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涙の施設実習
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「あーっ! 悪りぃっ!」
突然、背後で大きな声がしたかと思うと、続けてバイーン! とゴムが弾けるような音がした。
「ってぇ……」
「政宗っ! 大丈夫かっ?」
政宗が頭を抱え込む。振り返った視線の先には、先程までバスケットボールに興じていた三人の高校生が気まずそうに顔を見合わせていた。
どうやらパスを受け損なったボールが、政宗の頭に当たったらしい。
「お前が力任せに投げるから」
「いや、お前がちゃんと取らないからだろ?」
長身の少年とがっしり体型の少年が、小さな声でお互い罪をなすりつけ合っている。
「よし」
僅かに頷いたあと、政宗は、ボールが転がった方へとゆっくり歩を進めた。
隅に積まれたウレタン積木の陰からボールを取り出しドリブルすると、政宗は三人に向き直った。
「なぁ。俺も混ぜてくれよ」
一瞬の沈黙のあと。
「……できんのかよ?」
長身の少年が片方の眉を吊り上げ、政宗を頭のてっぺんから足の先まで値踏みするように眺めた。
「ああ。これでも中高バスケ部だった」
「マジか?」
色黒でがっしりとした体型の少年が、大きな瞳を丸くした。
「試してみるか?」
ニヤリと笑うと政宗は、ドリブルしたまま三人の方へと突き進んだ。
政宗に反応し、色黒の少年が向かってくる。闇雲に両手を振り回しているところを見ると初心者のようだ。相手が右手に気を取られている隙に、政宗はくるりと回転し、左側から前方へと抜けた。
「くそっ!」
背後から、悔しそうな声が飛んできた。
次の相手は、先程政宗に「邪魔」と言った、狐顔の少年だ。
左右に揺さぶりをかけるも、相手は細身の身体を活かし、しつこく食らいついてくる。
両者睨み合ったまま、暫くお互いの様子を伺う。
政宗の視線が左に動いたその瞬間、少年の身体が左側へと傾いた。その僅かな隙をつき、政宗は素早く右から前に踏み込んだ。
チッという舌打ちを背に受け、政宗は一気にゴール下へと走った。
「させねぇ!」
政宗の前に立ち塞がったのは、百八十センチは優にあるであろうニキビ面の少年だ。最後の砦とばかりに両手を上げ、上から覆いかぶさるように政宗を威嚇する。
下から抜けようとするも、なかなかどうして相手も俊敏についてくる。
右へ左へと何度か繰り返したあと、急に政宗が一歩下がった。
「しまっ……!」
少年が体勢を整えるより早く、政宗が勢いよく踏み切った。
「高い!」
色黒の少年が叫ぶ。
政宗の手から放たれたボールは、十センチ近くもある身長差を楽々飛び越え、ゴールリングの中へと吸い込まれていった。
ポスっという小気味良い音が、静まり返った運動場に小さく響く。
「すげぇ……」
狐顔の少年が、小さく息を漏らした。
「お兄ちゃん、かっこいい!」
茜が瞳を輝かせ、小さな両手を夢中で打ち鳴らした。
「政宗、やるじゃん!」
聖が大声で叫んだ。
二人に親指を立てて応える政宗に、「おい」長身の少年が声を掛けた。
「お前、すげぇな」
「お前じゃなくて、政宗な。緑川政宗」
「それ本名? かっけぇ」
色黒の少年が、政宗に羨望の眼差しを向けた。
「俺は勇生。で、こいつは龍馬」
龍馬と呼ばれた色黒の少年が、肩を竦めながら、恥かしそうに頭を下げた。
「で、こっちは隼太」
狐顔の少年が、無表情のまま頭を下げた。
「俺と龍馬は高三。隼太は高二」
「そっか。よろしくな」
政宗が差し出した右手を、勇生の大きな右手がしっかりと掴む。それを見て、龍馬と隼太も順に握手を交わした。
「んじゃ、せっかく四人いることだし、軽く試合でもすっか」
勇生が声を掛けると、「いいね」と龍馬が笑顔で答えた。
「あ、聖どうする?」
政宗が聖に呼び掛ける。
「俺はパス。茜ちゃんと見てるよ」
ね、と笑いかける聖に、うん、と茜が笑顔で頷いた。
「おい、早くやろうぜ。政宗」
少し苛立ちながら、勇生が掌にボールを打ち付ける。
「いきなり呼び捨てかよ」
片方の眉を持ち上げ、政宗が引きつった笑みを浮かべた。
「細かいことは気にすんな」
龍馬が政宗の肩を叩く。隼太が、僅かに口の端を持ち上げた。
「ま、いっか」
三人の顔を順に見回すと、「手加減しねぇからな」政宗が、悪戯っぽく笑った。
突然、背後で大きな声がしたかと思うと、続けてバイーン! とゴムが弾けるような音がした。
「ってぇ……」
「政宗っ! 大丈夫かっ?」
政宗が頭を抱え込む。振り返った視線の先には、先程までバスケットボールに興じていた三人の高校生が気まずそうに顔を見合わせていた。
どうやらパスを受け損なったボールが、政宗の頭に当たったらしい。
「お前が力任せに投げるから」
「いや、お前がちゃんと取らないからだろ?」
長身の少年とがっしり体型の少年が、小さな声でお互い罪をなすりつけ合っている。
「よし」
僅かに頷いたあと、政宗は、ボールが転がった方へとゆっくり歩を進めた。
隅に積まれたウレタン積木の陰からボールを取り出しドリブルすると、政宗は三人に向き直った。
「なぁ。俺も混ぜてくれよ」
一瞬の沈黙のあと。
「……できんのかよ?」
長身の少年が片方の眉を吊り上げ、政宗を頭のてっぺんから足の先まで値踏みするように眺めた。
「ああ。これでも中高バスケ部だった」
「マジか?」
色黒でがっしりとした体型の少年が、大きな瞳を丸くした。
「試してみるか?」
ニヤリと笑うと政宗は、ドリブルしたまま三人の方へと突き進んだ。
政宗に反応し、色黒の少年が向かってくる。闇雲に両手を振り回しているところを見ると初心者のようだ。相手が右手に気を取られている隙に、政宗はくるりと回転し、左側から前方へと抜けた。
「くそっ!」
背後から、悔しそうな声が飛んできた。
次の相手は、先程政宗に「邪魔」と言った、狐顔の少年だ。
左右に揺さぶりをかけるも、相手は細身の身体を活かし、しつこく食らいついてくる。
両者睨み合ったまま、暫くお互いの様子を伺う。
政宗の視線が左に動いたその瞬間、少年の身体が左側へと傾いた。その僅かな隙をつき、政宗は素早く右から前に踏み込んだ。
チッという舌打ちを背に受け、政宗は一気にゴール下へと走った。
「させねぇ!」
政宗の前に立ち塞がったのは、百八十センチは優にあるであろうニキビ面の少年だ。最後の砦とばかりに両手を上げ、上から覆いかぶさるように政宗を威嚇する。
下から抜けようとするも、なかなかどうして相手も俊敏についてくる。
右へ左へと何度か繰り返したあと、急に政宗が一歩下がった。
「しまっ……!」
少年が体勢を整えるより早く、政宗が勢いよく踏み切った。
「高い!」
色黒の少年が叫ぶ。
政宗の手から放たれたボールは、十センチ近くもある身長差を楽々飛び越え、ゴールリングの中へと吸い込まれていった。
ポスっという小気味良い音が、静まり返った運動場に小さく響く。
「すげぇ……」
狐顔の少年が、小さく息を漏らした。
「お兄ちゃん、かっこいい!」
茜が瞳を輝かせ、小さな両手を夢中で打ち鳴らした。
「政宗、やるじゃん!」
聖が大声で叫んだ。
二人に親指を立てて応える政宗に、「おい」長身の少年が声を掛けた。
「お前、すげぇな」
「お前じゃなくて、政宗な。緑川政宗」
「それ本名? かっけぇ」
色黒の少年が、政宗に羨望の眼差しを向けた。
「俺は勇生。で、こいつは龍馬」
龍馬と呼ばれた色黒の少年が、肩を竦めながら、恥かしそうに頭を下げた。
「で、こっちは隼太」
狐顔の少年が、無表情のまま頭を下げた。
「俺と龍馬は高三。隼太は高二」
「そっか。よろしくな」
政宗が差し出した右手を、勇生の大きな右手がしっかりと掴む。それを見て、龍馬と隼太も順に握手を交わした。
「んじゃ、せっかく四人いることだし、軽く試合でもすっか」
勇生が声を掛けると、「いいね」と龍馬が笑顔で答えた。
「あ、聖どうする?」
政宗が聖に呼び掛ける。
「俺はパス。茜ちゃんと見てるよ」
ね、と笑いかける聖に、うん、と茜が笑顔で頷いた。
「おい、早くやろうぜ。政宗」
少し苛立ちながら、勇生が掌にボールを打ち付ける。
「いきなり呼び捨てかよ」
片方の眉を持ち上げ、政宗が引きつった笑みを浮かべた。
「細かいことは気にすんな」
龍馬が政宗の肩を叩く。隼太が、僅かに口の端を持ち上げた。
「ま、いっか」
三人の顔を順に見回すと、「手加減しねぇからな」政宗が、悪戯っぽく笑った。
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