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第八章
最後のピース(六)
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「結局、私たちは離婚した。あの人が、そうするのが一番いいって。私も凛太朗も、全てをリセットする時間が必要だって……。あの人、笑ってた。『大丈夫。俺はいつまでも待ってるから』って……」
時折吹く風が、大きく開けた窓の中まで雨粒を運んでくる。
凛太朗はゆっくり立ち上がると、窓の傍まで歩み寄った。
瞬間。
凛太朗の脳裏に、あの日の映像が鮮やかに蘇った。
弧を描きながら地面を這う青い傘。
大きなクラクションの音。
母の悲鳴。
自分の名を呼ぶ父の声。
激しく降る雨の音。
血を流し横たわる、一匹の猫……。
「僕の……。僕の……せいだ……。全部、僕の……」
「凛太朗!」
頭を抱えてその場にうずくまる凛太朗の背中を、母親が優しく抱き締めた。
「大丈夫。凛太朗のせいなんかじゃない。誰のせいでもない。そうなる運命だったのよ。仕方がなかったのよ」
「でも、僕が……、僕があの時わがまま言わなかったら……。家で大人しく父さんの帰りを待っていたら……。マルは……。僕が死ねば良かったんだ。マルの代わりに……!」
「馬鹿!」
力強い腕で凛太朗を抱き起すと、母親は息子の肩をしっかりと掴んだ。
「あんたって子は、一体何考えてるの?」
「だって……。だって……」
自然と母親の手に力がこもる。
「あの時、マルが何を思っていたかわかる? マルは、あなたを助けたかったのよ。マルにはきっとトラックが見えてた。その先の未来もきっと。だから私の腕をすり抜けて、あなたのもとに走ったの。大好きな、あなたのもとに……」
「そんなこと……」
「ううん。私にはわかるの。あの時、マルは私の腕を思い切り蹴ったの。物凄い力で。そして、一直線にあなたを追いかけた。あれは偶然なんかじゃない。マルが……。マルが自分の意思で……」
そこまで言うと、母親は息子を抱き締めた。
抱き締めながら、大きな声を上げて泣いた。
凛太朗の耳に、雨音に混じって猫の鳴き声が響いた気がした。
「マル……」
二人は、いつまでもいつまでも泣き続けた。
失った想いも、深く刻まれた傷跡も、降り続く初夏の雨に全て静かに包み込まれていった……。
時折吹く風が、大きく開けた窓の中まで雨粒を運んでくる。
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瞬間。
凛太朗の脳裏に、あの日の映像が鮮やかに蘇った。
弧を描きながら地面を這う青い傘。
大きなクラクションの音。
母の悲鳴。
自分の名を呼ぶ父の声。
激しく降る雨の音。
血を流し横たわる、一匹の猫……。
「僕の……。僕の……せいだ……。全部、僕の……」
「凛太朗!」
頭を抱えてその場にうずくまる凛太朗の背中を、母親が優しく抱き締めた。
「大丈夫。凛太朗のせいなんかじゃない。誰のせいでもない。そうなる運命だったのよ。仕方がなかったのよ」
「でも、僕が……、僕があの時わがまま言わなかったら……。家で大人しく父さんの帰りを待っていたら……。マルは……。僕が死ねば良かったんだ。マルの代わりに……!」
「馬鹿!」
力強い腕で凛太朗を抱き起すと、母親は息子の肩をしっかりと掴んだ。
「あんたって子は、一体何考えてるの?」
「だって……。だって……」
自然と母親の手に力がこもる。
「あの時、マルが何を思っていたかわかる? マルは、あなたを助けたかったのよ。マルにはきっとトラックが見えてた。その先の未来もきっと。だから私の腕をすり抜けて、あなたのもとに走ったの。大好きな、あなたのもとに……」
「そんなこと……」
「ううん。私にはわかるの。あの時、マルは私の腕を思い切り蹴ったの。物凄い力で。そして、一直線にあなたを追いかけた。あれは偶然なんかじゃない。マルが……。マルが自分の意思で……」
そこまで言うと、母親は息子を抱き締めた。
抱き締めながら、大きな声を上げて泣いた。
凛太朗の耳に、雨音に混じって猫の鳴き声が響いた気がした。
「マル……」
二人は、いつまでもいつまでも泣き続けた。
失った想いも、深く刻まれた傷跡も、降り続く初夏の雨に全て静かに包み込まれていった……。
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