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第三章

うちのマル知りませんか?(四)

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 アパート四棟、マンション二棟、それに戸建住宅を幾つか回ると、あっという間に約束の三時となった。

 やはり平日の昼間に在宅している人は少ない。それでも何軒か話を聞くことはできた。
 だが、有力な情報を手に入れることはできなかった。
 既に遠くへ行ってしまったのか。はたまたどこか人目につかない場所に隠れているのか。それとも……。

 あれこれ思案しているうちに、凛太朗はいつの間にかアミティエ瀬谷の前に来ていた。  
 柏原愛の姿はまだ無い。

 生垣の縁に腰かけていると、後ろから聞き覚えのあるソフトな低音で名前を呼ばれ、凛太朗は後ろを振り返った。

 そこには、人のよさそうな大黒天――アミティエ瀬谷の管理人が立っていた。

「はい、お疲れさん」
「ありがとうございます」
 立ち上がってグラスの一つを受け取ると、凛太朗は深く頭を下げた。

「あれ? あのお嬢さんは?」
 ぐるりと視線を走らせ、管理人は不思議そうな顔をした。
「ああ、手分けしてチラシを配っているので、まだ終わっていないんだと思います」
「そうか。ご苦労なことだね」
 座るよう促しながら、管理人も凛太朗の隣に腰かけた。

「付き合ってんのかい?」

「はい?」

 もう一人に渡すつもりのグラスを隣に置きながら、管理人は意味ありげに凛太朗に笑いかけた。

「ま、まさか! 違いますよ! 僕は探偵で、彼女は依頼人で、いなくなった飼い猫を探すよう頼まれて……! ただそれだけです!」

 慌てふためく凛太朗に、管理人は「ほっほっほっ」とサンタクロースのような笑い声で答えた。

「いいねえ。若いもんは」

「だから、違いますって!」

 良く冷えたウーロン茶をゴクゴクと勢いよく飲み干すと、凛太朗は右手の甲で額の汗を拭った。

「じゃ、これ、彼女が来たら」
 冷えて水滴の付いたもう一つのグラスを凛太朗に手渡すと、「飲み終わったら管理人室のカウンターにでも上げといて」と優しさに少し悪戯っぽさを混ぜたような笑顔で、お茶目な大黒天は手を振りながら戻って行った。
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