて感情の波が収まったところで、彼女は再び上体を起こした。そして馬乗りになったまま、腰を前後に動かし始めた。その瞬間、股間に電流が走った。
カナが艶めかしい喘ぎ声を漏らす。見上げるとぶるんぶるんと白い乳房が揺蕩っていて壮観だった。
俺は両手を伸ばして、思い思いに乳房を弄んだ。
カナが快楽に表情を歪める。目の下をピンク色に染め上げて発情の気配を漂わせていた。
「せんぱい、私の中に出して」
腰を上下に弾ませながら、カナは言った。
そのひと言がトリガーとなって、再び興奮の高波に呑み込まれた。
カナのくびれた腰を掴んで、腰を持ち上げる。そのまま最深部を連続して突きまくった。
「あっ、あっ、せんぱい、いいっ。奥、きもちいいっ」
カナの身体が後ろに仰け反る。機を見て、俺は上体を起こした。
そうしてまたカナの身体が仰向けになり、形勢が逆転する。
なりふり構わず腰を振り付け、射精欲を高める。
カナ、カナ、カナ――
絶頂に上り詰める彼女の顔を見つめながら、止めようのない愛情に身を焦がしていた。
ーーこのままカナの中で果ててしまえば、もう彼女と一緒にいられなくなる……。
またしても葛藤が自分の中に生じていた。
同時にカレンの顔が浮かんだ。彼女とはすでに喧嘩別れしている。外の世界に戻ったら真っ先に頭を下げて復縁を迫ろうと思っていたが、もちろん彼女がそれに応じてくれるとは限らない。過去の男に用はないとばかりに門前払いを食らう可能性だってある。
ならばもうカレンのことはすっぱり諦めて、カナと一緒にいる道を選べばいいのではないか?
そんな邪な考えが脳裏をよぎった。そんな自分を最低だと思う一方で、カナの喘ぎ声を耳にするたび、肉棒を名器にたたき込むたび、想像が現実味を帯びていった。
間もなく射精を迎える気配があった。さすがに肉体の疲労感も限界に近く、あと1発放てば途轍もない脱力感に襲われて尽き果てるだろうという予感も感じていた。
終わりたくない……一生彼女とこうやって繋がっていたい!
本能がそう叫び立てていた。
そのたびにカレンの顔が浮かばれて、俺を葛藤の境地に誘うのだった。
「コージくん、コージくんっ」
不意に雷に打たれたような心地に駆られた。
3年前の情景が目に浮かんだ。記憶の中にあるカナの太陽のような笑顔が俺の迷いに決定打を与えた。
射精欲を堪えて、彼女の目を見つめた。
「カナっ、好きだ!」
叫ぶようにして伝えると、カナの表情に驚きの色が灯った。
勢いを殺さないまま、俺は続けた。
「これからもカナとずっと一緒にいたい。だから、お願いだ! 俺の恋人になってくれ」
ああ、ついに。禁断の告白をしてしまった。もう後戻りはできない。
つかの間、カナの表情は驚きに取り憑かれたまま硬直していたがーーやがて蕾が花開くように桜色の情念が滲み始めた。それは俺の目にはセックスがもたらす愉悦とは全く異なる感情のように見えた。
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