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エピローグ
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「そろそろ行くか」
頬の涙を手のひらで拭うと、政宗は立ち上がり、パンツに付いた砂を両手で払った。
「そうだね」
美乃里と楓も続いて立ち上がり、スカートの砂を払った。
「飲む店決まってねぇんならさ、俺がバイトしてた居酒屋行かね?」
両腕を上げて軽く背伸びしながら、政宗が二人に問いかける。
「いいね。久しぶりだし」
店長さん元気かな? と楓が顔を綻ばせた。
「実はさ、あの店に、霞政宗と清流貞宗、置かせてもらってんだ」
「ほんとに?」
楓が目を丸くする。
「ちゃんと営業もやってんだ」
感心したように、美乃里が政宗をまじまじと見つめた。
まあな、と政宗はニヤリと笑って親指を立てた。
「じゃあさ、あたし二人を駅に送ったら、一旦家に帰って車置いて来るよ」
車の鍵を目の高さにブラつかせ、楓が二人に確認をとる。
「一緒に行こうよ。私らも付き合うから」
「どういうこと?」
美乃里の言葉に、楓が不思議そうに首を傾げた。
「だから、私たちも一緒に楓の家に寄ってから出掛けようってこと」
「はぁ?」
「だって、自宅がお寺とかって、興味あるし」
いいよね? と美乃里は、政宗に同意を求めた。
「俺は別に構わねぇよ」
二つ返事で、政宗が承諾した。
「本気で言ってる?」
呆れた顔をしながらも、楓の声には喜びが滲む。
はぁっと息を一つ吐いたあと、「それじゃ、お二人を我が家にご案内いたしましょう」楓が弾けるように笑った。
やったぁ! と美乃里が万歳をして大袈裟に喜んだ。
「なんならうちで二次会しちゃう? 積もる話も沢山あるし」
「えっ? いいの? だったら私、そのまま泊まりたい。どうせ明日、日曜だし」
楓の提案に、美乃里が瞳を輝かせる。
「いいけど……。お母さん大丈夫? 一人で寂しがったりしない?」
美乃里の両親は、美乃里が就職すると同時に離婚した。今は、あの家に母子二人で暮らしている。
「大丈夫。お母さん、離婚した途端元気になっちゃって、急にフラダンスやら陶芸教室やら行き始めて、そこで知り合った仲間と出掛けたり飲みに行ったりして毎日忙しいの」
「へ、へぇ。そうなんだぁ」
引きつった笑顔で、楓が相槌を打つ。
「だからね、私が一晩いないくらいで寂しがったりしないの」
「はは……。コメントしづれぇ……」
困ったように顔を歪め、政宗は明後日の方を向いて頭を掻いた。
「よし! じゃあ二次会はうちでってことで!」
決定! と楓は右手を上げた。キーホルダーが夕日を反射し、光の粒をばら撒いた。
頬の涙を手のひらで拭うと、政宗は立ち上がり、パンツに付いた砂を両手で払った。
「そうだね」
美乃里と楓も続いて立ち上がり、スカートの砂を払った。
「飲む店決まってねぇんならさ、俺がバイトしてた居酒屋行かね?」
両腕を上げて軽く背伸びしながら、政宗が二人に問いかける。
「いいね。久しぶりだし」
店長さん元気かな? と楓が顔を綻ばせた。
「実はさ、あの店に、霞政宗と清流貞宗、置かせてもらってんだ」
「ほんとに?」
楓が目を丸くする。
「ちゃんと営業もやってんだ」
感心したように、美乃里が政宗をまじまじと見つめた。
まあな、と政宗はニヤリと笑って親指を立てた。
「じゃあさ、あたし二人を駅に送ったら、一旦家に帰って車置いて来るよ」
車の鍵を目の高さにブラつかせ、楓が二人に確認をとる。
「一緒に行こうよ。私らも付き合うから」
「どういうこと?」
美乃里の言葉に、楓が不思議そうに首を傾げた。
「だから、私たちも一緒に楓の家に寄ってから出掛けようってこと」
「はぁ?」
「だって、自宅がお寺とかって、興味あるし」
いいよね? と美乃里は、政宗に同意を求めた。
「俺は別に構わねぇよ」
二つ返事で、政宗が承諾した。
「本気で言ってる?」
呆れた顔をしながらも、楓の声には喜びが滲む。
はぁっと息を一つ吐いたあと、「それじゃ、お二人を我が家にご案内いたしましょう」楓が弾けるように笑った。
やったぁ! と美乃里が万歳をして大袈裟に喜んだ。
「なんならうちで二次会しちゃう? 積もる話も沢山あるし」
「えっ? いいの? だったら私、そのまま泊まりたい。どうせ明日、日曜だし」
楓の提案に、美乃里が瞳を輝かせる。
「いいけど……。お母さん大丈夫? 一人で寂しがったりしない?」
美乃里の両親は、美乃里が就職すると同時に離婚した。今は、あの家に母子二人で暮らしている。
「大丈夫。お母さん、離婚した途端元気になっちゃって、急にフラダンスやら陶芸教室やら行き始めて、そこで知り合った仲間と出掛けたり飲みに行ったりして毎日忙しいの」
「へ、へぇ。そうなんだぁ」
引きつった笑顔で、楓が相槌を打つ。
「だからね、私が一晩いないくらいで寂しがったりしないの」
「はは……。コメントしづれぇ……」
困ったように顔を歪め、政宗は明後日の方を向いて頭を掻いた。
「よし! じゃあ二次会はうちでってことで!」
決定! と楓は右手を上げた。キーホルダーが夕日を反射し、光の粒をばら撒いた。
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