きんだーがーでん

紫水晶羅

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旅立ち

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「じゃ、そろそろ行かねぇと」
 政宗がブランコから立ち上がる。
 アパートの前に、引越しトラックを待たせているという。
 これから政宗は、荷物と共に新潟へと旅立つ。
 業者の好意で、仲間との別れを惜しむ時間を設けてもらっていたのだ。
 それぞれ泣き腫らした目を押さえながら公園の入り口まで歩を進めると、三人は示し合わせたかのように足を止めた。

「二人とも頑張れよ。お前らなら、きっといい保育士になれる」
「そうかなぁ」
 政宗の言葉に、美乃里が不安そうな声を上げる。
「私みたいな人間が、保育士になってもいいのかな? だって私は、赤ちゃんを……」
 下腹部に手を当て、美乃里が唇を噛む。
「今更なに言ってんだよ」
 呆れた顔で、政宗が笑う。
「自分で選んだ道だろ?」
「そうだけど……。なんか急に怖くなったの。私なんかが、他人の子どもを見る資格なんてあるんだろうかって……」
 美乃里の目に涙が滲む。
 ふうっとゆっくり息を吐くと、政宗は美乃里を包み込むような穏やかな目で見つめた。
「その気持ちがあれば、大丈夫なんじゃね?」
「どういうこと?」
 訝しげに、美乃里が政宗の顔を覗き込んだ。

「だからさ、おんなじように、他人ひとの子も真剣に見てやれってこと」
「え?」
「お前が産みたかったその子とおんなじくらい、他人ひとの子を愛してやればいんじゃね?」
「おんなじ……くらい……?」
「できんだろ? 美乃里なら」
 ハッと目を見開き、政宗の顔をじっと見つめる美乃里の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
「そっか。そうだよね……」
 手の甲で涙を拭う美乃里の顔に木漏れ日が射し、白い素肌を輝かせた。
「うん。頑張ってやってみる。ありがとう。政宗」
 吹っ切れたように、美乃里が笑った。

「たまにはいいこと言うじゃん。政宗」
 楓が茶化す。
「俺は、いいことしか言わねぇの」
 政宗が、楓を肘で軽く小突いた。
 三人顔を見合わせ笑い合う。
 木の枝から小鳥が一斉に飛び立ち、まだ硬い桜の蕾をいくつも揺らした。

「また会おうよ」
 美乃里が二人の顔を交互に見る。
「そうだな。じゃあ、一年後にこの場所ってのはどうだ?」
 政宗が二人に問う。
「いいよ。集まろ?」
 四人で、と楓は、キーホルダーをポシェットごと持ち上げた。
 クリスタルの身体が、陽の光を受けてキラリと光った。
 澄んだ琥珀色の瞳が鮮やかに煌めき、三人の顔を明るく照らした……。



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