94 / 100
旅立ち
3
しおりを挟む「じゃ、そろそろ行かねぇと」
政宗がブランコから立ち上がる。
アパートの前に、引越しトラックを待たせているという。
これから政宗は、荷物と共に新潟へと旅立つ。
業者の好意で、仲間との別れを惜しむ時間を設けてもらっていたのだ。
それぞれ泣き腫らした目を押さえながら公園の入り口まで歩を進めると、三人は示し合わせたかのように足を止めた。
「二人とも頑張れよ。お前らなら、きっといい保育士になれる」
「そうかなぁ」
政宗の言葉に、美乃里が不安そうな声を上げる。
「私みたいな人間が、保育士になってもいいのかな? だって私は、赤ちゃんを……」
下腹部に手を当て、美乃里が唇を噛む。
「今更なに言ってんだよ」
呆れた顔で、政宗が笑う。
「自分で選んだ道だろ?」
「そうだけど……。なんか急に怖くなったの。私なんかが、他人の子どもを見る資格なんてあるんだろうかって……」
美乃里の目に涙が滲む。
ふうっとゆっくり息を吐くと、政宗は美乃里を包み込むような穏やかな目で見つめた。
「その気持ちがあれば、大丈夫なんじゃね?」
「どういうこと?」
訝しげに、美乃里が政宗の顔を覗き込んだ。
「だからさ、おんなじように、他人の子も真剣に見てやれってこと」
「え?」
「お前が産みたかったその子とおんなじくらい、他人の子を愛してやればいんじゃね?」
「おんなじ……くらい……?」
「できんだろ? 美乃里なら」
ハッと目を見開き、政宗の顔をじっと見つめる美乃里の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
「そっか。そうだよね……」
手の甲で涙を拭う美乃里の顔に木漏れ日が射し、白い素肌を輝かせた。
「うん。頑張ってやってみる。ありがとう。政宗」
吹っ切れたように、美乃里が笑った。
「たまにはいいこと言うじゃん。政宗」
楓が茶化す。
「俺は、いいことしか言わねぇの」
政宗が、楓を肘で軽く小突いた。
三人顔を見合わせ笑い合う。
木の枝から小鳥が一斉に飛び立ち、まだ硬い桜の蕾をいくつも揺らした。
「また会おうよ」
美乃里が二人の顔を交互に見る。
「そうだな。じゃあ、一年後にこの場所ってのはどうだ?」
政宗が二人に問う。
「いいよ。集まろ?」
四人で、と楓は、キーホルダーをポシェットごと持ち上げた。
クリスタルの身体が、陽の光を受けてキラリと光った。
澄んだ琥珀色の瞳が鮮やかに煌めき、三人の顔を明るく照らした……。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
思い出を売った女
志波 連
ライト文芸
結婚して三年、あれほど愛していると言っていた夫の浮気を知った裕子。
それでもいつかは戻って来ることを信じて耐えることを決意するも、浮気相手からの執拗な嫌がらせに心が折れてしまい、離婚届を置いて姿を消した。
浮気を後悔した孝志は裕子を探すが、痕跡さえ見つけられない。
浮気相手が妊娠し、子供のために再婚したが上手くいくはずもなかった。
全てに疲弊した孝志は故郷に戻る。
ある日、子供を連れて出掛けた海辺の公園でかつての妻に再会する。
あの頃のように明るい笑顔を浮かべる裕子に、孝志は二度目の一目惚れをした。
R15は保険です
他サイトでも公開しています
表紙は写真ACより引用しました
姉らぶるっ!!
藍染惣右介兵衛
青春
俺には二人の容姿端麗な姉がいる。
自慢そうに聞こえただろうか?
それは少しばかり誤解だ。
この二人の姉、どちらも重大な欠陥があるのだ……
次女の青山花穂は高校二年で生徒会長。
外見上はすべて完璧に見える花穂姉ちゃん……
「花穂姉ちゃん! 下着でウロウロするのやめろよなっ!」
「んじゃ、裸ならいいってことねっ!」
▼物語概要
【恋愛感情欠落、解離性健忘というトラウマを抱えながら、姉やヒロインに囲まれて成長していく話です】
47万字以上の大長編になります。(2020年11月現在)
【※不健全ラブコメの注意事項】
この作品は通常のラブコメより下品下劣この上なく、ドン引き、ドシモ、変態、マニアック、陰謀と陰毛渦巻くご都合主義のオンパレードです。
それをウリにして、ギャグなどをミックスした作品です。一話(1部分)1800~3000字と短く、四コマ漫画感覚で手軽に読めます。
全編47万字前後となります。読みごたえも初期より増し、ガッツリ読みたい方にもお勧めです。
また、執筆・原作・草案者が男性と女性両方なので、主人公が男にもかかわらず、男性目線からややずれている部分があります。
【元々、小説家になろうで連載していたものを大幅改訂して連載します】
【なろう版から一部、ストーリー展開と主要キャラの名前が変更になりました】
【2017年4月、本幕が完結しました】
序幕・本幕であらかたの謎が解け、メインヒロインが確定します。
【2018年1月、真幕を開始しました】
ここから読み始めると盛大なネタバレになります(汗)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる