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幸せなクリスマス
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店の中は、目の眩むような光に包まれていた。
「うわぁ……」
楓は思わず溜息を漏らした。
ガラス張りのショーケースがいくつも並ぶ店内は、ありとあらゆるガラス製品で埋め尽くされていた。
天井からぶら下がるシャンデリアにまで、クリスタルガラスが施されている。
指輪、ネックレス、時計、食器……。それら全てが、ショーケースの中でライトに照らされ、眩い光を放っていた。
「あった」
声を弾ませ、聖が楓の手をツンと引っ張る。
聖が指先で突いているショーケースの中に、先ほど店先で見た猫の置物があった。
「あ、ほんとだ。……って、待って。い、一万四千円!?」
「結構高いね」
「た、高いなんてもんじゃないよ! こんなの流石にもらえないよ!」
顔の前であたふたと手を振る楓に、別にいいのに、と聖が笑う。
「いや、もうちょっと小さい物にしよう。そうだ! 普段持ち歩ける物がいい」
「持ち歩ける物?」
「そう。例えば……」
ぐるりと店内を見回す。その目がレジ脇の一角を捉えた。
「あ! あれ! あれにしよう!」
ポンポンと聖の腕を叩き、楓は足早に聖を引っ張って行った。
「あはっ。可愛い」
それは、クリスタルガラスで作られた小さなキーホルダーだった。
動物や果物の形をしているキーホルダーが、アクセサリースタンドにいくつもぶら下げられている。
「そちら、結構人気あるんですよ。お値段も手頃ですし」
店員が笑顔でプレートを指し示す。値段表示は、二千八百円となっていた。
「あ、これ、あの猫ちゃん」
「ほんとだ」
一つ一つ見ていく中に、あの置物の猫と同じ形のキーホルダーがあった。
「すみません。これください」
すかさず聖が、店員に声を掛ける。
「え? ほんとにいいの?」
楓が目を丸くする。
「うん。楓がこれでいいなら」
聖がにっこり笑った。
「いい! これがいい!」
「ははっ。じゃあ、これで」
キーホルダーを摘み上げると、聖はそれを店員に渡した。
「ふふっ。お買い上げありがとうございます」
店員に笑われ、楓は俯き赤面した。
会計を済ませ、聖が商品を受け取る。
「それじゃ」
にこやかに挨拶し、立ち去ろうとする聖を「待って!」楓が止めた。
「すみません。これと同じ物をもう一つください」
「へっ?」
「もう一つ……ですか?」
聖と店員が、同時に声を上げる。
「はい。今度はあたしが……」
バッグから財布を取り出す楓を見て、「かしこまりました」店員が満面の笑みで答えた。
「えへっ。お揃い」
ランチに入ったイタリアンレストランで、二人はお互い買ったプレゼントを交換した。
「可愛い」
テーブルの上にクリスタルガラスの猫を二つ並べ、楓は満足そうに目を細めた。
琥珀色の瞳は一体しかなかったので、聖へのプレゼントは青い瞳のものにした。
「ありがとう。大事にするよ」
青い瞳の猫を指先でそっと撫で、聖は穏やかに微笑んだ。
「ううん、こちらこそ。こんなに楽しいクリスマスは初めて。誘ってくれてありがとう」
嬉しそうに楓が笑う。それを見つめる琥珀色の瞳が、柔らかく弧を描いた。
「ねぇ楓。このままずっと……」
聖が言いかけた時。
「お待たせいたしました」
目の前に置かれたカニクリームパスタの濃厚な香りが、聖の言葉を遮った。
「わぁ。美味しそう」
楓が瞳を輝かせる。
「そ、そうだね」
自分の前に置かれたミートソースパスタに視線を落とし、聖はふっと苦笑いした。
「いただきます」
聖がフォークを手に取る。
「そういえば……」
突如思い立ったように、楓がパッと視線を上げた。
「さっき、何言おうとしたの?」
「ふへっ?」
パスタを口に突っ込みながら、聖がおかしな声を上げる。
「何か言おうとしてたでしょ?」
「あ……、ん……」
無理矢理パスタを押し込み急いで咀嚼すると、「あとで」聖は紙ナプキンを一枚引き抜いた。
「その話は後にしよう。ほら、冷めちゃうよ」
口を拭きながら、聖は楓に食事を促した。
「ああ、うん。わかった」
腑に落ちない表情を浮かべるも、楓は立ち昇る湯気には勝てず、「いただきます」とカトラリーに手を伸ばした。
その後もいろんな店を見て回ったり、カフェでお茶をしたりしているうちに、あっという間に夕方になった。
「綺麗……」
黄昏色の街に、イルミネーションの明かりが灯る。
徐々に賑わう人波の中を、二人手を繋ぎゆっくり歩いていく。
「はぐれないようにね」
「うん」
自然と絡み合う指に、楓の胸は高鳴った。
そっと見上げた視線の先に、聖の穏やかな笑顔がある。
澄んだ瞳に、イルミネーションの青い光が煌めいていた。
「ん?」
楓の視線に気付いた聖が、小首を傾げてこちらを見る。
「なんか今日の聖、別人みたい」
「なんだそれ?」
変なの、と聖が笑った。
輝く瞳の中に、はにかむ楓の顔が映り込む。
――ずっと、この瞳の中に居続けることができたなら……。
琥珀色に染まる自分の姿を見つめ、楓はこっそり、そう願った。
「うわぁ……」
楓は思わず溜息を漏らした。
ガラス張りのショーケースがいくつも並ぶ店内は、ありとあらゆるガラス製品で埋め尽くされていた。
天井からぶら下がるシャンデリアにまで、クリスタルガラスが施されている。
指輪、ネックレス、時計、食器……。それら全てが、ショーケースの中でライトに照らされ、眩い光を放っていた。
「あった」
声を弾ませ、聖が楓の手をツンと引っ張る。
聖が指先で突いているショーケースの中に、先ほど店先で見た猫の置物があった。
「あ、ほんとだ。……って、待って。い、一万四千円!?」
「結構高いね」
「た、高いなんてもんじゃないよ! こんなの流石にもらえないよ!」
顔の前であたふたと手を振る楓に、別にいいのに、と聖が笑う。
「いや、もうちょっと小さい物にしよう。そうだ! 普段持ち歩ける物がいい」
「持ち歩ける物?」
「そう。例えば……」
ぐるりと店内を見回す。その目がレジ脇の一角を捉えた。
「あ! あれ! あれにしよう!」
ポンポンと聖の腕を叩き、楓は足早に聖を引っ張って行った。
「あはっ。可愛い」
それは、クリスタルガラスで作られた小さなキーホルダーだった。
動物や果物の形をしているキーホルダーが、アクセサリースタンドにいくつもぶら下げられている。
「そちら、結構人気あるんですよ。お値段も手頃ですし」
店員が笑顔でプレートを指し示す。値段表示は、二千八百円となっていた。
「あ、これ、あの猫ちゃん」
「ほんとだ」
一つ一つ見ていく中に、あの置物の猫と同じ形のキーホルダーがあった。
「すみません。これください」
すかさず聖が、店員に声を掛ける。
「え? ほんとにいいの?」
楓が目を丸くする。
「うん。楓がこれでいいなら」
聖がにっこり笑った。
「いい! これがいい!」
「ははっ。じゃあ、これで」
キーホルダーを摘み上げると、聖はそれを店員に渡した。
「ふふっ。お買い上げありがとうございます」
店員に笑われ、楓は俯き赤面した。
会計を済ませ、聖が商品を受け取る。
「それじゃ」
にこやかに挨拶し、立ち去ろうとする聖を「待って!」楓が止めた。
「すみません。これと同じ物をもう一つください」
「へっ?」
「もう一つ……ですか?」
聖と店員が、同時に声を上げる。
「はい。今度はあたしが……」
バッグから財布を取り出す楓を見て、「かしこまりました」店員が満面の笑みで答えた。
「えへっ。お揃い」
ランチに入ったイタリアンレストランで、二人はお互い買ったプレゼントを交換した。
「可愛い」
テーブルの上にクリスタルガラスの猫を二つ並べ、楓は満足そうに目を細めた。
琥珀色の瞳は一体しかなかったので、聖へのプレゼントは青い瞳のものにした。
「ありがとう。大事にするよ」
青い瞳の猫を指先でそっと撫で、聖は穏やかに微笑んだ。
「ううん、こちらこそ。こんなに楽しいクリスマスは初めて。誘ってくれてありがとう」
嬉しそうに楓が笑う。それを見つめる琥珀色の瞳が、柔らかく弧を描いた。
「ねぇ楓。このままずっと……」
聖が言いかけた時。
「お待たせいたしました」
目の前に置かれたカニクリームパスタの濃厚な香りが、聖の言葉を遮った。
「わぁ。美味しそう」
楓が瞳を輝かせる。
「そ、そうだね」
自分の前に置かれたミートソースパスタに視線を落とし、聖はふっと苦笑いした。
「いただきます」
聖がフォークを手に取る。
「そういえば……」
突如思い立ったように、楓がパッと視線を上げた。
「さっき、何言おうとしたの?」
「ふへっ?」
パスタを口に突っ込みながら、聖がおかしな声を上げる。
「何か言おうとしてたでしょ?」
「あ……、ん……」
無理矢理パスタを押し込み急いで咀嚼すると、「あとで」聖は紙ナプキンを一枚引き抜いた。
「その話は後にしよう。ほら、冷めちゃうよ」
口を拭きながら、聖は楓に食事を促した。
「ああ、うん。わかった」
腑に落ちない表情を浮かべるも、楓は立ち昇る湯気には勝てず、「いただきます」とカトラリーに手を伸ばした。
その後もいろんな店を見て回ったり、カフェでお茶をしたりしているうちに、あっという間に夕方になった。
「綺麗……」
黄昏色の街に、イルミネーションの明かりが灯る。
徐々に賑わう人波の中を、二人手を繋ぎゆっくり歩いていく。
「はぐれないようにね」
「うん」
自然と絡み合う指に、楓の胸は高鳴った。
そっと見上げた視線の先に、聖の穏やかな笑顔がある。
澄んだ瞳に、イルミネーションの青い光が煌めいていた。
「ん?」
楓の視線に気付いた聖が、小首を傾げてこちらを見る。
「なんか今日の聖、別人みたい」
「なんだそれ?」
変なの、と聖が笑った。
輝く瞳の中に、はにかむ楓の顔が映り込む。
――ずっと、この瞳の中に居続けることができたなら……。
琥珀色に染まる自分の姿を見つめ、楓はこっそり、そう願った。
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