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第四章

凛太朗の心の奥(七)

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「柊さん?」
「え?」
「どうしたんですか?」
「何が?」
「そんなに残念でしたか? マルじゃなかったこと」

「え?」

 頬の冷たさに気付き、凛太朗は指の腹でそれを拭った。

「涙? え? 何で?」
「まさか、私の為に? ……じゃないですよね」
「いや、これは、その……。何で?」

 凛太朗は流れる涙を両手で拭った。
 止めどもなく溢れるこの感情を、凛太朗は抑えることができなかった。

「何か、辛い記憶でも?」
「いえ……。いえ……」

 涙は枯れることのない泉の如く、次から次へと溢れ出し、凛太朗の頬を伝って流れ落ちていく。

 止めようとすればするほど、その意思に抗うように心の底から感情が噴き出してくる。

 千切れんばかりの胸の痛みが、凛太朗の理性を引き裂いた。

「ううっ……」

 嗚咽が、胸の深い所から湧き上がる。

「柊さん……」

 いつの間にか隣に来ていた柏原愛の手が、凛太朗の髪にそっと触れた。

 自然と凛太朗の身体が傾く。その身体を柏原愛の両腕が、ふわりと包み込んだ。

「うっ……。えっ……」
「いいんです。大丈夫です。大丈夫ですから……」

 柔らかなフローラルの香りに包まれながら、凛太朗はまるで子どものように泣きじゃくった。

 一度噴き出してしまった感情は、もはや誰にも止めることはできない。

 凛太朗はもう足掻くのをやめた。

 優しく、暖かい、どことなく懐かしいようなこの感触に包まれながら、凛太朗は泣き続けた。

 窓を叩く雨の音がひと際大きく騒めき、凛太朗の嗚咽をかき消していく。
 まるで二人の姿をかくまうかのように、滝と化した雨の雫が、幾重にも窓ガラスを覆った。

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